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魔族の証

『損耗』杉原清人


目が、覚めた。

ここはどこだろう。と言っても見慣れない天井がある訳でもなし。

黄死筵邸のベットの上のようだった。

ただ、疑問は残る。俺はどうしてここに居るのだろうか。


確かアルクィンジェに刺された時にリリップがアルクィンジェを撃退して、それから…。

そうだ、眠ってしまったのだ。

何て事だ情けない。


っとーそう言えば俺の左腕…は。


目を疑った。


何もない。


あのギョロギョロとした怪物じみた眼球も、酷い火傷の痕のような悍ましい肌の色も無かった。

健康的、とは言わないが中性的でほっそりとした白い腕がそこにはあった。


おいおい。どうなってるんだ?


包帯を巻かれた様子は無い。

じゃあ、背中からザックリと斬られた傷は?

これもない。


「知恵の盃、何が起きた」

「あァ?知らねえよォ。テメェが起きてる間が俺の活動時間だァ。テメェの意識の無いうちの出来事なら俺も知らねぇんだよォ」


意外だな。

ずっと活動…稼働?していたのかと思ったが違うのか。


さて、動けるなら動きたい。

リリップにも事の顛末を聞きたいしな。


動くか。


部屋を出るとロビーに行き…困った。

前回、気絶したリリップを放置しただけあって配置が全く分からない。


「クソ広いなァ」

「だな」


一々ノックをするのが面倒だな。

そろそろ省いても大丈夫だろうか。


部屋の探索も中盤に差し掛かり、そのドアを開けたときだった。


「!!?」


リリップが着替えていた。

勿論一糸纏わぬ姿ではなく下着姿だ。

生憎幼女に欲情するような趣味は持ち合わせてはいないし、俺はルピナス一筋だ。浮気など以ての外。

だが、問題はそこではない。

顔の半分が骸骨になり、煌めくような黄色の髪は黄色の花弁に変わっていた。


急いで部屋を出る。


異世界にはアンデットがいるというがもしやリリップがその類いだったか?


「知恵の盃、あれは…」

「テメェも大体察してるだろォ?恐らくは魔族が魔族たる所以ってやつだろうよォ」


リリップの爪が鉤爪に変わったのを俺は見た。


「テメェも経験したから分かるだろうがァ」

「俺も?」


そう言えばアルクィンジェに刺された時に体が裂けて内容物が噴出するように。圧倒的なまでの愉悦と狂気が俺を覆い尽くした。


「あの時のテメェは悪魔だったァ。あァ、真性の悪魔だァ。角は曲がり、蝙蝠の羽根があるわ、瞳孔は縦に裂けるわ、極め付けには頬に口がもう一つ付くときた!!なぁ、テメェ本当に人間かァ?」


そうなのか?

記憶がないのが悔やまれる。

ただ、話を聞く分には額面通りの悪魔ではなく正気を削り取る悪魔だと推測出来る。


魔族、か。


コンコン。


リリップがドアをノックした。

ドアを開けると…いつものリリップがいた。透き通るような白い肌は全体に及んでおり、うん、美幼女だ。


「事の顛末を聞きたい」


けれど、そんな事を気にせず無粋を装う。

彼女の姿はきっと触れられたくない話題だろう。

それを聞くのは多分駄目だ。

傷を抉るのは敵だけで充分。


「聞かないんだね。お兄ちゃん」


ああ、そうか。

失念していた。リリップはどういう訳か心を読める。なら…上から目線で気遣う振りをしたのが恥ずかしいな。

全く、どんな羞恥プレイだろうか。


「優しいのね」

「別に優しいなんて事はない」

「テメェは潔癖過ぎだってのォ」


さらっと紛れ込むなよ、知恵の盃。


「…で、アルクィンジェはどうなった?」

「私が殺したよ」

「そうか…」


あのときアルクィンジェを鉤爪が貫いたのは見えたが、実際に聞けば何だか安心する。


事の顛末は聞けた。

もうお暇するとしようか。


「待ってお兄ちゃん」

「何だ?」

「…心象解放の特訓しない?」

「心象解放?」


未知なる単語に心が踊るのが分かった。

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