かんがえたよ
俺は自責する。
「なァ、エンヴィーいつまでそうしてるんだァ?そうするのが好きなのかァ?好きなんだよォ」
うるさい。
「このマゾヒストがァ。馬鹿だろォ?馬鹿だよなァ!!」
うるさい。意味わからない。
「あァ、餓鬼。餓鬼ィ。そろそろ実力行使するかァ?するんだよォ!!」
全身に激痛が走る。自傷行為とは別次元の痛み。思わず自傷の手を止める。手は血に濡れて黒々としていた。まあ、どうでも良いけど。
「ルピナスと会いたいかァ?会いたいよなァ!ならちょっとはその間抜けツラをどうにかしやがれェ!一先ずは飯だァ!ルピナスはテメェを見捨てないんだろォ?だったら男磨けやァ!そのまま愛されようなんて烏滸がましいんだよォ!!」
ルピナスに、会える?
彼女は側に居ると言ったのを反故にしてまで俺から離れた。つまり、そういう事ではないのか?『さようなら殺人鬼』って。殺人は悪だ。彼女にはさぞ堪え難い事だったんだろう。
それでも、会えると?
「あァ。良い子にしてりゃあなァ」
何だそれ。
なあ、良い子って何だよ。
教えてくれよ。キチンと定義して、噛み砕いて教科書でも作ってくれないか?漠然としすぎて分からない。それにアホらしい。
「お前なァ、ちったァ自分で考えろォ。まァヒントくらいはやるけどよォ。対価は貰うがなァ」
「対価は?」
「お前の考えた良い子の実践だァ」
俺の考えた、ね。
じゃあこんなのは、どうだろうか。
俺は命を奪った。それはルピナスを守る為の物だ。俺はルピナスさえいればそれで構わない。
吹っ切れた。やはり俺は悪魔なのだろう。上等だ。ルピナスと言う理由がある限り俺は守る為に奪い尽くす、守る為に殺戮する。
それがどれだけ歪んだ考えだとしても俺は自分のエゴに殉ずる。
ここに誓おう。
俺は悪魔でも構わない!
これが。これこそが俺の考えた良い子の像!
「ハッ、上等じゃねェかァ?上等だよなァ。上等なんだよォ」
とー、ギィと扉の開く音がする。視線を向けるとそこには俺を連行した件の壮年。
「エンヴィー少年。具合はどうかね」
「腹が減った」
俺は不敵に、尊大に告げるのだった。
彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが直ぐに面を直し、直ちに持ってこよう、と再び席を外した。
ああ、信念一つでここまで変わるのか。
案外、悪くないな。
今は雌伏の時間。ルピナスに会う為に、ルピナスに評価される為に、ルピナスに愛される為に。俺は力を蓄えるのだ。
ふと気付く。ルピナスに俺はベタ惚れらしい。今ではこの感情を自嘲する気にはなれない。
勿論、これが正規の物ではないと知っている。けれど、俺はこの感情に愛と言う名前を付けた。
依存してる?
知ってる。
ルピナスに愛される保証は?
無い。
それでも愛を騙る?
ハッ!当然だ。鼻で嗤ってやるよ。
俺はこれで良い。
手始めに目の前に出されたお粥を平らげるとしようか。
湯気を立てていい匂いを発するそれに俺は相対した。
◆◆◆
これは失敗だった。
ヒントを聞かずに答案を出したから。
けれど救いがあるとするならー対価を支払う必要がない事だろうか。




