聖別の天使
良いお年を
年越しだしハッピーなお話を。
『客人』杉原清人
夜が明けた。
暗い帳は消え去り黎明が覆いつくす。
陽光が照らし出すのは黒々とした隈。
そう、俺だ。
眠れなかった。わざわざここに来た意味とは何なのやら。甲斐無しだ。
だが、結論は出た。
考るだけ無駄。それが導き出された答えだ。
寧ろ考えて分かるくらいなら他の諸々も既にどうにかなっている。
と、まぁ無断でお泊まりした訳だが…。リガルドめ、何て所を勧めたんだか。後でまたスピリタスとタバスコの酒でも飲ませよう。
そう決意しながら黄死筵邸を後にする。
眠い。欠伸を噛み殺し代わりに体を伸ばすと低身長からか何やら微笑ましいものを見る目に晒されてこそばゆい。
…本当に左腕を気にしている様子はない。
不思議だ。
「清人ォ、知恵の盃の回収はパスするのかァ?意外だなァ」
いきなり知恵の盃が声をかけて来た。
声をかける、と言うか頭に響く、と言うか。
まぁ、そこいらは瑣末な話だ。
態々知恵の盃が聞いたからには答えてやらないとな。
「相手がクズならいざ知らずだけど流石に強制的に気絶させた引け目もある。その上知恵の盃を奪うのは偲びない」
「テメェ、義理堅いのかゴミなのか釈然としねえなァ。おいィ」
「馬鹿だな、俺はゴミだよ」
「分かった、テメェ潔癖だなァ?ま、悪くはねぇかァ」
俺が潔癖?何の冗談だろうか。
あれだけ血生臭い経歴を辿りながら潔癖と言うならそれは目が節穴だと言わざるを得ない。
「やっぱテメェは餓鬼だよォ」
何の脈絡も無しにー唐突にそんな事言うから勘違いするんだろうが。
全く、その事を自覚しているのだろうか。
「訳わかんない事を言うなよ」
咎めるような口調で言い放つ事で溜飲を下げる。我ながら安っぽいプライドだこと。
さて、ここからどうしようか…。
その時、大地が揺れた。
コーラの缶を振り回した後にプルタブを開けた時のように急速な反応だった。
地震か?
にしては作為的な禍々しさを感じる。
これは一体…。
「ルェディィィスエェェェェェンッッジュェントルメェェェェン!!!」
鴉のような黒くてボサボサした髪、異様に大きな口、モノクルを掛けた赤と緑のオッドアイ。翻る白衣は煤け、綻び見すぼらしい。
何だ、コイツは。
いや、少なくとも味方ではない。
敵だ。
「オイ、清人ォこいつはヤベェぞォ。セラフィムだァ」
「セラフィム?」
「ああ、あの十字の腕章、間違いねェ。神々の尻拭い、目次録のラッパ!!畜生、因果律御構い無しかァ?」
何が何だかさっぱりだ。
だが、知恵の盃ですら危惧するものだ。警戒は最大限しなければならない。
「どうも皆様初めまして!こんにちは!そしてさようなら!!良い子の為の天使!!!アルクィンジェ、death!!」
アルクィンジェ…。
聞いたことのない名前だ。
それに、セラフィムも死後の世界にいながら一度も耳にした事がない。
そう言えば神々にも機密事項があるとアストレアが言っていた。まさかそれか?
「さぁ!!歌うのです!死という絶対的な幸福を!!!叫ぶのです死という絶対的な幸福をッッッ!!!」
白衣の死神は無慈悲にも世界を救済せんと叫んだ。
ね?ハッピーっしょ?




