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マガツ・ウガチ

病院のベッドの上で目が覚めた。

気絶したのは久方ぶりなので感慨深く…ないな。道化と戦って気絶したから久方ぶりと言うのは無いし。

身体に一切の傷は無く調子もすこぶる、とは行かないが悪くは無い。

窓の方を見ると夕日が差し込んでおりこれからいよいよ一日が終わると言う頃合いだった。


「あ、起きたね」


そんな寝起きの俺を覗き込むようにして体を傾ける少女がいた。その少女は短髪なようで髪が俺に触れる事は無かったがどうも不快な既視感があった。

落ち着いたマロンペーストの髪。

焦げ茶色の瞳。楽しげな大きい口に、若干太い眉の、美少女。

ルピナスと対になるような白のワンピースを纏っている。


ああ、そうだ。

コイツが曲穿マガツ・ウガチ


理解した瞬間慌てて距離を取る。

がー。


「まぁまぁ、逃げないでよ」


と、長い腕に邪魔される。その瞬間フワッと漂う金木犀の香りが鼻をついた。


「手紙、見てくれた?」

「手紙…?」


そう言えば、フラワーショップ・橘でカエルのおっちゃんから貰っていた。

と、なると。今、手紙はカバンの中に放置しているものに相違ない。


「その様子だと見てないみたいだね」


やれやれとややオーバーに肩を竦める曲穿マガツ・ウガチ。いきなり現れた癖に大きな態度だ。謙虚と言う言葉を知らないのか。


「…それが?」

「まぁ、手紙の内容なんだけどね。君、デイブレイク・シーカーズに入らない?」


デイブレイク・シーカーズは流れの日本人で構成されたコミュニティだ。そしてデイブレイク・シーカーズが肥大化し、現地人を抱き込む形で国家となったのがこのデイブレイク国。


今、デイブレイク・シーカーズと言えば十二の州を統治する謂わばこの国の最高機関。

エリートコース、勝ち組、言い方は様々だがそのどれもが正解である。

兎に角、何が言いたいかと言えばもの凄いところだ、と言う事のみだ。


ヘンケンの受け売りだが。


「何で、俺に?」

「うーん。言っていっか!私ね」


不自然ににこやかな笑顔を向けてきて、君が悪い。何か、えらく不吉なものを感じる。

しかし、それは害意でもなく。

悪意ですらない。


「ここの神様と繋がってるんだ!」


静寂が訪れた。夕日が沈み暗幕が垂れたような暗さが辺りを支配する。同時に体温も低下したように思いゾッとした。

ここの神様。ペイラノイハの神。

そうか、遂に干渉しに来たか。

怯えや憂いをニヤリとしたニヒルな笑いで隠しつつベッドから降り、ゆっくり、ゆっくりとにじり寄るように接近する。

その様は獲物を見つけた蛇にも似ていた。


「ねぇ、杉原清人」


瞬き一つしない間に少女は趣を変えていた。

先程とは打って変わり氷のような冷ややかな視線が刺さる。ここには快活な少女はもういないのだと認識し、一層の注意を払う。


「もし、知恵の盃の欠片を私も持ってるって言ったら…どうする?」

「!?」


本日何度目かの衝撃が走る。けれどお構いなしに曲穿マガツ・ウガチは続けた。


「改めて自己紹介しよっか。私は曲穿マガツ・ウガチ時任静香。ペイラノイハの神様の眷属だよ」


眼前の少女ー神の眷属はそう宣った。

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