ブラッディ
『第一階層、至れなかった時』
目を開けるとそこは奇妙というより不気味さが強い空間だった。
悪魔の舌を連想させる赤黒いカーペット。両脇にそびえ立つ棚は半ば腐りかけた肉で出来ており、そこには目が垂れている斧や槍を持った人形が不規則に陳列されていた。
「速攻で終わらせる…戦化粧に血を求め(ブラッディ)」
集中を高めるが、結論から言えば戦化粧に血を求め(ブラッディ)は不発に終わった。
それもそうだ。
戦化粧に血を求め(ブラッディ)の行使は俺の限界スレスレのーそれこそ出血を引き起こすレベルで体と心に負荷が掛かる。
心の大半を魔獣に持っていかれた残り滓の様な俺では発動出来ないのは道理だ。
「!?」
予想通り、棚から人形達は這い出し襲い掛かってきた。全身を血に染めながら。
俺が血塗れになる状況はそう多くなかった。ならば、この魔獣がやっているのは紛れもなくー。
「戦化粧に血を求め(ブラッディ)を使うのか!?」
非常に不味い。
戦化粧に血を求め(ブラッディ)は動作の極致。回避は難しく、防御するにしろダメージは極めて大きい。
が、継続した戦闘が極端に不得手となる。けれど問題はその人形の数だ。
余りに多い。
二体、三体ならまだしも数十体を同時に相手取るのは自殺行為に等しい。
「あんよ、あんよ」
「あんよ、あんよ」
「あんよ、あんよ、あんよが上手」
「巫山戯やがって!」
仕方なく下位互換の鬼士は死せず永劫を謳う(デモンズ・ネバーエンド)を発動し迎撃を開始するが、人形達の暴虐は圧倒的過ぎた。
「あははは」
「あははは」
「あははは、あははは」
無感動に、無感情に、無邪気な笑い声を残しながら貫き、斬り裂き、殴打した。
しかし、肉体は再生はしない。
錆びた大鎌が使えないからだ。同様に咆哮、有声慟哭も使用不可。咆哮呪怨滅殺は呪いを使う技の為、論外だ。
敵は俺の呪いエネルギーの集合体ENVYなのだ。
どんな鬼畜だろうか。
今でこの程度なら本体は確実に咆哮呪怨滅殺を使うだろう。
どう勝てばいい?
そもそも勝てるのか?
…勝ち筋が見えない。
取り敢えずは遅延だ。それしかない。
自爆を待つしかないのか。
「くそッ」
歯噛みする。
どうにか危うい薄氷の上にでも均衡は成り立たせている。
けれど、もう限界なのだ。
蹴り砕いた人形はそのまま泥状になり足にへばりつき次の手の初動を確実に遅めている。
そしてー均衡は壊れる。
泥に足を滑らせたのだ。
「嘘だろ…」
 




