エゴイスト
ブックマークに感謝を。
ブックマークって貰えるとよっしゃ!ってなりませんかね。
てな訳でブックマーク、評価等々ウェルカム!略称も募集中です。
曲穿との邂逅を忘れようと布団を被り懸命に目を瞑る。
別に腹が減ってはいない。夕食は別に不要だろう。
何時間そうしただろうか。
眠れなかった。
仕方がないので夢遊病患者みたいにアテもなく院内をフラフラと歩き回る事にした。
廊下の手摺を何となくコンコンと叩いて見る。
あれだ、暇を持て余すと無性に何かに触ったり弄ったりしたくなるあれだ。
反応に期待している訳でもない。
劇的な状況の変化に期待している訳でもない。
その行動には時間を潰す以外の意味は、無い。
その、はずだった。
「あら、夜更かしなのね」
「『エゴイスト』か」
慈愛に満ちた優しげな榛色の垂れ目は間違いなく彼女のものだ。ただ、戦った時とは違い厚手のローブからワイシャツの上に灰色のニットベストを着て下はジーンズを履いている。
普通の格好ではあるが僅かな街灯に照らされた姿は蠱惑的で不覚にも喉がなった。
こう見ると大分若く見えるが歳は幾つなのだろうか。…聞かないけど。
「何でここにいる?」
「私は普通に治療中。貴方もでしよう?」
治療、と言われてもイマイチしっくり来ないがそう言う事なのだろう。
「そう言えば、何で『エゴイスト』なんだ?本名、あるだろ」
「ああ、私の本名は平塚七海。『エゴイスト』の理由は、そんなに楽しいものじゃないわ」
「そうなのか」
「そうなのよ」
沈黙。
「まぁ、これも何かの縁だと思って語るのも悪くないのかな。どう、聞きたい?」
「ああ」
「私ね、ヤンデレと言うかメンヘラと言うか。そんなきらいがあってね…。よく独りよがりとか言われてさ。それに彼氏に対して過保護とか、そんな事を言われ続けて。だったらいっそ私は自分のエゴに殉じてやろうって開き直ったの」
「だから、『エゴイスト』」
何だか似ていると思った。
だからこそ俺を養子にしようとしたのかも知れない。
「貴方も同じでしょう?私と同じ、自分のエゴに殉じる人間の目をしてる。だから放っておけなくて養子にならないかって言ったけど振られちゃったし」
「……」
彼女はどこか悲しそうな口調で言った。釣られて俺も何だか悲しくなった。
「でもさ、覚えておいてね。自分のエゴに殉じる人間は皆んな脆くて綻びやすいの。だから誰かが側にいないと直ぐ壊れちゃう。だから一人にならないで」
「じゃあ、平塚は、どうなんだ。一人だろ、辛くないのか?」
平塚は少し思案するように首を傾げる。
「辛いよ。誰か、側に来て欲しい。でも、多分それは貴方でなくても良いんだと思う。結局、同類でさえあればね。だから」
手を俺の頭に乗せて優しく、丁寧に撫でる。
くすぐったい。
「貴方が心配しなくても良いわ。辛くても私は平気」
俺が人の心配?
馬鹿な。悪魔が人の心配をするか?
否。断じて否だ。
俺は凡その人間に嫉妬し、嫉み、妬む最低のクズだ。
彼女はそれだけ言って踵を返した。
背後はガラ空き。その気になれば『死』と言う絶対幸福を叶えてやれる。
しかし、何故だか殺す気が起きない。
それは自ら幸せになろうともがく彼女に対して酷く失礼に思えるのだ。
ああ、たかが頭を撫でられた位で意志が揺れてしまう自分の愚かしさが心底憎たらしい。このエロ餓鬼が。
でも、不思議と気分は悪くない。
とー眩しくて腕で目を塞ぐ。
朝日がのぼったのだ。
俺は慣れた目でー感傷的な気分でそれを見た。
「デイブレイク…か」




