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終末を迎えたその後で

『唖然』杉原清人


「なっ!?」


そこには文明の跡すら無かった。

あるのは砂塵舞う不毛の大地のみだ。

あの爆破スイッチを押したらアルクィンジェは消滅、俺の心象解放状態は強制解除され、文字通り事態に終末が訪れた。


「…ティア・マティナ。何者なんだよ…」


一人呟く。

だが、心象解放状態が解除されたのは大きい。

あのままでは魔獣よりタチの悪い悪性生命体に成り果てていただろう。

それに…。


時任。リリップを追放したペイラノイハの神の下僕。

あいつが手をこまねいたままでいる訳がない。

その場合、俺は間違いなく死んでしまうだろう。


安堵を感じた。

俺の生存に。


同時に安堵を感じる俺が俺は大嫌いになった。


死んだリガルドやリリップを見て生じた哀しみは終末の安堵に上書きされる位のものでしか無かった。


その薄情さ。


「……くっ」


力無く膝をつく。

自分の無力を嘆きながら悪鬼のような形相で空を睨み付ける。


違う、ただ涙を堪えているだけだ。

そんなに高尚で程度の良い物ではない。


「う…ぅ…ぅぅっ」


無様に鼻水を垂れ流す。

涙腺は決壊していた。

もう、自己嫌悪のまま、泣き叫び、泣き喚き、朽ち果てるまで哀しみを現すしかないのだ。


「ふざける、な…ふざげるなぁ!!」


「畜生!このぉ、クソったれぇ!!」


「死ね!死ね!死ねよぉ!」


どれだけ悪罵を吐こうともそれを聞く人はいない。

慰めてくれる幻想も、側から消えてしまったのだから。


「よォ、浮かねえ顔だなあ清人ォ」

「……」


一仕事終えたとでも言うように件の美女は現れた。


「あァ?俺の滅多に出来ないとっておきを見せてやったんだァ、少しは喜べェ」

「……」

「しょぼくれんのは分かるゥ。けどよォ、この世界は滅ぶんだぜェ?アルクィンジェの一件で決定的に因果律が揺らいだァ。この世界はもってもあと十年やそこいらで滅びるゥ。滅びたら終わりだァ、滅びたら皆んな死ぬゥ。その点、今回はこの程度の被害で収まったのは重畳だったなァ」

「重畳…?」

「あァ、そうだァ」


これは、きっと間違いだ。


少数を切り捨て、多数を救う、なんて。


でも、そんな汚らしいヒロティシズムでも俺は…悲しいかな、立ち上がれた。

立ち上がれてしまった。


「知恵の盃…いや、ティア・マティナ。対価を支払う」

「ほうゥ、良い顔じゃねぇかァ。それで、何がお望みだァ」



「全てを語れ」

「ハッ!強欲だなあ清人ォ!ならその対価は……」




それは逃げ道を消す言葉。

常に冷徹であり、非情に目的を達成する為の名前。




「それで良い。なってやるよ」



「ようこそォ、俺の魔王ゥ。俺はテメェの誕生を祝福するゥ」



俺は魔王になっても最愛の少女を求め続ける。


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