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授カル知恵

60話か…凄いネ!?

『傷心』杉原清人


「朗報?」

「それより確認したい事があるゥ。テメェはルピナスとまだ一緒に居たいかァ?」


ルピナスと一緒に。

何て甘美な響きだろうか。

でも、忘れてはならない。一緒に居られないから俺は絶望したのだ。

もしここて知恵の盃が『ルピナスと一緒に居られる方策がある』などと宣うなら俺は勝手に絶望し、勝手に鏖殺を行なった事になる。

それこそ、余りに滑稽。

思い違いで村をいくつか壊しちゃった、だなんて舌ベロ突き出しながら謝罪するのか?

無理だ。

それは間違いなく許されるべき事ではない。


俺は遺族の苦しみとやらを俺は知らない。

ただ、それは耐えられないくらいに。

それこそ絶望してしまうくらいに辛いものだと思う。


本心で言えば一緒に居たい。


けれど、その答えを言うのはどうにも憚られた。


自然と自分の無力さを認めるように俯く。

下向け、下向け。そういう声が聞こえる。

勿論それは俺の良心の呵責で幻聴なのだろう。分かっている。

分かっている…!!


「…質問を変えるかァ。テメェ、ルピナスを作る気はないかァ?」

「作、る?」


唐突に言われた言葉から思考に生まれた空白。


作る。


誰が?


俺が?


「いいかァ、良く聞けェ。テメェは今俺の手に頼らずども心象を発現出来るゥ。だからルピナスを思い描けばイマジナリーフレンドの真似事をするのは易いィ」


心象の発現か、錆びた大鎌のときは知恵の盃に対価を支払い取り出していたが対価が無くなる、と言うのは大きい。


でも…。


「イマジナリーフレンドじゃ、今更満足出来ないさ」


事もなげにさらりと言う。確かにあの体験がまた出来るなら悪くはない。けれどそれは飽くまで紛い物、贋作だ。決して本物ではない。

贋作は本物にはなれない。

そう、俺はもう本物を知ってしまった。

例えそれが呪いの集積物の産物だとしても俺は温かな体温が、触れた手の感触が忘れられない。

所詮はそよ風かもしれないがそこに俺は大きな意味を見出しているのだ。

ならばそれは俺にとってのルピナスと同意義なのだ。


「その答えを待ってたァ。そう、そんな紛い物で満足されちゃ困るんだよォ。俺の提案はこうだァ、ルピナスを本当の人間にしちまうんだよォ」

「そんなこと出来るのか」

「対価があればなァ」


それは悪魔の囁きにも似ていた。

聞いてはいけない、なのに聞きたい。

多分これは甘やかな毒だ。本質を腐らせ、朽ちさせる。一度進めば後戻り出来ない、そんな毒。


「何が望みだ」

「俺以外の知恵の盃だァ。俺以外の知恵の盃を対価にすればルピナスは誕生するゥ」


ルピナスの、誕生?

いや、待て。知恵の盃は肝心な所をボカしている。


「…そう言えば、お前対価を何に使ってるのか聞いてなかったな。何だ、何に使ってる?」


哄笑、嘲笑、狂笑、大笑。

耳を劈くような耳障りなノイズが反響する。


「やっと聞いたか餓鬼ィ。俺の目的はただ一つゥ、アダムとイヴの再誕だァ」

「…お前を解放した人間か」

「そうゥ!!俺と言う災害を無知故に解放した愛すべき馬鹿だァ!!」


その姿ーいや、声色か。

それはあたかも自分が悪い事をすると誇示するかのようだ。

けれど、余りに不自然に芝居がかっている。


「何故、再誕を願う?」

「簡単だろォ?俺がまた災害の王として君臨する為の道程の為だァ。完全体になったらその二人にこう言うんだァ『これがテメェらの招いた結果だァ』ってなァ」


純粋な理解があった。

コイツは悪役ヒールに向かないと。


そうだろう?

コイツが煽る為だけに何かを成すなんて事が出来るほど無駄に優越感を求めてはいないし、コイツには恐らくそんな余裕はない。

ペイバックを数度ツケにして貰っている…いや、お代を拒否るのもそう珍しくは無かった。これだけなら収支で見ればマイナス。


コイツの目的はこんな事じゃない。


多分、触れられたくない理由があるのだ。

なら聞くのは野暮と言うものだ。


「まぁ、良い。知恵の盃を集めればいいんだな」

「あァ」


もう悩むのは無しだ。

俺は知恵の盃を蒐集する。


ふん、と不遜に鼻を鳴らす。

その裏に『素直じゃないな』と言う言葉を押し込めながら。


「テメェもだろうが、バカァ」

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