騎士は見た
80話だぁ!!
今回はほのぼのまったりですぅ
『日落ちる騎士』ユーリィ
音が聞こえる。
目の前が真っ暗で何も見えない。
身体の自由もないし…異能も使えない。
縄か?それとも手錠か。
手を揺する。カサカサとした乾いた音、どうやら前者らしい。
ゴソゴソ…。
きぬ擦れの音だと遅れて理解する。
鼻に匂うのは仄かな草の匂いと…柑橘のふわりとした甘い香り。
それと…生活臭?
何かが裂ける音…?
僕は裂かれるのか?
見知った顔が八つ裂きになる光景を想像し、眩暈を覚えた。
しかし、広がるのは相変わらず柑橘の香りで…。
蜜柑でも食べてるのか?
一度思うともう、そう。
『おこた』で蜜柑を啄む姿が見えるようだ。
きぬ擦れの音と言いオールクリアではある。
が…あり得るのか?
「なぁ大将。ユリ男は放置で良いのか?」
「蜜柑くらい黙って食え」
「……」
誰がその場に居るのか、誰が何をしているのか。
僕がどうなっているのか
良く、分かった。
ケイイチロウと杉原魔王が『おこた』に入って蜜柑を本当に食べてる。
僕は発狂してから気絶してこの団欒を前に放置をきめこまれているようだ。
…少々意味がわからない。
「ご馳走でした、大将」
「お粗末様だ」
「俺もご馳走になったぜェ?」
僕を放置しながらほのぼのしているこの殺戮者共。
何なのだ?まるで殺戮が生活のような…何でもない日々の一ページであるかのような振る舞い。
許し難い。
人を何だと思っているのか。
口をモゴモゴと無様に動かす。
口にも布がしっかりと噛ませられ何も出来ない。
ーと、不意に視界が開けた。
どうやらケイイチロウが外したらしい。
案の定和室が見えた。
『おこた』が中央に鎮座しているが普通の和室だ。
『おこた』には三つ、剥かれた蜜柑の皮が放置されている。ケイイチロウと魔王、それとあと一人いるのか…将又ケイイチロウか魔王が二つ食べたのか。
何にしろ殺戮者共が集まるには相応しくない場所に見える。
「緑茶、ほうじ茶、煎茶、どれが良い?」
そうフェードインしたのは魔王だった。
相変わらず目線の高さは低く座っている僕が僅かに顔の角度を変えるだけで視線がかち合う。
五年もすれば背が伸びると思ったが彼に限ってはそうではないようだ。
だが雰囲気はやけに大人しい。
いや、大人びている。
伸びっぱなしの髪は若干短く切りそろえられており何となく色気が出ている気がする。
もう、彼を女の子と間違う人は居ない…居そうだ。
目はーそれこそ一般人のそれだ。
優しげに細められた目はもう仄暗い色彩を灯す事はないのだろう。
何かがおかしい。
「…ほうじ茶を頼む」と短く返す。
我ながら太い神経だと賛嘆せずにはいられない。
敵地に単身。
飲み物を選ぶ。
これは偉く高度な事な気がする。
それに、僕は一刻も早く冷静に、落ち着きたい。
だから敢えて傲慢に振る舞う。
相手がイニシアチブを握るならばせめてもの強がりたいのだ。
毒を食らわば皿までも、だったか。
「…お前太いな。分かったほうじ茶だな」
「饅頭も頼む」
「へいへい」
仕方ないと言う風にやる気なく魔王は和室から出る。
「にしても、…ここは…」
「あァ?見てないのかァ?ここは呪怨領域、魔王荘だァ」
今度フェードインしたのは美女だった。
が、吐いた言葉の意味にのめり込んだせいで頭にその姿が入らない。
魔王荘…?
魔王荘…?
リフレインする。
世界の終末には似合わない暖かな日の光、眠気を誘ううららかな風。
何かがおかしい。
僕は…狂ったのか?
狂った果てに見た白昼夢がこれか?
僕にはもう分からない。
私にしては珍しい完全ほのぼの回ですが…如何だったでしようか?




