ラストバトル1
「やっぱりな」
「ようこそ僕。歓迎するよ」
そう言ったのはENVYその人だった。
そう、人だった。
あの悍ましい怪物の姿ではなく、俺よりも一回り背の低い男子児童という風体だ。オマケに俺と同じ霊衣を見に纏い側から見れば兄弟に…姉妹に見えるだろう。
しかし、それでもENVYは敵なのだ。
目的はブレない。
「ねぇ、エンヴィー。僕と一緒に世界を、宇宙を破壊するってのはどうかな?」
「何だそれ。今更流行ると思ったのか?」
そう茶化すがENVYの目は真剣そのものだった。
「僕は本気だよ。こんな世界なんてあっちゃいけない。それに知恵の盃に聞いたんだ。僕が宇宙を破壊出来るかって」
無意識のうちにゴクリと喉がなった。
戦場とはまた違う異様な緊迫感が場を支配するのを感じる。
「0.01%それが僕が宇宙を破壊出来る可能性」
「話にならないな」
鼻で笑い飛ばす。
我ながら本当に下らない。
あと、知恵の盃はあっちで油を売っていた、と。許さん。絶対に後で何かしらの制裁を加えてやる。
「でも、それは飽くまで僕だけの場合だ」
…予想はしていた。
けれど、考えたくはなかった。
「エンヴィーと僕がいれば可能性は23%にまで上昇する」
だってそれは余りに魅力的過ぎるから。
俺を産めなかった無能な親に復讐し、愛を享受する人間を嬲り殺し、俺を兵器として育てた愚図な神々を八つ裂きにし、神々の創造した大地を余すところなく貶め、残虐の限りを尽くして壊しに壊す。最後に神々を生んだ源たる宇宙の因果律を滅茶苦茶にして全ての過去、未来、現在を並行世界ごと丸ごと消失させるのだ。
そんなことを考えていた俺がなんとか発した言葉は。
「そんなこと、ルピナスは望まない」
これしか無かった。
情けない。
ENVYは返答を聞き笑みを深める。
「いいや違う。ルピナスならエンヴィーがしたいようにすればいいって言うな。応援だってしてくれるかも知れない」
「違うッ!!」
ルピナスは幻影で、俺の願望の投影結果でしかない。
けれど、だからこそ違うのだ。
俺が望む彼女は寡黙で、神秘的で、良いことをすれば褒めてくれる人だ。
決して悪を推奨する人じゃない。
「もしかして、これが悪だと思った?エンヴィー、君にしては冴えないね。これは正義さ。君も平塚を殺そうとしたときに思ったんでしょ。死が最大幸福だって」
「…でも、俺は殺さなかった」
ENVYは底冷えのするような感情の抜けた目を俺に向けた。
「それは体裁を気にして殺さなかっただけに過ぎない。気付いてよ。楽にしてあげるのが正しいって」
「それは、傲慢だ…」
「そうだ。でも」
突然に足元にナイフが刺さった。
「それのどこが悪い?」
俺はその装飾のない実用的なナイフを拾い、構えた。
余り使ったことがない武器なだけに構えはぎこちない。
「俺はお前の側には付かない」
「なら、そうだ。やる事は一つ」
「分かってる」
示し合わせた訳でもないが、俺たちは吸い込まれるように互いに近づく。
「「ガチンコだ!!!」」
先制はーENVYだった。
「!?」
その手にはいつの間にか茜色の大鎌が握られていた。受け流しを断念し、回避に専念する。
「何だよ、ソレ」
「これが君の大鎌の真の姿。銘は天地深夜」
ここで気付いた。
回避出来ている?
戦化粧に血を求め(ブラッディ)を使っていないのか?
何故?
いや、条件を合わせた積もりなのか?
しかし、武器には絶対的な不利が確定している。
この考えには符合しない…。
半ば投げやりに振るったナイフが何かに当たった。
「やるね」
間合いですらなかったのに当たった。
ナイフが伸びた?
もしかしてー。
「そういう絡繰か」
ナイフを一振りするとそれは錆びた大鎌に変化する。
「案外早かったね」
「ああ、これで対等だ」
「対等?思い上がったね、エンヴィーそれでも嫉妬の下僕かな」
茜色の大鎌は紅色の大鎌に変化しー先ほどの倍速で俺に迫る。
「有声慟哭」
有声慟哭で天地深夜が当たる前に自ら弾かれる。
「勝負はこれからだよ」




