きらわれたくないよ
それは所謂デスサイズだった。無茶な使用のせいで刃こぼれは多数見受けられ節々に歪みが生じている錆色の大鎌。
そう、今俺は知恵の盃に対価を差し出し自らの心を具現化させたのだ。それがこの武器。
この状態になると肉体の痛覚が鈍麻し傷を負っても即座に回復する。
一方、大鎌にダメージを負えば洒落にならない激痛が走るようになる。
刃物の舌先が近づくがー。
「遅い」
錆色の大鎌はカチカチと異音を発しながら舌先を容易く切断する。
キィィィィ!!!!
錆色の大鎌は切断する快楽に耐えかねたのか一層異音を強く発し発熱する。
「咆哮ッ!」
異音は超音波の刃となり数多の刃物の舌を根こそぎ刈り取る。
「エンヴィー後ろ」
「問題ない」
背中合わせのような状態でイヴは伝える。そして俺は先ほど俺がいた位置にルピナスを移動させるように身体を捻り、言ったそばから殺到する刃物の舌を柄で受け流し再び咆哮を放つ。
「キリがないな。仕方ない、飛ばすか…ルピナス」
ここにきて奥の手を使う事を決めた。
ただ、これは悍ましい本性を見せる事になる。前以て言わねば。
「何?」
「俺が何をやっても、嫌わないで…いや、違うだろ俺」
言ってから気付く。
嫌われる、なんてな。
馬鹿か俺は。泣きたくなる。今更繕える程俺は綺麗じゃない。あれを見て誰が俺に好意を持つというのか。ルピナスから好意を持たれていると錯覚して、気持ち悪い。勝手に舞い上がって、後はどうだ?落ちるしかない。
ああ、人に飢えた人は人に非ず。それはただのモンスターだ。
そうだ、丁度良いあれをやって態と嫌われよう。
俺を好くやつなんていないのだから。
いては、いけないのだから。
今までの熱が冷めていく。ぬるま湯が冷めるようにスゥと現実に引き戻される。
結局、俺が最低なやつだとしか思えない。けど、それで構わない。
俺は大概屑なのだ。
鎌の柄を地面に突き刺し、静かに告げる。
「喰らい尽くせ、天地蠱毒」
瞬間、錆色の大鎌は本来の姿を取り戻す。この武器は俺の心を知恵の盃が使い易いよう武器に形を変えたものだ。つまり元の心の形は別に存在する。それはー。
グチュグチュと錆色の大鎌が蠢き、形を変え錆色の頭部が異様に肥大化した胎児に姿を変えた。
これが大鎌のー俺の正体であり心の在り方。
子宮の町から追放され、人恋しさに人を襲い、母性を求めて咽び泣き、劈くモンスター。
そのモンスターは敵を認知するとその全てを見境なく平らげた。その跡には一層の鉄臭さと凄惨な紅い色彩が残っている。
「……」
我ながら、実に汚い。汚物を喰らう餓鬼でもこんなに気持ち悪くない。悍ましい。綺麗になりたい。他人の綺麗が羨ましい。羨ましくて堪らない。妬みすら感じる。
でも、俺を救う誰かなんて都合よくいるわけなんて無くて。
俺はルピナスに背を向けたまま先に進む。
「…さて、さて、先に進むか。独りは気楽で良いな。気ままで、自由で、全くもって嫌いじゃない」
そう、嫌いじゃない。そのはずなのに。
どうしてついて来る足音に期待する俺がいる!
ルピナスは俺を選ばない。ああ、そうともきっと見捨ててくれる。それで良い。
「馬鹿にしないで」
誰が言った?なんと言った?理解が追い付かない。
「聞こえないなら何度でも言う。私を舐めないで」
「……?」
ルピナスは何を伝えたいんだ?
「私が簡単にあなたを捨てると思うなら、それは間違い。私はあなたを捨てない」
思考が停止した。考える事を放棄した。
「それに私が簡単にあなたを見捨てるような人に見えるならそれは私に対しての侮辱」
「………どうしてだ」
自棄に天地蠱毒の鳴き声が五月蝿い。いつもの五割り増しで五月蝿く感じる。
「あなたが心の底から嫌われたくないと願っているから」
ルピナスの視線の先には天地蠱毒。
それは縋るように哭き叫び絶叫していた。
「戻れ」
急いで天地蠱毒を解除しようとするが戻らない。戻ってくれない。
「どうして戻そうとするの?」
見られたくなかった。それは余りにも恥ずかし過ぎた。あれは俺も心の形。変化は劇的に現れてしまう。
「いいから戻れよ!!!」
焦れて叫ぶと頬に熱が走った。
ビンタされた?誰に?
ルピナスに。
「あなたを大切に想う人間がいる事を忘れないで。それに目を向けないのは痛がりたいマゾヒストの所業」
「…痛がりたい?」
「あなたは現にこんなにも泣いてる。余りに可哀想」
天地蠱毒に触発でもされたか俺も泣いていた。目元を乱暴にゴシゴシと袴の袖で拭う。
「…泣いてなんてない」
内心羞恥に悶える。
「私はあなたとずっと一緒にいる。どこまでも、どこまでも」
「止めろ…勘違いするだろ。…ルピナスが俺に気があるみたいだろ、それじゃあ」
「あるよ」
今度こそ思考に空白が生まれた。
「私はエンヴィーが好き」
「あなたの側にいる」
「それとも、あなたは私が嫌い?」
「ッ…」
「私もあなたと同じで私が嫌い。隠し事もある。多分その事実はあなたを傷付ける。だけど私はそれを言うことが出来ない。でも、こんな私でも側に居させて」