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セイムベルの悲劇2

推奨BGM S●s puella ●agica!

『亡国の王子』ユーリィ・セイムベル


あの日から早二ヶ月が経った。

唐突にレレイ・ガンド王国に白装騎兵ーブリュンヒルデが現れた。

この世界の人間には及のつかないような緻密な意匠の白い人型はレレイ・ガンドの国民と貴族を根こそぎ鏖殺した。田畑は無残に焼け焦げ、死体は半ば爛れてシミと化している。

なんて惨いのだろうか。


僕はあの件の後、父上から直々に縁を切られ。傭兵の仕事で一日を食いつないでいた。

レレイ・ガンド王国では父上の悪政は有名で僕は父上の元息子と言うだけで肩身の狭い思いをした。農民には石を投げられ。商人にはツバを吐きかけられ。同業には金を巻き上げられた。

それでも生きていた。


ああ、僕は生きていた。


決して愛国心があった訳ではない。

けれど鏖殺をする首魁の顔は見たかった。

例え、それが僕の考えた最悪であっても。


いや、最悪は案外悪くないのかも知れない。

だって彼と笑ってまた話ができるかもしれないのだから。


相手は鏖殺魔であるのにそこに可能性を見出してしまった。それが僕の罪だ。


荒れた大地を踏みしめ、意を決してブリュンヒルデの前に立つ。


「我が国を乱す不届き者め!その姿、白日の下に晒すがいい!」


ボロボロの薄い布の服一枚を纏いながらそれでも騎士然と声を張り上げる。

不思議と安堵する。

彼に憎まれていても構わない。

でも、それより先に生きているならこれほど嬉しい事はない。


案の定、見知った顔が見えた。


「ケイイチロウか」

「…久しぶりだな、ユーリィ」


見知った顔なのに、そのはずなのに。

白く染まった髪は戦禍に煌めき、赤く爛々と光る目は悪鬼のようだ。

体は硬く引き締まり極限まで絞った弓のような力強さを感じる。


これが、あの本当にオミ・ケイイチロウなのか?


「何故、無辜の民を鏖殺する。憎いのは父上と僕だろう」

「……」

「答えろ!ケイイチロウ!!」

「残念だな。俺はこの国の全てが憎い」


冷や水を掛けられた気がした。

意識に空白が生まれ、所在が分からなくなる。

やはり僕は思慮が足りない大馬鹿者だ。

今の現状を見れば言わずとも分かりきっているだろうに。

鏖殺なのだから。


「何、で」

「何でって、そりゃあ俺を棄てたからだろ?無辜の民?そいつらはあの外道王のついでだな。ハ⚫︎ピーセットみたいなもんだ。ただの気晴らし」

「は?」


余りの言い分に言葉をなくした。


「クラスの奴らはどこよ、直ぐに殺して…」

「もういいよ」


泣いていた。

いつの間にか親友は怪物に成り果てていたのだ。知らぬ間に、確実に。


「ちょっと黙ってくれないかな…」


決意した。

ここに親友のオミ・ケイイチロウはいない。ここにいるのは怪物だ。

僕が怪物を殺す。


「へいへい、じゃあユ、ゆ?えーと名前何だっけか。忘れたわ。取り敢えずホモ男、死ね」


生憎僕には武の才能はない。

ただ一つ、全力で練度を上げる才能しかない。

この場で必要な力を一つとして持たず。死を待つだけ。

御伽噺のような魔法はない。

希望もない。

あるのは腹に括った一本の槍と安物のボロ剣だけ。


僕は足りない。

何もかもが欠如している。


異能、もしそれが僕にあるのならあの怪物を親友に戻せるだろうか。

いや、殺すのだ。

殺さないと駄目だ。


機兵の大剣が迫るー。


「どこで間違えたんだ…僕は」

「存在自体だろ」


ー。

ーー。

ーーー?


いつまで待っても衝撃が来ない。


それもそうだ。


僕の腕の巨大なタワーシールドが大剣を阻んでいたのだから。

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