ろすと
そんな気がしていた。
ルピナスは常に俺の心を覗いているように行動する。
だからこの帰結はあり得ると思っていた。
独りで帰宅して、独りで食事を摂る。
目に見える世界は灰色に変わる。
これが、本来俺が見ていた視界。世界。
停滞だけが残る代わり映えしない退屈な日々。
ルピナスがいないのだ。
俺は罰せられているのだ。
俺が罰を望んだのだから。
ルピナスは俺の断罪を成した…。
とー脳裏にある光景が浮かんだ。
唐突に。突発的に。
俺がスタジアムのステージに立ったとき…俺の見た方向には埋まった席しかない。
俺が道化と相対したとき、そこには鬼面の少年しかいない。
何だ、これは?
何だこれ何だこれ何だこれッ!!
勝手に脳から溢れ出て来る!!!!
やめろ、これ以上見せるな!!
俺の髪を撫でた手はそよ風に変わり。
エリーと戦ったときの慰めも決意も虚しく風に混ざり。
出会いすら不可視に変わる。
「貴方は、それでもこれが正解だと言えますか?」
こんな事をするやつなんて。
「ペイラノイハの神か…!」
怒りを持ってそれを睨みつける。
気付けばここは宿屋ではなかった。
あの夢の中の世界。泡沫の天も地もない空間。
「貴方、本当は気付いているのではありませんか?」
その口は生物的に動く様を見ると背筋が凍りつくようだ。
「何に、だ」
動悸が激しくなる。汗がダラダラと流れ目に入って痛い。けれど、心はもっと痛がっているだろう。
聞いてはいけない。聞いては駄目だ。
そう言い聞かせる他無い。
「それはー」
しかし、続きは言われなかった。
夢は覚める。
「かはっ」
酷い夢を見て宿屋のベットから飛び起きた。
俺の横ではルピナスがすよよと規則正しく呼吸している。
極めて当たり前の光景。
当たり前で異質な光景。
「………」
やはり俺は悪魔なのだろう。
確かめたくなってしまった。
否定して貰いたいのだ。俺の考えを。
だからー無防備な白い喉に両手を伸ばす。
普段は美しいソプラノボイスを奏でる、愛しい人の喉。
「エンヴィー?」
突如、ルピナスの目が覚めた。
おいおい、どんなタイミングだ。
「どうしたの?そんなに怖い顔をして。どこか、痛い?」
気遣うようにこちらを見つめるルピナスに俺はー。
「痛いよ。とっても」
「それがテメェの答えかァ。あぁ、クソォ。つまらねえェ。つまり、結末は一つなんだよォ。心の防衛機構がいつまで保つか、見ものだなァ」




