どりーむ
さて、まだまだ本編じゃないね…。
でも、こっから展開がヤバくなるよ…。
是非付いてきて下さい。
あと、感想、レビュー、評価お待ちしております。
ゴキリ。
音がした。
ゴキリ。
再び音がして。
ゴキリ。
また音がした。
それと同時にーあり得ない結末を見た。
◆◆◆
「はっ!」
酷い夢を見た気がする。
この頃の夢見は最悪と言って差し支えない。どうやら宿屋に戻ってから直ぐに寝こけたらしい。
カーテンを開けると朝というには明る過ぎる光が出迎えた。
「…昼か」
「遅かったね」
頬杖をつきながらまったりと告げるのはルピナスだ。ルピナスも寝起きなのか欠伸を噛み殺している。
「…この時間だと闘技祭の『鬼面』対『伏』は満席で見れなそうだな」
今が時間的に一番混むのだ。
いつ人を突発的に殺したくなるか分かったものではないし人混みは避けたい。
「エンヴィー」
「何だ?」
「デートしない?」
◆◆◆
やはり仲良く手を繋いで街を歩く。
ルピナスの手は今は少し冷たい。
所在が不安定な気がして少し不安な気分になる。
けれど彼女の手なのだ。
それだけで十分だ。
「エンヴィー顔緩んでる」
「お、おう?」
どうやら破顔していたらしい。
でも、良いではないか。
久々にこんなに楽しいのだから楽しめばいい。
「そう言えばルピナス。ルピナスって花があるの知ってたか?」
「うん」
「俺、さ。母親と呼べる母親がいないんだ。だから…母さんがいたら、こんな感じなのかなって。あ、いや。ルピナスの花言葉が母性愛だったからさ」
気恥ずかしい。
告白した相手に母親の影を見ていた、何て言うつもりは無かったがついつい言ってしまった。これもデートの魔力だろうか。
「なら、今日一日は私がエンヴィーの母親代わりになる?」
「いや、飽くまで俺はルピナスを守れる男でありたいんだ。有難いけど許容は出来ないな」
まぁ、実際グッと来ない事もないが。
そもそも、母親って何をする人なのだろうか。
昔、神々は言っていた。
女性なんてセックスして子供を産めばそれだけで母親足ると。
そこに最早資格も覚悟も無く、子供に愛を教授する事も無い。
それは余りに淡白過ぎるのではと思った。
でも、違った。
俺が人間の要素を蒐集していた頃だ。
金髪の売女が子を孕んだ。
そいつはその子供を産みー棄てた。
俺は怒りで頭が真っ黒に染まり、気付けばそいつから人間の要素を剥奪していた。
俺は死後の世界で沢山の死を見てきた。俺と同じ水子の霊も腐る程見た。
水子の霊は一様にこう言う。
「産まれたかった」と。
しかし、実態はこのザマ。
産まれたところでどうなる?
愛なんて普通に貰えるなんて幻想だ。
媚びて、甘えて、必要としても、愛は与えられない。希求は却下に終わる。
後に残るのは母親と言う偶像を求める俺たち。子宮の街に入られた頃の暖かさの残滓を求めて咽び泣くのだ。
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて。
終いには呪うのだ。
結論から言えば母親は麒麟や鳳凰と同じ幻獣の類いである。その為、生態は不明だし、所在も不明だ。
「…本当、母親って何なんだろうな」
考え込むうちに街を一周してしまった。
「なら、母親っぽそうな事、やってみる?」
男は案外、欲望に逆らえないのかも知れない。
◆◆◆
宿屋に戻ってから換気のために窓を開ける。風が涼しい。
「はい、膝枕」
黒のワンピースから覗く白い膝をおずおずと差し出す。
成る程ー母親っぽい。
頭を載せるとふかっとした。
ルピナスの手が優しく前髪を撫でる。
不意に手を止めたりして焦らしてくるがルピナスの顔は悪戯っぽくて、優しくて。
不思議と涙が溢れた。
「御免なさい…」
俺は何を謝っているのだろう。
でもすんなりと言葉が出てくる。
「貴女を殺して、御免なさい」
…俺今何て言った!!!
嘘だ。
そんなはずない。
だって、だって俺は。
ハハッ、疲れてるんだ。
きっとただの空耳だ。
これはただのー泡沫の夢だ。
「本当かァ?」
うるせえ。




