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切リ札ヲ切レバ

『冒険者』ユーリィ


僕に出来ることは余りに少ない。

今は最早意味をなさない『模倣』と炎の生成、放出。そして切り札。

今は辛うじて炎の壁や昔学んだレイピアの練度で押してはいるが息が続かない。

どこかで途切れてしまうのだ。

そうなれば僕はキヨトを元に戻せないまま死んでしまうだろう。

それは不味い。


飽くまで僕の目標はキヨトの救済。


キィィィン!!


接近に次ぐ接近にレイピアの歯が唸る。


「…なぁ」


彼は距離を置いてから口を開いた。


「そろそろ、決めに掛からないか?互いに最強の一撃をぶつけて競り勝った方が勝ちって事でどうだ?」

「いいよ。それで行こう」


それは願っても無い申し出だった。

後腐れなく、一撃で。

何となく彼らしいとも、或いは変わったとも思える。


でも、これでアレが出来る。


キヨトの両腕に纏った呪怨が密度を増し姿が霞む。

負けじと僕も呪怨を纏う。


「俺が望む事は多くない。けれどそれを世界は否定した。だから、壊す。


其が纏うはついぞ寝覚めぬ常闇の轍。


ご覧じろ、産まれ出るしゅを。


怨術無双ー」


「其は呪いを祓う者。


其は呪いを赦す者。


罪ありき者よ安らかに眠れ。


呪怨は反転する。


怨術発破ー」



咆哮神託怨嗟ハウリング・ディザスター!!」

炎環聖別回帰ノヴァ・セイクリッド!!」


僕が放ったのは攻撃でも、ましてや呪いではない。

それは祝い、祝福。

全ての怨嗟を内包し、縁と定めを切る祝福という名の一条の光。

炎環呪怨滅殺ノヴァ・カースドの呪いを喰らい自分に帰すという特性を反転させ、一切の怨恨を断つ光にまで昇華させた僕の切り札だ。


「はぁぁぁぁぁっ!!」


故に、それがただの呪怨であるのなら。


「俺は負けられないんだよォ!!」


彼は押し留める事すら出来ない。


「いっけぇぇぇ!!」


行けると思った。けれどそれは驕りであり油断だった。


「俺は…もうルピナスと居られないんだよ…。なぁ、俺は呪いたいから呪ってるんじゃない。純粋に哀しいから呪ってるんだ」


◆◆◆


『ENVY攻略後』エンヴィー・メランコリア


俺は元の平原に立っていた。


「倒したか」


時間帯はやや日が沈んだ頃。冷たい風が頬を撫でる。

しかし、そんなことはどうでもいい。

キョロキョロと忙しなく辺りを見回す。

その姿は母親を探す子供のようだが、それは自覚している。だから、その事を今更恥はしない。

しないのだが…。


「ルピナス?」


いつまで経っても求めた人影は現れない。

俺は今、心底彼女に会いたいのだ。自分に勝ったと報告し、頭を撫でて貰いたいのだ。俺は暖かな陽だまりを欲していた。


「知恵の盃、これはどういう事だ」

「あァ?全部テメェの所業だろォ?俺の感知するところじゃねェなァ」


テメェの所業?

どういうことだ?


「そうかァ。一言言わないとなァ。エンヴィーよォ」

「何だよ」



「御目出度うゥ、テメェは呪いを全て断ち切ったァ。これで体にかかった制限もなくなってチートし放題だァ。喜べェ、幻聴・・妄想・・も見なくて済むなァ」


呪いを断ち切った?

…う、そだろう?

いや、待て。魔獣は絶望から生まれる負のエネルギーで魔獣になる。

負のエネルギーに呪いが含まれない訳が無い。

じゃあ、何でルピナスがいない?

簡単だ。戀愛幻想呪、状況発現熱呪、両方とも呪いだ。

ルピナスが心象迷宮に来なかった理由、それは…魔獣に負のエネルギーとして取り込まれたからに他ならない。

では、ルピナスはどうなったのか。


何故いないのか。


「ハハッ、…俺か」


「俺がルピナスを殺したのか」


俺が魔獣を倒したから呪いは解け、ルピナスは二度と現れない。


「ハハッ、あははは」


乾いた笑いが平原にこだまする。


何て短慮。

何て浅慮。

どこまでも俺は愚鈍だった。

認めよう。俺は…ゴミだ。



◆◆◆


「哀しみはなくならない」


両手から放たれた黒々しい呪いは一条の光に掻き消されながらも一点のみ光を裂きながら突き進む。


「俺はチートなんて要らないんだよ。ルピナスさえ居ればそれで」


「やっと本音を言ってくれた」


破壊衝動の中の偽らざる本音。


「痛み分けをしよう」


一条の光は大きさを増しー。


極光は爆裂した。

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