とある少年について
早速のブックマークに感謝を。
「君はどうやって呪核を手に入れたのかね」
石造りの薄暗い部屋。簡素な木製のテーブルと椅子のあるそこには夥しい血の色彩で溢れていた。別段彼らは何もしていない。問題なのはエンヴィーと名乗る少女のような少年だった。連行途中から様子がおかしくなり散々暴れた挙句自失状態となりうわ言のように「見捨てないでくれ」と涙ながらに懇願したりとその人間性は酷く不安定だ。このこびり付いた血は全て彼の自傷行為の産物である。
対魔連盟に連れてきた壮年は頭を抱えた。彼こそ対魔ギルドと双対を成す対魔連盟が頭首、ヘンケン。
一目見て彼が転生ないし転移者である事は見抜いていた。けれど魔獣を屠り人間に戻すという職務上こうする他なかったのだ。それにどうやったかは不明だが彼は心臓を呪核を手にしていた。知らなかったとはいえ殺人には違いない。
マスターは溜め息をつき席を外す。
気分転換に外へ出るとそこは見慣れた街の風景。しかし、心は晴れずもどかしい気分になる。
「ヘンケンさん」
酷い猫背のマスターの部下が顔色を案じて声をかける。
「あぁ、ネコノ君か。ご機嫌はいかがかね」
「それよりヘンケンさん、捉えたエンヴィーと言う人物が相当厄介な案件だと聞きましたが…よろしければ担当を変わりましょうか」
再び溜め息。
「気持ちは有難いがね、ネコノ君。彼も魔化しかけている時があるんだ。心遣いは痛み入るが流石に荷が重いだろう」
「けれど…」
「彼、何も食べないし、飲まないんだ」
「え?」
「自白剤を恐れてか、将又生きる気力が欠落しているのか…彼はここのところ飲まず食わず。ああ、眠りもしないね。日夜自傷行為に勤しむのさ」
淡々と事務的に告げる口調はいっそ哀れでもあった。その裏の恐れも危惧も容易に想像できる程度には。
「なっ!?」
ネコノは素っ頓狂な声を上げる。
エンヴィー少年の印象は生きた屍といった感じであった。
端正な顔は蒼白に日々人形じみており手足は痩せ衰え…。酷い有り様だった。
「あれは最早狂気の沙汰だ。睡眠の異能もほぼ無効にするし洗脳、過去視も掛からない」
「そんな…」
「あるいは…私達は最悪の魔獣を作り出してしまうのかも知れない。知っているかね、彼の身体にはエリーの呪核が内包されている。絶望なんかしたら呪核二つ分…呪核が二つある魔獣が出来上がる。心象迷宮が何層あるかなんて考えたくもない」
不穏な空気がその場に流れる。
ふと、ヘンケンは気付く。エンヴィー少年の行動は生まれたばかりの子供の癇癪のようだ、と。
気付いてもどうしようもないが。




