最低ノ侵略者
『冒険者ユーリィ』
「ハァッ!!」
錆び付いた大鎌を棒切れの如く振るう。
「流石に強いね!」
「当然だとも」
緑の唇を切り飛ばしながらも内心焦りが生じていた。
どんどん敵が堅くなっている?
最初は抵抗なく切断できたものが今では一撃で切断することができない。
それに内部に何か一物隠しているような不穏さが緑の唇に現れ始めた。
仕切り直しにと一度飛び退く。
「英断結構」
すると先程まで僕のいた場所は緑の唇から出た刃物の舌で切られていた。
「けどね。前に出ない人に女神のキスは来ないよっ」
「やれやれ、女神ときたか」
舌は刃物で出来ていた。たったそれだけのこと。
小柄な体を利用し回避に専念する。
どうやらそこまで命中率は高くはないようだ。攻勢に出るのも悪手ではないだろう。
「神を信じないんじゃなかったのかな」
「エンヴィーに合って変わっただけで私は敬遠な神の信徒でしたよ?」
巫山戯つつも数の暴力は止まない。
天晴れ、と言ったところか。
悉くを切り飛ばし、切り結ぶ。
「炎環」
炎が辺りを埋め尽くす。凡そ緑の唇は焼け爛れて戦闘不能になった。
「僕の勝ちだ」
「そうみたいだね。あちゃーやっちゃった」
呪核が元の姿に戻る。
「降参。いやはや強いね。…ッ全く困ったものだよ」
何がーとは聞けなかった。
「あぁあ。ガン萎え。エクストリームだわぁ。なぁ憤怒の俺を萎えさせる姿って実際どうなのよ、ゴミじゃない?ゴミだよな?」
「エンヴィー?」
男性にしては高い声がした。
それは黒いコートを纏ったエンヴィー・メランコリアその人だった。
いや、違う。
姿は似ていても精神性が、体系が全く別のものだ。
彼は…。
「誰が不用品の弟と間違えた?知ってるか?嫉妬なんて主人公には向かねぇんだ。やっぱ主人公にするならー」
「憤怒だろ」
◆◆◆
『曲穿』
「まさか、私が取り逃がすなんて」
私は杉原智人と相対し、戦闘を行なった。バルキリーの能力で六十二メーターが私の支配領域となり見事に智人は絡め取られた。
支配領域での命令事項はたった一つ。
何も動かすな。
鼓動を止めて死ぬだろうと思っていた。けれど私は忘れていた。彼が人間ではないものだという事を。
「あぁ?ゼウスか。何?知恵の盃ィ?忘れてたわ、すまんな。あー小言は結構。転移してくれ。え?因果律?知るか老骨!!俺を転移させろよ!!あぁ憤怒憤怒ぅ!!!!」
ゼウス!?
「そんな訳だ。あ、可愛いし戻ってきたら俺の妃にしてやるよ」
「は?」
こうして杉原智人は、ラースは消えた。
それにしてもー知恵の盃は私も持っているのに何故スルーされたのだろう。
杉原清人の知恵の盃には何か秘密が?




