君に酒を勧む
珍しくほのぼの回。
あ、未成年はお酒は駄目ですとも。
そりゃね。
『客人』杉原清人
「って訳よ!だから言ってやったんだ!!そこを退けよクソ阿婆擦れってな!!」
「はぁ…」
かれこれ一時間はこの調子だった。
この青年リガルド、酒に弱いのだ。
事の発端はと言えば案内先の酒場で水がわりの果実酒をご馳走になった事からだった。勿論リガルドも酒を飲む流れとなりーご覧の有様。
自伝、武勇伝、何でも御座れで爆弾発言連発の一時間。率直な感想は疲れる。何せP音が仕事をしないのだ。職務怠慢も大概にして貰いたい。
お陰でハラハラして戦闘とは違った緊張感があった。次は何を言い出すのやら、とね。
「で、案内は?」
「案内だぁ?何のこったぁ」
ナンテコッタ。
こいつ案内の事を忘れてやがる。
「ってんのは冗談だ。酒精抜いたら案内してやっからちょいと寝かせ…」
「ねぇからな」
即座に首根っこを掴み体制を変えてアイアンクロー。身長がないのでどうにも決まらない。
「マスター、スピリタスとタバスコあるか?」
「え、君。何をするのかね」
「こうするんだよ」
悪魔の如き黒い笑いを貼り付けながら嬉々としてその二つを混ぜていく。
「チッ、スプーンだと上手く混ざらないな…まあいいか」
アイアンクローを解き、出来上がったそれを目の前に突き出す。
「リガルド、賭けをしよう。このカクテルをお前が飲んで飲み切れたら案内はしなくていいしここの代金は俺が持つ。けどお前が負けたら代金はお前持ちで案内は勿論宿の提供も頼む」
「ああ!良いぜやってやらぁ!!」
マスターが青筋を立てている。
「嬢ちゃんは容赦ないね…」
「俺は男だ」
さぁ、飲めリガルド。
敗北の味をとく味わえ。
グビリと一口。
ブゥゥゥゥ!!!
噴霧器のように綺麗に噴き出した。
勝った。
「清人、テメェ何入れやがった!!?塩酸入れたんじゃねぇよな!?喉が焼けるかと思ったぞ!!」
「スピリタスにタバスコ加えただけだ」
「しれっととんでもない事言うんじゃねぇよ!!」
スピリタスは非常に酒精が強いお酒だ。それにタバスコを加えるとなればどうなる事やら。
さぞ喉が辛い事だろう。
「俺の勝ちだな?」
「あ?良いぜ上等だ飲んでやるよ!」
飲もうとする手を制しマスターに告げる。
「カットした獅子唐のトッピングしないとなぁ」
「テメェ…!?」
ビクリと身震い一つするとマスターはすぐさま獅子唐を切り刻み魔改造カクテルにぶち撒けた。
「おいぃ。マスター?これは?」
知らん顔を決め込むマスター。
「見捨てるのか?」
知らんぷり。
「え、あ。お?おお?」
遂には可哀想に、人語すら覚束なくなってしまった。
「俺の勝ちだな?」
「…はい。誠心誠意奉仕します」
リガルドに支払いを頼み外に出ると日が暮れていた。
これで周りきれるだろうか。
無理だ。普通に考えて無理だ。
「…せめても宿は用意しろよ」
「はい、清人さん」
肩を落としながらとぼとぼと先導して行く後ろ姿は哀愁を感じる。
いっそう哀れなり。
歩く事五分。
「なぁ、ここって宿屋なのか?」
「宿屋だ」
お屋敷だった。
『黄死筵邸』
ただ、明らかに雰囲気が危険だ。
外観はオシャレな洋館といったところか。
が、明らかに日が暮れて夕闇に鎮座する姿がホラーゲームに出てくるそれと酷似していたのだ。
水子も怨霊も妖怪も良く見てきたから今更出ても何とも思わないがそれでもこの建物といざ相対するとなると何だか竦んでしまう。
救いを求めてキョロキョロと辺りを見回すと視線が合った。俺の腕の眼球と。
おい、そこウィンクをしろとは言ってないぞ。
「テメェ、案外呑気だなァ」
「知恵の盃か」
一気に頭が冷えた。
「気づいてるよなァ。ここは随分と因果律の歪みが酷いィ。恐らくは知恵の盃の欠片があるかもしれないなァ」
「…やっぱり行かない手は無いか」
さて、行ってみようじゃないか。
『黄死筵邸』
鬼が出るか蛇が出るか。
運試しといこう。




