断章 憤怒
第三章、開幕ー。
今回は導入ですが、三人称ってキツイですね…あまり得意ではないですよ。
ここからは各キャラの動向が続きます。
今回はーこんなに愉快な異世界でっ!!から、あのキャラが…。
「な、何だよ。コレ…聞いてないぞ!!オイ!ゼウス聴いてるのか!?おかしいだろ!どう考えても!先に死んだ弟が何で兄である俺より強いんだよ!!ああ!憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒憤怒ッ!!!!」
場所は因果崩壊魔獣式ENVY&ERRYの上空。悪夢的な短調の曲が断続的に流れる中、鴉の如き漆黒のコートを羽織った中学生程の男子は独り憤怒した。
彼の名前はー杉原智人。
杉原清人、エンヴィー・メランコリアの実の兄にして神に育てられた憤怒の遣い手。
なるほど、造詣は確かに似ている。
けれど決定的に違っている。
彼は呪詛を吐く、自分の有利性を覆す異形に。
必ずかの異形から全てを奪い去り嘲笑を肴に酒を飲み干すと決めた。
「あれの知恵の盃は他と違って意思があるってから準備したのに。何アレ。チートだチート!!俺以外にチートは要らないの!!分からないかなぁ!!低俗!醜悪な馬鹿!!阿保!!間抜け!!!」
がー罵倒を唐突に止め、天に手をかざした。
「で!も!全部俺の力になるから溜飲は下げられるか。本当、馬鹿かな?清人クゥン!ささ、おにーさんに全部寄越せよ!!オラァ!!!」
荒々しく宣言する。
刑罰を言い渡すかのように。
自己の正義を盲信するかのように。
「憤怒ッ!!」
彼は憤怒の遣い手。
正義の使者。
その思考は単純にして明快。
憤怒は主人公の力。だってアニメ、小説では主人公は大体憤怒の力を使うから。神から育てられたというのは主人公の特許でありステータス。転生すれば尚良し。例えそれが自殺のせいであっても。
更に神から賜ったアダマンタイト鋼の武器。金貨、酒。
強い男が手にすべきモノは女以外全てがある。
ならば、強き男である彼は世界を救う勇者であり、悪を決定し捌く権利のあるたった一人の特別な人間なのだ。
そう考えている。
彼もまた、エンヴィー・メランコリアや平塚七海と同じくエゴイストなのだ。しかも、拗らせているのが尚更タチが悪い。
「奪うって楽しい!!!力が漲るぜ!!って、あ?睨んでる?弟風情が俺を睨んでる?この!尊い!俺をッ!?」
悪鬼の双眸は間違いなく彼を捉えているが邪魔な蚊トンボが飛んでいるのを見つけたかのような少々の不快感を示すだけだった。
ある種徹底した無関心に彼は怒りを一層強め、実力行使に出た。
「はぁ、弟を躾けるのもおにーさんの務めか…ダリィ。まぁしゃあない。メルヘンリート・カルグネイデスで分からせるか」
腰に括った鞘から細剣を抜く。
その動作は滑らかで、熟練した雰囲気がひしひしと感じられる。
しかし同時に苛烈な性格とは余りに不釣り合いな動作の為、違和感に苛まれるような印象を受ける。
「光告げる我が病みの御剣」
光と闇の対となる光が悪夢を克明に照らし出す。
「メルヘンリート・カルグネイデスは精神を溶解させる武器だし。これでいっか。じゃあな、雑魚愚弟」
彼は忘れている。
いや、怒りに任せて忘れてしまった!
肝心の知恵の盃を取っていない事を!
そしてー魔獣が。
因果崩壊魔獣式ENVY&ERRYがまだ健在であるという事を!!
彼の極めて杜撰な処理は未曾有の大災害を引き起こすー。




