表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/106

接敵スルモノ

『亡国の王子、兼エンヴィーの贋作』ユーリィ・セイムベル


「それ」はある日ー生まれませんでした。


ページを捲る音。


彼には願いを叶える万能の力の器に選ばれ、万能の力の影響を受け、様々なモノを解すようになりました。

言葉、動作、そして最後に心を。


けれど彼にとって心を解す事は開けてはならない秘密の扉にも等しい事でした。彼は実在の暖かさを知らなかった。それなのに知識上では暖かさを知ってしまった。

故に夢想に耽り飢え乾いてしまった。


知っていても体感していない。

彼は自分に四肢すらないことを心底憎みました。

もし足があったなら陽だまりに行けたかもしれない。

もし手があったなら他人と手を繋げたかもしれない。

けれど、あり得る全ての可能性を彼は持ち合わせてはいません。

ある時神は言いました。

「生き返らせてやろう」と。

それは彼にとって待ち望んだ天啓でした。

しかし、ここからが地獄の始まり。

「生き返るには徳を積む必要がある」と神は言いました。

彼は神の示すままに殺して、殺して、殺しました。

殺せてしまったのです。万能の力のせいで。


ページを捲る音。


神々から体の良い便利屋として酷使された彼はやがて心を病んでしまいました。

気付いたのです。殺しに正義などないと。

彼は狂って、曲がって、禍って。

化け物になりました。

神を容易に信じてはいません。


ーおわり。



「…この童話」

「私が編集したのよ。どう?案外上手でしょ」

「キミは…」

「私はエリー。エリーゼ・フォンホード。エリーって呼んでよユーリィ・セイムベル」


全く知らない顔ではなかった。

街中で見かけた気がする。

彼女は薄っすら紫がかった髪を後ろで三つ編みにして如何にも文学少女然としていた。

派手な顔つきではないし、体つきが都会的で華やかと言う訳でもない。

けれど育ちがいい…いや。

いい育ち方をしているといった感じが一番適当だろう。

穏やかな目をしている。

戦う者の飢えた獣の目に非ず。

復讐を誓う悪鬼の目に非ず。

当たり前の日常を穏やかに過ごす少女の余りに自然体な目をしていた。


けれど。

報告書で見た。彼女は心象魔獣になったと。人間の絶望で変化する魔獣から絶望がそれでも溢れてしまったもの。

だから彼女がこうしているのはあり得ない。


「私は絶望のキャパシティが少なかった…だから簡単に心象魔獣になった。良い子過ぎたんだってこと」


印象が定まらない。掴めない。

見た目は古風な文学少女、なのに中身は悪戯好きな猫のようだ。

何だか異様に外面と内面が乖離しているように見える。何というのか…ちぐはぐ、というやつだろうか。


「エリーさんはどうしてエンヴィーの迷宮に居る」

「それは当然」


「私が彼の一部だから」


姿が変わる。

その球体は穢れを帯び、仄暗い色彩を持っていた。


「呪核!?」

「私がERRY。彼の所には向かわせない」


足元が奇妙なマーブル模様に変化し、結界で見たあの緑の唇が下から出現する。


「?名乗らないの」

「生憎と王子はやめた身だからね。けれどキミが望むなら吝かではない」


「魔獣、ERRY」

「冒険者ユーリィ。いざ、尋常に」


「「勝負!!」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ