無茶ヲヤルトイウ事
『亡国の王子』ユーリィ・セイムベル
さて、どうしたものでしょう。
先に進むには人形達の中を通らなければならない。
『模倣』を使えば突破出来るだろうけど出来れば取っておきたい。
切り札を切るのが良いのだろうか?
それも悪くはない。けれど、それを使ったら僕はもう僕ではなくなる。
炎環呪怨滅殺から発想を逆転させた僕の正しく必殺技。
まだ卓上の空想でしかないが出来るはずだ。
けれど、
やはり止めよう。
コレは今切って良い札ではない。
ならば今やるべきは別にある。と考えよう。
その方が建設的だ。
まず、ここは誰の心象迷宮であるか。
濃厚なのはエンヴィー。だけれど純粋なー全てが彼由来だとは凡そ考えよう難い。それは緑の唇を見れば分かる。
あの胎児の悍ましい姿に対して緑の唇があまりにもデフォルメされていたからだ。
統一感というものが欠落している。
取り敢えずのところはエンヴィーの心象迷宮と仮定して話を進めよう。
では、対処の方法は?
考えられるのは、エンヴィーと同じレベルの力でゴリ押しする。
日本人の好む「無双」というやつだ。
並び立つもの無く孤独にして同伴なし。
だいたいそんな意味だったか。
…「無双」なのに妻がいるのは如何なのだろうか。
未だ日本人との世界観、価値観、言語のギャップが残るようだ。勉強しなければ。
腹は決まった。後は括るのみ。
来た道を引き返す。
目指すは人形達の集う人間の屠殺場。
この試練。彼ならクリア出来る。
そう勘が告げている。
傭兵になりながらも何とか生存できたのはこの勘によるところが大きい。
そして、僕の勘はエンヴィーならクリア出来るのではないかと囁く。
ならばなろう。
僕がエンヴィー・メランコリアの贋作になる。
それが結論。
意識を集中する。
意識が遠のく刹那、エンヴィーが微かに見せた紅い姿。その動きをイメージする。
ーー僕はあそこまで疾く動けない。
ーーならば相手の動きを十倍早く先読みすれば良い。
ーー僕の身体では直ぐに壊れる。
ーーならばエンヴィーの身体を模倣すれば良い。
ーー出来るのか?
ーーやるだけだ。
「あん、よ?」
「あ、よぉ?」
「?」
風は吹かない。
気配もない。
殺気も、何もない。
ただ、いきなり現れていきなり斬られた。そんな風体だった。
「ふぅ」
脂汗を袖で拭う。装飾のある軍服から袴になった事で汗を拭っても額が痛まずに済んだ。
それでも極度の緊張からか前髪が張り付いて少し気持ち悪い。
髪を切らないのだろうか。
どうしてか長い髪が忌々しいものに感じる。鎖のような、それでいてエンヴィーの内面に巣食う束縛の根源のような。
曖昧なイメージは一つの像を結ぶ。
緒だ。まるでへその緒。
取り留めのないどうでもいい事なのに強く意識してしまう。
いや、案外必要なことなのだろうか。
間違いなくここは彼の領域。
彼の事を知れば知れただけ僕の力になる。
『第二階層、おおきくそだったの』
そして、光に包まれる。




