まま
闘技祭三日目。
嘆息しつつ目頭を揉む。
まず、見逃しがあったのだ。
思えば簡単な事で、A、B、Cの三ブロックからなら残るのは三名、決勝は三つ巴の様相を見せるだろう。
だが、ここに来て三つ巴にするメリットは?無い。そう、無いのだ。
それが意味するところはーエクストラ枠の存在。恐らく、曲穿の配下。
さて、何故今になってそんな事を考えているか、と言えば。
Cブロックは数秒で決着が着いた為暇になったからである。
冒険者ギルド所属『エゴイスト』エゴイスティック・マッド・マリア対冒険者ギルド『可憐』エリフ・エリス。
勝者は『エゴイスト』エゴイスティク・マッド・マリアだった。
『エゴイスト』エゴイスティク・マッド・マリアか『鬼面』ユーリィかはたまた曲穿の手下か。明日はどっちなのやら。
エゴイスティク・マッド・マリア…EGOMAMAは妖艶な女性だった。ルピナスより下等だけど。
使う武器は鞭。一部の紳士に親しまれそうなそれは彼女が持つとその意味を大きく変える。
即ち、心を砕き、屈服させる最悪の武器。
だが、彼女の武器自体は問題にはならない。問題は彼女の従える六体の化け物だ。
苦悩し、怨嗟の声を上げる腐った鹿の死体ー通称ヒーロー。
暴虐を尽くし反抗を掲げるバッタの群れー通称スケープゴート。
徘徊を繰り返し敵愾心を煽る小鼠ー通称ロスト・ワン。
無意味な動きと時折投擲するナイフでペースを崩させる盲目の猿ー通称クラウン。
EGOMAMAの側で彼女を甲斐甲斐しく補佐する兎ー通称イネイブラー。
そして、EGOMAMAの寵愛を受けるだけの存在、EGOMAMAの実の娘の死体ー通称プリンセス。
EGOMAMAの異能、ネクロマンシーによって仮初めの生を与えられたその化け物達を前に『可憐』エリフ・エリスはあっさりと敗れ去ったのだ。
戦える個に対してのメタとして制圧の数。それは一見矛盾しているようで案外正しい。要するに、集団リンチだ。
無双が出来なければ数の中に埋没する。
けれど幸い、俺とは相性が良い。
俺には錆びた大鎌から繰り出す広範囲の攻撃がある。それも威力が強い。
それに前回は無かった決めの一手が今はある。
…まぁ、同様にユーリィもオルタナティブを使えば割りかし楽に攻略出来るだろう。
となると警戒すべき敵は一人で良い。
『鬼面』ユーリィ。
だが、彼には礼がある。
俺にオルタナティブを見せてくれたのだから。彼と戦うのなら感謝と共に笑顔で使おう。
簒奪を。
さぁて、模写はどこまで保つかね?
ん?保つ?
いや、何でもない。
そう。
何でも、無いや。
「案外順調に綻んでるなァ。エンヴィー。破綻は近いぞォ」




