こくはくしたよ
「側に居させて」
なんて甘美な響きだろう。側に誰かが居てくれること程安心な事は無い。
…いや、違うだろ。そうだよ、俺はこれでも男。こう言う事は俺が先に言うべきだった。下らない意地を張らずに一言付いて来て欲しいと言えば良かったのだ。
俺は生まれなかった性質上何事にも経験が乏しい。俺が経験したのなんて戦闘と殺戮くらいなもの。その過程のなかで俺は自分の気持ちを見失いーこんな風になってしまった。
ルピナスとなら問い直せるだろうか?
間違ってしまった俺は変われるのだろうか?
その答えはまだ分からない。
けれどルピナスが好意を持って俺を迎えてくれるのなら俺は…。
エンヴィー・メランコリアの最適解は…!
「ルピナス」
「何?」
「俺から離れないで欲しい。独りは、寂しい」
全く、よく分からない敵さんの陣地でこんな事を言うなんてなんて馬鹿なんだろう。
「喜んで」
けれど、彼女は俺を受け入れてくれた。
俺はただただ歓喜に打ち震え滂沱の涙を流した。そして俺の頭にルピナスの白い手が触れ彼女の熱い位の体温が伝わる。
「あなたは頑張ってる。頑張り過ぎてる。でも私がずっといる」
「ルピナス?」
滅茶苦茶な風景を背にしたルピナスの姿は静謐さと慈愛を感じさせまるで本物の女神のようであった。このまま、眠れたらどれだけ幸せだろう。けれど彼女は俺の側に居ると言った。なら先ず俺が進まなければそこには怠惰な停滞しか残らない。それはきっと間違いだ。
多分、俺は幸せになれる。けど肝心のルピナスはきっと幸せにはなれない。ならば進まねば。
「メランコリア、顔赤い」
俺は踵を返す。
「た、探索を続ける。付いて来てくれ」
俺は歩き始める。彼女曰く赤い顔を向けないように。…泣いたから目元も赤く腫れている事だろう。なんと締まらない。
それにきっとバレているのだろう。だってルピナスは全てを見透かしたようクスクスと微笑んだのだから。
「付いていく」
天地蠱毒を元のデスサイズに戻し俺たちはこの狂気じみた空間の奥に進んで行く。コツコツと残響を残して。