これからいせかいにいくよ
暫くしてそれは現れた。そこら辺の枯れた太めの枝をヤスリでゴリゴリと削ってくっ付けたかのような。常人は正視する事が出来ないであろう造詣。
間違いない。神だ。ここまで酷い造詣なんて人間要素を収奪した後の神くらいなものだ。一体どうしてこうなったのやら。
そう言えばとルピナスを見る。
すると視線が交差して気恥ずかしくなりそっぽを向いた。餓鬼か俺は。
何がともあれルピナスは神を見ても平気のようだ。…何だろう横から微笑ましい物を見る目で俺を見る視線を感じる。
こそばゆい。彼女がいたらこんな風になるのだろうか。
頭を振りそこまでの思考を振り切る。
「…転生するんだろ。手早く頼む」
口を模した枝が生物的に曲がり言葉を紡ぐ。何とも悍ましい。精神衛生上、よろしいとは到底思えない。
「承知しております。杉原清人、貴方は転生します」
「今はエンヴィー・メランコリアだ」
今の俺はエンヴィー・メランコリア。
杉原清人はもういない。いや、元よりいない。生まれなかったのだから。
「分かりました。エンヴィー・メランコリア。貴方は転生します」
俺を起点に全てが光に包まれる。
「楽しみ?」
「楽しいだろうよ」
ルピナスと一緒なら。と言う言葉を飲み込む。これから俺は命を狙われる。そういう風に決められているからな。
けれどそんな逃避行ですらルピナスといれば案外いいものではないかと考えてしまうどうしようもない俺が確かにいた。
俺は大馬鹿だ。ばーか。ばーか。
中学生でもここまで酷く無い。脳内ピンク色か、と自らツッコミたくなる。
…これが幸せを享受しているっていう感覚か?あの違和感は今まで幸せと言う幸せを感じたことがなかったからか?
慣れれば普通になるのだろうか。
俺は間違いなく幸せだ。でも俺がどうして幸せなのか。違和感の正体は何なのか。俺は答えを出せない。
「エンヴィー」
「何だ?」
「ずっと…一緒」
「ッ!?」
不意にそんな事を言われー俺はこの空間から消失した。
◆◆◆
「……」
木の枝の神は不審な目つきでそれを見ていた。
自らをエンヴィー・メランコリアと名乗る杉原清人。
ー控えめに言って狂っている。
「楽しいだろうよ」
「………」
木の枝の神はそれを聞いた。そして全てを察した。その余りに可哀想な一つの答えに。木の枝の神は知恵の盃を取り込んだ元危険因子と言う理由で地球から隔離された神だ。故に神の苛烈さ、陰湿さを誰よりも理解している。
「これ程救われない人は見た事がありませんね」
その呟きは誰にも届かない。
ペイラノイハは魔物が存在する世界。
エンヴィー・メランコリアに対してのみ極端に相性が良過ぎる世界。
「杉原清人、貴方は…」