覚醒スル心象
『魔獣』エンヴィー
「終わった、か」
一つ肩の荷が下りて清々しい気分だが、何か思く苦々しい感覚が転がっていた。
罪悪感、だろうか?
今更な気もするが。
まあ良い。俺はすべき悲願を意図せず叶えたのだ。喜ぶのが普通だろう。
「?」
頬に冷たいものが伝う。
これは、涙?
俺は泣いているのか?
ハッ!馬鹿馬鹿しい。悪魔は泣かないものなのだ。常に全体を俯瞰し嘲笑うのだ。
…なりきれない。どうしようもなく俺は人間だった。
本当に悪魔であれたなら、或いはこんなにも苦悩はしないだろう。
止めどなく溢れる。
何だか力が抜けてへたり込む。まるで少女のようではないか。立たねば。
せめて悪魔でなくても、魔獣としての責務は果たさなければ。
心を奮い立たせ、吼える。
喉も枯れよと。
心象は塗り変わり霊衣が新たなる形を取る。
袴はリボンが外れ代わりに濃紺のひし形が四つ並んだ図形が右胸の部分に縫い込まれた。
そしてその袴の上には皮のジャンパーを着るという奇妙な出で立ちへ変化した。
「…ジャンパーか。智人のコートの代わりか?それにこの皮…」
思い出すのはワークショップでの出来事。あのカバンに使われた皮と酷似していた。
「さて、仕方ない」
『鬼面』の方に向き直る。
「待ってくれたのか」
「当然、僕は飽くまで君を救う為に来た。卑怯な真似はしないさ」
「俺は簡単には負けない」
「いや、僕は勝つよ。必ずね」
フゥと息を一つつく。
俺は魔獣。絶望のままに世界を壊すもの。
「勝負だ、エンヴィー」
「エンヴィー、か。いや、もうエンヴィーはお終いだ。これからは」
「杉原清人の番だ」
これは決意。もう皮肉なジョークの名前は要らない。だから、俺はまた杉原清人として生きる。
「征くぞ、ユーリィ」
互いに構える。ユーリィは元の軍服の姿だ。そしてその手には智人が最期に放ったレイピア、メルヘリート・カルグネイデス。大鎌よりもレイピアを持つ姿の方がしっくり来る。
先制したのはー当然俺だった。
天地深夜のブーストでユーリィ目掛けて一足でたどり着き、小手調べに一閃。
「曲芸師か?」
回避すると踏んでいたがどうやら読みが甘かったらしい。
ユーリィは天地深夜の刀身に立っていた。
「さぁねッ!!」
刀身を蹴り飛ばし跳躍。
「炎環死花」
レイピアが炎を纏いながら俺を襲う。
バックステップ、大鎌を放棄し肉弾戦へ意識を切り替える。
「呪怨双掌」
俺も両手に負のエネルギーを纏わせ迎撃の用意をする。
レイピアの溶融能力を発揮させない為には触れない事が重要になる。
ではどうするか。
負のエネルギーをそのま射出する。
「流石にやる…ッ!!」
余裕綽々と言う訳ではない。
負のエネルギーを射出しなければならない、と言うのは不味い。
それはつまり俺の弱体化を意味する。
切れる札は多くはない。
けれど、何だ?
この湧き上がる感情の高まりは。
灰色の俺を照らす色彩のようなこれは。
ああ、これが「楽しい」か。
薄く笑みを浮かべる。
「さぁ、次はどんな手を?」
「その傲慢が君を負かすよ」
 




