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例えば、俺たちが青春を演じるならば

ほのぼーの

『??』杉原清人


暖かな春風に誘われてつい微睡んでしまったようだ。

俺が中学生となって夏が来た。

勿論、智人と一緒に中学生をやっている。

俺は文庫本を片手に智人の部活待ちをしていたんだっけ。

下校時刻を迎えガラリとした教室は静謐としていて黄金に染まる光の部屋のような不可侵の美しさがあった。


寝すぎたせいか頭がズキズキと痛む。

とー俺をじぃっと覗き込むような視線に気付いた。

アーモンド型の形の良い瞳と長い睫毛が視界に映り込む。

視線をズラせば若干汗ばんだ白いうなじが触れそうな程近くにある。


昇藤ノボリフジか」

「うん、清人。よく寝れた?」


この少女は昇藤 扇。

確かーそう昇藤は藤の花に似てて。

ルピナスだったか?

全く、家が花屋だと余計な知識ばかりつく。

自身の体を見て溜息を一つ。

男子に似つかわしくない華奢な体だ。

体育は得意だけど男子としての視線より愛玩動物に向けるような視線を向けられてしまう。

背が低いのが恨めしい。

カルシウムを摂ろうと煮干や牛乳を毎日貪っているというのに…。


そんな事御構い無しにニコニコと微笑む彼女。

彼女は俗に言う幼馴染だ。

だからかずっとこちらを見てくる。

授業中ですらチラチラと恥ずかしげもなく見てくる。


こんなのだからモテるのに彼氏の一人も出来ないんだ。


いつも通りワシャワシャと頭を撫でると嬉しげに目を細めて身を委ねる。

汗ばんだ頭皮だが何だか柔らかな匂いがして…何だか他の男子に申し訳なくなって罪悪感でチクリと胸が痛んだ。


「相変わらずイチャついてんなキヨ!」


頬に人工芝を付けた智人がヌゥっとフェードインしてきた。


「からかうなよ海苔。扇が嫌がるだろ」

「実の兄に海苔とは余程馬鹿にしてると見えるなぁ!キヨ!」


扇を見るとー顔を赤らめてモジモジとしている。

熱…はこんな場面で出るのはあり得ないし、もしかして本当に気があるのか?


「っ!?」


俺と、俺と扇が付き合ったら…。

いっぱい撫でて、身を寄せ合って。

それで、恋人にだけ許されたあんな事やこんな事を…。


いや、自意識過剰は止そう。

第一幼馴染を不埒な目で見ていると知られればきっと嫌われてしまう。


「キヨ、一緒に帰ろ?」


上目遣いに見つめられたらばもう堪らない。


荷物を即座に纏めてそっぽを向きながら一言、消え入りそうな位か細い声でで「帰るか」と言うと。

相変わらず素直じゃないと笑い合う声が聞こえた。


うるさいやい。


◆◆◆


帰宅中、その人とすれ違った。


「平塚さん、こんにちは」


智人が折り目正しく挨拶する。

海苔の癖に。今度佃煮にでもしてやろうか。


「あらこんにちは。今下校?」

「はい」


あらあら、海苔め鼻の下伸びてるぜ。


この人は平塚さん。保育園の先生だ。

因みに海苔が鼻の下を伸ばしていたのは圧倒的なボリュームの胸のせいだ。かく言う俺もついつい目で追ってしまう。


「…胸、大きい方が良いのかな」

「んにゃ、あれは男のサガだ。扇も十分可愛い…と、俺は思うぞ?」


半ばから声が震えてしまった!

何たる失態!!


するとひょいと猫のような俊敏な動作で俺の左腕に絡み付く。


「こら、絡むなって!」


自然と表情が綻ぶ。我ながら素直じゃない。

拒否は親愛の裏返しだからか。


「そう言えば雉谷ちゃんは?」


扇が口を開く。


「あの子でしたら…」

「おにいちゃん、おかえり」

「おう!ただいま!」


黄色い利発そうな兎が跳ねている…じゃなくて雉谷 筵が智人と戯れていた。


「何だか、皆んな勢揃いだな」

「そうだね」


何だかゆったりとした気分になる。


全く、青春ってやつは…。






つくづく反吐が出る。



次の瞬間、扇は消え去り。

智人は爆散して轢き潰されたトマトのように赤いシミを残し。

平塚は遠のき。

雉谷は灰すら残らない位に消し飛ぶ。


こんな未来、絶対に来ない。


こんな優しい世界なんて要らない。


力が欲しい。


あの下衆野郎を永遠に苦しめるような力が。


もっと可能性を削ぎ取ろう。

その分だけきっと俺は強くなれる。


潰せ、潰せ潰せッ!!!


俺に絵空事は要らない。

俺に甘ったるい葡萄は要らない。


俺が欲しいのは堕ちて踏み潰された果汁の代わりに現実の詰まった枯れた一房だ。


酸っぱい葡萄すら俺には不要だ。



そしてー。



二つだけが残った。


二つだけの可能性。


俺はそれに手を掛けー。



「機械仕掛けの終わり(デウス・エクス・マキナ)は壊れねぇぞォ」


彼女と出会った。

概知のその人物はー。


「この姿だと初めまして、かァ。生命の終点にして始点。機械仕掛けの終わりを齎す廃棄された神ィ」



「ティア・マティナ。手間の掛かる餓鬼に終末の提案をしに来てやったぜェ?」


ティア・マティナと名乗った。


と、思ったかな?

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