りゆうはかんたんだったよ
道化はゆっくりと緩慢な動作で動き出した。敵意はある。間違いなく敵だ。
だが甚だ疑問だ。何故この道化は戦うのだろう。何を以って迷宮の攻略とするのか。
錆びた大鎌を構える。直後一陣の黒い風が凪いだ。俺ではない。鬼面だった少年だ。
俺の錆びた大鎌を振るい確実にダメージを蓄積させていく。俺もまたそれに倣い斬撃を加える。俺の前に豪腕が迫るが最低限の移動で回避する。豪腕が通り過ぎた後の地面は抉れており流石に当たれば再生も一苦労だと思われる。
突然、道化は動きを変えた。
指揮棒を振る様な動作をしてーヘッドホンイソギンチャクが一挙に出現したのだ。ヘッドホンイソギンチャクは元凶であり関係の崩壊、つまり破壊の象徴。
固有結界にいたモノとは込められた意味も強さも余りに差がある。雲泥の差というやつだ。
ただ、解せない。
何故ヘッドホンイソギンチャクを生み出す?それは負のイメージの具現であると言うのに。不快な物を排出し、それが破れる姿が見たいのだろうか。
いや、何か。
決定的に何かを見落としているような。
嫌な予感がした。
そういえば、『エリー』の時のように名前が示されていない。
ヘッドホンイソギンチャクをいなしながら再び道化を見る。
違う。
そうだ、魔獣のイメージが正しいとは限らない。
考えろ、ここは異世界だ。俺が産まれる筈だった日本でもない。ましてや育った死後の世界でもー。
「死後?…まさか」
ここに来て最悪な想像が脳裏をよぎった。呪核、呪いの核。絶望で出来ると言うがその本質は呪い。なら、絶望した人間がー道化が男の人形の元になった人間に呪われていたとしたら?
それは魔獣では済まない呪いと絶望の合いの子、合成魔獣という存在ではないか。だとすれば危険度が一気に跳ね上がる。
いや、事実は分からないし考えたところでどうしようもないから微妙だが。しかし警戒はすべきだ。一層気を引き締める。
とー。
「なっ!!」
少年が元の姿に戻り豪腕がその鬼面を捉えた。不味い、これまでの経験で分かる。相手は神だったが何度も殺した俺の勘が告げる。あれが当たれば鬼面は死ぬ。
…何を考えている?鬼面などどうでもいいではないか。それに人間らしい人間など羨ましいだけだ。救う理由が…。
「理由なら作ったじゃないか。馬鹿だな俺」
ルピナスに評価される為、ルピナスに愛される為、俺は良い子になる。
人間の命を救えばまた側に来てくれる。
役に立てば頭を撫でてくれるかもしれない。
フッと姿が搔き消える。
「悪い、ルピナスの為にその腕を貰う」
錆びた大鎌で道化の腕を裁断する。
これで腹は決まった。
「人間を殺すのは悪だと知った。だからどんな理由があれ俺もお前も裁かれるべきだ。でも、この際それはどうでもいい。どうやらーお前を倒したらルピナスに褒められそうな気がした。だから」
万感の想いで口にするこの世で一番最低で最悪な言葉。
「お前は俺が殺す」




