トドメは俺たちらしく
『最終心象セラフ・クィンジェ』杉原清人
手にした鎌は『エンゼリカ』一本。
アザトース目掛けて跳躍し『エンゼリカ』を複製、射出。
「その攻撃頂きィ!!」
射出した『エンゼリカ』の一本一本に淡い朱色の紙が貼り付いている。
ティアの護符だ。
「ティア、狡い」
「んだよルピナスゥ?妬いてるのかァ?」
斬撃、次いで大爆発。
「僕の方のフォローは無いのか、なっ!!」
鉈が触手を叩き切る。
「ったくゥ。ルピナス、清人は任せたァ」
「分かってる。ヒロイン力の見せ所」
「つくづくテメェもメタくなったなァ」
触手の根元を狙う清人にルピナスが触手を捌くユーリィにティアがそれぞれ付く。
「行くぞルピナス」
「うん」
「「咆哮!!」」
ルピナスの『聖女降誕フラッグ・オブ・ジャンヌ』と俺の『エンゼリカ』がそれぞれ甲高い音を立てながら触手の付け根を切断していく。
そのままの流れで俺は屈みルピナスがその背を回りながら超えて更なる連続攻撃へ昇華。
ルピナスの背後に迫る触手は俺が切りとばしていく。
天衣無縫の連携。
ドォォォオン!!!
「フレンドリーファイアは洒落にならないっての」
「ティア、後でしばく」
ティアは固定砲台として後方で大暴れしていた。
おかげで俺の軍隊が数カ所消し飛んでいる。
「全く、少しはは僕の苦労を鑑みてくれないのかな!?」
「あァ、テメェの立ち位置が今になって分かったァ。ズバリ被害者だろォ?被害者だよなァ?被害者なんだよォ」
「加害者が言う事じゃないと思うんだけれど…うん。この際水に流そうか」
「ウ●コの際水に流そうかだァ?良くも戦闘中に下ネタ吐けるなァ。このど変態ィ」
何だろうこの緊張感の無さは。
俺の右腕は粉砕された。
それで本当に良くもこのテンションで居られるものだ。
最早称賛に値するだろう。
それが良い。
それで良い。
形式ばって魔王城に住まずに魔王荘に住み、円卓代わりに炬燵を囲み。
見せしめ代わりに宴会芸を見せ、会議の度に議題から逸れて雑談が始まる。
それがペイラノイハ魔王軍の在り方。
俺はぐちぐち考えていたが周りの奴らが異様に煩くて煩くて煩くて…。
「ちょっとは真面目にやれよ馬鹿共ォォォォォォッ!!!」
それが、楽しくて仕方ないんだ。
感情に呼応するように『ザ=ステラ』は無差別に紅炎を撒き散らしルピナスと俺を除く全てに火傷を撒き散らす。
「回復符ゥ!!おいテメェ餓鬼ィ!!この腐れリア獣ゥ!!それでも仮に魔王かよォ?魔王なんだよなァ?魔王なんだよォ!!テメェのフレンドリーファイアは洒落にならないってのォ」
「回復してくれないかな?僕もかなり痛くて泣きそうなんだけど」
「気にするな、まだまだ行くぞルピナス」
「うん。清人楽しそう」
「ああ、楽しいだろうよ」
ルピナスと一緒に転生した時の台詞。
ただ、今は少し意味が違う。
ああ、楽しいだろうよー仲間が居れば。
勿論、ルピナスの優先度が下がったわけではない。
ただ、馬鹿やらかすのが意外と楽しかっただけなのだ。
そして、楽しい時間とやらは往々にして早く過ぎるもでー。
「トドメだ歯を食いしばれよ、魔王?」
「トドメを刺すのは俺だろォ?」
「最後は僕に譲らないかな?」
「…私が始末する」
「終局的破滅遊戯!!」
「機械仕掛之週末!!」
「親友捧輝刃!!」
「献身剣心一刀両断」
その姿、正しく少年少女残遊三昧!!
黒い光という矛盾を孕んだ極光の本流が、
空気を消し飛ばす爆破の波が、
二本の鉈の煌めきが、
大鎌による大音量の高周波が、
魔王に被弾する!
「「「「俺たちの勝ちだ」」」」
それぞれが着地姿勢で魔王の爆散を見送った。
パチパチ。
場違いな拍手の音。
黒幕のショータイムの音。
「いやぁ、やっぱり見込み通りだったね。おっちゃん関心しちゃったよ」
ああ、知ってたさ。
「ニャルラトホテプに命じる。傅け」
「なっ…!?」
出てきたのはニャルラトホテプ。
こいつが魔王アザトースを殺すために俺たちをけしかけた元凶。
がー、気付いていなければ負けたがお生憎様、俺たちは気付いていた。
『あれ…大将、これ不味くねえか?』
『何がだ?』
『大将を神にした時のニャルラトホテプのメリットがねえ。怪しいどころじゃねえぜ?』
『アザトースと戦わせてやりたい事がある…か』
『思い当たる節はあるなァ。アザトースの想像と破壊の権利、及び魔王城内の完全支配権だろうなァ。これがあると創世も破壊も意のままだしなァ』
『積み…?』
『いや、案外簡単な話かも知れない』
『どういう事?』
『奪うんだよ。先にな』
「だ、でも。ペイラノイハに逃れれば」
「ペイラノイハの全権代理者が命じる。傅け」
ペイラノイハに逃れれば…なんてのはナンセンスだ。
ティアがユーリィを残すのに固執した理由。
全権代理証。
魔王城は接触に際してペイラノイハと融合している。
逃れ先はペイラノイハのみしか無く、全権代理証があれば完全に封鎖出来る。
だから、宴会で時間調整をしていた。
最後はいつもハメ技で、これもペイラノイハの魔王軍の特色だ。
「さて、魔王がイデアに命じる。イデアよニャルラトホテプを永久的に消去しろ」
イデア論というものがある。
イデア界が全ての形質の原型を記録している、という説だ。
記録が無ければ存在は完全かつ永久的に消去される。
故にニャルラトホテプは二度と現れることはなく、存在すら出来ない。
「この勝負、俺たちの勝利だ」




