黄死筵邸の出会い
はい、お待ちかねのリリップちゃんのターンです。
色々と愉快な方のリリップちゃんとは違いますが楽しんでもらえれば幸い。
それと、ひょうか!!
いえ、氷菓子では御座いません。
評価を頂いたのです!!!
認めよう…今の私は…嬉しいッッ!!!
これからも慢心せずに頑張ります。
ブックマーク、評価、感想、略称、お待ちしております。
『客人』杉原清人
「中は…綺麗だな。生活感が皆無だ」
「にしてもプンプン匂いやがるゥ。鼻が曲がる位の知恵の盃の匂いだァ」
「知恵の盃って臭いのか?」
悪臭を放つ知恵の盃をイメージして良い顔で微笑する。知恵の盃の姿は観測した試しはなく、声が脳に直接届くようなものだから『姿』と言うには些か微妙なラインではあるが。
「違ェ、知恵の盃は再び一つになる為に互いに感知できる様にー匂い、俺は匂いが近いかァ。を出してるんだよォ。だから知恵の盃は互いに引き合うって寸法だァ」
「ふぅん」
互いに引き合う、か。
事実俺はこっちに来てから早々に時任、ユーリィの二名の保持者と接触した。
案外信憑性は高いのかも知れない。
薄暗いロビーに差し掛かると誰かいませんか、と声を上げた。
綺麗な内装なのは分かるのだが、どうも暗くて内部構造がよく分からない。
地下に拷問部屋があるのだろうか?
はたまた、かの有名な吸血鬼の様に血の湯浴みをする場所があるのだろうか?
それともガス室が?
取り留めのない妄想が膨らむ。
「テメェ、案外楽しんでねえかァ?」
「あぁ、俺も意外だった。何か楽しいな」
リガルドみたく俺も酒に弱いのだろうか。だとしたら不味い。早急に酒精を抜かねば。
アムリタ飲んでへべれけになった神の二の舞は御免だ。
まぁ、原因は俺なのだが。
しばらくすると。
「来るぞォ、清人ォ。盃だァ」
言うが早いか俺は構えを取る。
がー。
「天地深夜が出ない!?」
「何モタモタしてるゥ。視認出来る位置に来たぞォ」
仕方がないと徒手での戦闘に意識を切り替える。
そしてーその小柄な影を捉えた。
「ふわぁぁ」
欠伸をしている。
決して殺しはしない。
眠いところ悪いが、先制は貰う。
「『黄死筵邸』へようこそ。お兄ちゃん」
鈴を転がした様な、童女の声。
?
敵意が無い?
いや、待て。油断は禁物だ。
敵意がないのに平然と人を殺しに掛かる手合いは相当数見て来た。
今は観察に観察を重ねる時間だ。
それにメインの目的は今回に限っては宿だ。
飽くまで知恵の盃は行きつけの駄賃程度に考えれば良い。
まぁ、崩れていくこの異世界でルピナスを作るのは急務ではあるがそこは自制しよう。
そう考えると最初から焦って構えたのは失敗だったか。
先ずは話してみるのが良いだろう。
「ここは宿で合ってるか?」
「そうだね。うん、宿もやってるよ。泊まるの?」
「取り敢えず一晩頼む」
姿が完全に見えた。
その少女は、いや、童女は。
幼い体には似つかわしく無い蠱惑的な黒のサテンのドレスをあろうことか寝巻き代わりに身にまとい伸びをしていた。
細い肩には黄色の髪が掛かり、眠たげに細められた翡翠の瞳は何処か仄暗い色彩を帯びている。
「ねえ、お兄ちゃん。その矢鱈殺意の高い知恵の盃をどうにかして貰わないと流石に泊められないよ」
!!?
知恵の盃を看破したのか!?
「清人ォ、狼狽え過ぎだァ。これだからガキはァ。堂々と胸を張れェ。ちよいと遅いが繕えるはずだァ」
「そう言うのは人が効いてない場所でするべきだよ」
「ほら、バレて…は?」
「はァ?」
「ん?どうしたの?お兄ちゃん。鳩が豆ガトリングを受けた見たいな顔して」
「それは動物虐待って言うんだァ鬼畜幼女ォ」
何かがおかしい。
サラリと、至って普通に脳内の会話に乱入する異様さ。
改めて認識する、「この幼女はおかし…」
「人の面前でそんな事言うとモテなくなるよ」
筒抜けだった。
でも、これで分かった。
こいつは心を読んでいる。
…ガラではないが。
仕方がない。
「布団が吹っ飛んだ」
「あ、テメェ。遂に気が狂ったかァ?」
「やめてお兄ちゃん、検証の為に恥をしのぶのは痛いから」
「……」
何がいけなかったのだろうか。
いや、まぁいい。
「心を読んでいる、って線が濃厚か」
「妥当だなァ」
おい知恵の盃、いきなり同調するなよ。
いくら何でも手のひら返しが早過ぎるだろう。
「うふふ、お兄ちゃん達って愉快ね」
歳相応の…いや見た目相応の無邪気な笑いを零す。
考えるのもアホらしくなって来た。
きっと俺は疲れている。
「あー、ん。単刀直入に聞く。あんたは誰だ」
「私?私はリリップ・クライネ。『黄死筵邸』の主人にしてー」
「魔族復権叛逆団、眠れる騎士団の団長だよ」




