合流
あのセリフがここで出るとは思うまい。
『魔王』杉原清人
魔王戦直前。
「ユーリィ…おそかった、な?
お前…圭一郎は?
…まさか、死んだ、のか?」
「……」
「臨終機関使いやがったなァ。…ユーリィが生きてたのは幸いだなァ」
どういう事だ?
臨終機関?それはもしかして…。
「…ティア。どういうことだ?」
アザトースという強大な敵との戦いを前にして信頼関係が揺らぐのは酷く不味い。
けれど、どうにも聞かずにはいられない。
俺たちは仲間だ。
少しではあるが、楽しい時間も一緒に過ごした。
同じ釜の飯を食べ、どんちゃん騒ぎをやって同じ魔王荘で寝た。
時間の多寡は最早関係無く仲間だと信頼できていた。
なのに…今更何でこうなるんだ?
どうしてこうなってしまったんだ?
「俺が提案したExの機能だァ。要するに自爆だなァ」
繋がった。
朝方感じたキレの悪さはこれが原因だったのか。
知ってしまったからには叱責したくなるし、せずにはいられない。
せめても、知っていたかった。
知ることは安心だからだ。
心を幾重にも予防線で守る事も出来たのだから。
「ティア、何で言わなかった」
「圭一郎に口止めされてたァ。テメェが知ったら止めただろォ?圭一郎は最初から死ぬつもりで生きようとしてたんだよォ」
「そんな、馬鹿な…」
少々前に圭一郎が俺に聞いてきた。
『もし、やりたい事があって…それが危険を伴って…心配した他人がそれを阻むなら大将ならどうする?』
俺はこう答えた。
『エゴと現実の狭間で板挟みになるくらいなら俺はエゴに殉じる』
結果、臣圭一郎は殉じたのだ。
殉死したのだ…。
俺は泣かない。
魔王は非情であり冷徹。
泣くのは後だ。
圭一郎が遺したユーリィとアザトースを討伐する事のみを考えた。
例え、それが外面を繕った張りぼてに成り下がったとしても責務は全うしなければならないのだ。
「清人…」
「大丈夫だルピナス。哀しいけどそれで折れる位俺はヤワじゃない」
嘘だ。
強がった。
本当はティアへの不信と圭一郎に掛けてしまった言葉の重みで押し潰されてしまいそうだ。
深く、深く沈むように体が重くなった気さえする。
それに、怖いのだ。
仲間の死が。
仲間の死が同時に俺の最期を意識させて怖くて震えてしまいそうだ。
ここに来て、情けなくもビビった。
それでも、勝たねばならない。
絶対に負けてはいけないのだ。
弱気な思考を追い出す様にもう一度鉢巻をキツく締める。
「…行こうか、清人」
「お前も、若干性格変わったか」
「ああ、人は案外変わるものさ」
そうして俺たちは巨大な門の前に立ち、最後の戦いをすべく門を開けた。
ーさぁ、最終決戦の時間だ。
コツコツと四人の靴の音が反響しー。
彼らは闇に消えた。




