呪怨領域リリップ
『災禍の罪人』杉原清人
予想しなかった訳ではなかった。
「君は人を殺し過ぎた。例え魔獣になったからと言っても看過できるものじゃないんだよね」
ヒュエルツに戻り曲穿と再会した時にそう言われた。
勿論、デイブレイク入団は叶わなかった。
俺が勝ち組に行くとデイブレイク国を揺るがす程の非難が予想されるためとの事だ。
曲がったものを穿つから曲穿なのだと再認識せざるを得ない一幕。
クソ。
「状況が変わったから…御免なさい」
気分を晴らそうと平塚の元を尋ねたが、結果はこのザマ。面会拒否。
クソ。
何よりも、虐殺を行いながら平然と希望を抱いて我欲で動く俺が堪らなく嫌になった。
あぁ、クソ。
罪滅ぼしがしたいのではないし、殺してしまった分だけ幸せになってやろうという驕傲もない。
それに、ユーリィとした約束は俺の罪の前に瓦解し果たされる事はついぞなかった。
ヒュエルツから退去する事を余儀なくされ知恵の盃はおろか、一日の生活にすら困る生活が幕を開けた。
風の噂だが俺を対魔連盟に加入させたヘンケンはその責任を問われ首魁の座を降りたと聞く。
俺の絶望が俺に帰ってきたのだ。
自業自得、と言うものだろうか。
自業自得と言えば、俺の左腕だ。
ジュクジュクと膿んだような気味の悪い左腕のせいで恐れられ碌に物も買えない。隠そうとしても都合の良いボロ切れが落ちてるはずもなく鞄で隠すしかなかった。
何がともあれ。
「会いたいな、ルピナス」
彼女が欲しかった。
その声が聞きたかった。
その優しさに触れたかった。
ヒュエルツから離れ、ウナムの町を過ぎ。
そして今、俺はデイブレイク国を出て辺境の土地に来ている。
勿論、土地名すら分からない。
カツカツ、と大正浪漫が心象に反して子気味良い音を立てる。
ヒュエルツの石畳とは違い凹凸が酷く目立つ道で歩き難い。
全く、どうしてこうなった。
「…?」
ちらほらと人影が見えた。
農業を営む老若男女。
一見牧歌的なそれはしかし異様だった。『諦観』。そうだ、ここの人達の目には諦めの色が強い。
ここは一体?
「お、新入りか?」
一人の青年が話しかけて来た。
肌は健康的に焼け体つきもがっしりとしている。頬には土が付いていて今さっきまで農家していたと言った風だ。
「多分違う…そもそも。ここはどこだ?」
「ここは残り滓の集う場所。廃棄場さ。名前は呪怨領域リリップってんだ」
「廃棄場?」
青年の顔が陰る。
「魔獣になった奴らの廃棄場ってこった。お宅の腕から察するに捨てられた同志だと思ったんだけどなぁ」
腕!?
しまった。隠し忘れてしまった。
慌てて背後に回して隠す。
「いやいや、隠さなくて良いから」
どうやらこの悍ましい左腕をガッツリ見られてしまったらしい。観念して隠すのを止めた。
「ほぉ、お宅の腕カッコイイな」
まじまじと腕を不躾にも観察しているようだった。
これをカッコイイとは、感性が著しくズレているのだろうか。
「一応、確かに俺も魔獣になった」
「んだよ、やっぱ同志じゃねぇか」
カラカラと快活に青年は笑う。
「っと、自己紹介がまだだったな。俺は桂リガルド。日本人とヒュエルツ人のハーフだ。貴重なんだぜ?ヒュエルツは今じゃ完全に混血ばかりときた!母方が純粋なヒュエルツ人なのが自慢なんだよ」
「俺は杉原清人。多分純粋な日本人だ」
「またまた、その灰色の髪はどう考えてもオミの方の人だろ?日本人は髪が黒いんだぜ?」
得意げに鼻をフンスとならしているのが子供らしくて、久方ぶりに表情が和らいでしまう。
「オミの方の人は髪が灰色なのか?」
「お宅、なんも知らないのな。ま、説明がてら町を案内してやんよ」
呪怨領域に集まるヘンテコな人の好意に甘える、と言うのも中々妙だな。




