振リ上ゲタ拳
『嫉妬』エンヴィー
断続的に鳴り響く鉄の声。
花火のように秀麗に散る火花。
「死ニ花ゥ!」
レイピアによる怒涛の十二連撃を天地深夜の刃で受ける。
当然だが痛い。魔獣になりこそすれ、弱点は変わらない。
しかし、それしかないのだ。
メルヘリート・カルグネイデス。これが厄介すぎた。
その刀身は触れるものを溶融させる。
これに耐えられるのは天地深夜しかない。
うっかり体で受けたが最後、物理的に背中と腹がくっ付きかねない。
勿論、再生も不能。
長期戦になればなるほど力を失い、死ぬ可能性が高くなる。
『鬼面』のサポートがあるとはいえもって五分程度、といったところか。
なんだ、今までとなんら変わりない。
要するにこうだ、早く殺せ。
そのためにイメージを練る。
例え、それが痛みを伴うものだとしても。
思い出せ。
『やぁ、準備は整ったかな?』
思い出せ。
『じゃあ、一段上げようか。『慢過』解除。モードは…『卑下慢』で良いかな』
もっと鮮明に。克明に修羅への道を思い描け。
力の差を正確に理解しろ。その先にー。
「修羅乱舞」
「簒奪」の力を最大限まで引き出しエリーゼの遺した呪いを更に純化させ、書き換える。
思えば「簒奪」と「修羅」は似ていた。
「簒奪」は他人との差を埋める為の能力。
「修羅」は他人と自分を比較する能力。
他人基準である点が類似だ。所詮、軸は自分ではなく他人でしかない。
つまり、嫉妬は修羅を呼び、修羅は簒奪を呼ぶ。
ここに相互の補完性が生じる。
力の差を正確に理解した先。
そこにあるのは数式のような精密な勝利への道程。
敵の力が過多ならば過多分を奪い去る。
それだけを行う俺の、俺だけの絶対なる領域。
故に、修羅乱舞が実現すれば。
「クッ…体が重い。雑魚愚弟風情が俺に恥をかかせるなど言語道断だろ??だよなぁっ!!!」
「オマエは薄っぺらいんだよ…」
喚く声が酷く煩い。
片足を地べたに付けた智人を見下す。
何てザマだ。それが正義の味方のする顔か。
最低の下衆のする顔だ、それは。
目を爛々と輝かせ俺を睨みつける。
その醜悪さー。
「憤怒が主人公?当然だろうな。それが義憤であるならば。けどな、オマエは違う。それはただの思い上がりだ。自分が悪だと思わなかったのか?そこに葛藤はあったのか?」
「煩い!!!俺は正義なんだ!!!何でも俺がすることは正義になるんだよぉ!!!!」
「そうか、飽くまで正義を言い張るか。なら、純粋な『悪』を魅せてやるよ」
ゆっくりと近付く。
智人は動かない。いや、動けない。
この場で動けるのは俺と『鬼面』だけなのだ。
俺と『鬼面』以外は動く為のエネルギーを根こそぎ奪われる。
奪われたエネルギーは修羅乱舞のコストとして消費される。
だから、智人は動かない。
俺は動かないやつを…全力でぶん殴った。
「これが『悪』だ」
錐揉み回転と二回のバウンドを経て地面と衝突した智人。
花から流れる血が虚しく螺旋を描いた。
「見てたんだぞ?いつもオマエを。だから日本で人を殴るのは悪だと知っている。だから、殴った」
「この糞野郎!!!悪者め!!!」
悪者、か。随分子供っぽい言い方をする。
けど、それは的確な理解だ。
俺は悪者だ。それで構わない。
「ああ、そうさ。でもオマエ…何回殴った?」
「俺は全てを許さ」
「「ざけんじゃねぇぇ!!!!」」
『鬼面』も耐えかねたらしい。
顔面にクリーンヒットした。
最早ボロ雑巾のような有様だ。見るに堪えない。
「はぁ、態々出番を譲るも耐えかねたか?」
「そうだね。僕もまだまだ未熟者だ」
微苦笑したのが分かった。
『鬼面』は案外感情豊からしい。
それは過去の誰かを重ねたものなのかは知らない。
けれど、本気でキレていた。
「さて、終わりにしようか」
拳にありったけの力を込める。
俺の今コイツにできる最強の技。
そして餞別。
「オラァァッ!!!!」
本気で殴る。
ただ、それだけ。
技巧も何もありはしない。ただの悔恨の詰まった懺悔の、八つ当たりの拳。
「それを待ってた」
智人が腫れ上がった頬を吊り上げニヤリと嗤った。
次いでメルヘリート・カルグネイデスが投擲されー。
「知ってたよ馬鹿」
俺はそれをスウェーで避ける。
ハラリと髪が一房風に舞った。
その数瞬後!!!
顎を拳が突き上げた!!
「ちゃんと死ね」
爆砕!!
臓物の一つすら残らずに杉原智人は消滅した。




