エンヴィー
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体から何がごっそりと剥離した言い表し難い感覚が俺を襲った。
俺の心。その絶望して膿んだ部分が容赦無く体を作り替える。
そして、理解した。魔獣のメカニズムを。
絶望が呪いへと変じた呪いの莫大なエネルギーは人間の体には凡そ不釣り合いに大きい。だから体が呪いの生み出すエネルギーに耐えれる様に相応しい形に変異する。
そして呪いのエネルギーを消費し尽くせば萎んだバルーンの様に元に戻る、と言ったところか。
『E』
『N』
『V』
『Y』
けれど俺は「今」絶望してはいない。
俺がしようとしている事は恐らく正しくはない。何せジーキル博士とハイド氏の模倣に近しいのだから。
即ち、俺を二分して魔獣の俺を打倒するのだ。
ギチギチと体が裂ける音がする。腕を見ればケロイドの残る皮膚に眼球を浮かべたような醜悪なものに変わり、手は二本の鋭い鉤爪に変わった。
背中からは一対のボロボロな翼が生え、頭と腹部が異様に肥大化する。
鏖殺心象魔獣式ENVY。
それが、悍ましい産声を上げた。
そして俺は魔獣の肉塊から無理矢理這い出しそれを見た。
「天地蠱毒だな」
子供、と言う特性と化け物、と言う特性が色濃く現れているようだ。
やはり、胸には赤黒い呪核があり魔獣である事が分かる。
「知恵の盃?」
返事がない。どうやら今回は使えないらしい。
とーENVYが吼えた。
瞬間黒い靄は霧散し、代わりに一面に潰れた球根が敷き詰められた地面が表出する。
「俺は心象迷宮に挑戦する」
反応はない。
「開演前に迷宮の挑戦は出来ない、か」
空には不気味な月が浮かび、星が幾度となく流れ、遊園地の音楽を短調にした悪夢じみた曲がかかり出す。
前進すると球根とは別の硬質な感触が大正浪漫のブーツを経由して伝わった。
それは血に濡れた髑髏だった。
俺は足場が悪いな、と踏み砕く。
尚も前進し続ける。
球根が潰れて粘着質な液体を吹き出す不快な音と悪夢じみた曲が合わさり耳が麻痺しそうだ。オマケにENVYの吼え声付きときた!
これほど嬉しくないハッピーセットはない。
「ルピナスもいないな。行くぞって言ったのに」
完全な単騎駆けとなってしまった。
けれど、やる事は変わらない。
俺はかつての俺の死体を超えて征くのだ。
『開演』
「俺は心象迷宮に挑戦する」
姿は搔き消えるー。




