セイムベルの悲劇3
セイムベルの悲劇はこれで終わり。やっとエンヴィー攻略に入ります。
『亡国の王子』ユーリィ・セイムベル
「なっ!?」
「取り込めなかった欠片かッ!!」
異物が僕の右腕を伝い僕を侵食する。
血管にミミズが這うような言いようのない悍ましい感覚が襲う。
「ぐ…ぅぁ」
右腕から生成されたタワーシールドが綻びる。
不味い、このままでは死ぬ!
「がぁぁぁぁぁッ!!!!」
しかし悍ましい感覚は激痛に取って代わられた。全身の血が沸き立ち、髪は総毛立つ。
耳鳴りが止まないー!!!
「あぁあ。なに?パワーアップアイテムNTR?萎えるんだけど…萎えるんだけどッ!!!」
「やめ、ろ」
再びブリュンヒルデの大剣が振るわれる。
なに振り構わず横っ飛びに回避ーが。
「痛い痛い痛い痛い痛いァァァ!!」
ブチブチと筋肉が断裂していく音がした。おまけにブリュンヒルデの鏖殺の結果出た瓦礫で足を強かに打った。
万事休すか。
けれどもあの怪物は何としても殺したかった。道づれにする方法はー。
待って欲しい。
パワーアップアイテム?
僕の新しい力?
もしかしたら思い違いをしていたのかも知れない。
あの激痛は異物に体を適応させた際の激痛だとしたら?
今の僕は…。
「ラァッ!!」
闇雲に振るわれる大剣をまたもタワーシールドが防いだ。
「やっと分かったよ」
「あ?」
「僕は怪物になったらしい。君と同じくね」
ブリュンヒルデは会話中も大剣を振るうがー当たらない。
見える!
粗い!
ブリュンヒルデの動きには獣じみた荒々しさや暴猛はあった。
けれど、清廉さは一片もない。
故に粗い。
今の僕なら避けるに易い。
そして回避出来るならー。
ボロボロの剣を抜き跳躍し頭上から急襲!!
王冠じみたブリュンヒルデの頭部の装甲を破壊し中身が見えた。
「見つけた!!」
「テメェ!よくも!!」
イメージは右腕からの大剣の生成。
それもブリュンヒルデの装備している特大の大剣。
何かが剥がれ落ちる感覚がしたが気にしてはいられない。
「ハァァァ!!」
ブリュンヒルデを爆砕した。
中怪物も死んだだろうか。
確認しようとしたら。
「覚えてろよ」
半透明の球場の物体が相当な速さで射出された。
中には怪物が乗っていた。
また、殺せなかった。
悔しさに唇をー噛めなかった。
慌てて手で輪郭をなぞる。目はある、鼻もある、それに唇もある。
あるのに、分からない。
喋る?多分出来るだろう。
食べる?それも同様で。
視界は問題ない。
ああ、剥がれる感覚の正体はこれか。
顔が認識できない。
恐らく他人から見てもそうなるのだろう。
本当に怪物になってしまった。
他人に見られたくない。
こんな悍ましい僕を。
いっそ世捨ての旅にでも出ようか。
それも悪くない。
…そう言えば傭兵の仕事の根も葉もない噂話。
デイブレイク国にはあらゆる呪いを祓い、渇きを癒す聖女がいると。
本当に噂の域を超えない伝聞だ。
だけれども、悪くはない。
では早速顔を隠しデイブレイクに向かおう。
願わくばこれがもう一人の怪物に安寧を齎しますように。




