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終末の白銀太陽-シルバー・サン-

♠︎

『トゥーサ討伐組』


Exの片腕は捩じ切られ、装甲は四散した。

コックピットは露出し足回りは崩壊済み。

アクセルスラッシュやアクセルブレイドを放つ巨大な剣も折れたままだ。

これは技量の問題ではなく単に力量。

パワー不足故だ。

当人の力不足。

それが良く分かる有様だ。

このままでは二人同時に死亡してしまい確実にアザトース戦で敗北する。

ならばと圭一郎は腹を決めた。


「仕方ねえな。ユーリィ、降りてくれ」

「肉弾戦に持ち込むのかい?無茶だ!!」

「違うな」


「そう言えば、言ってなかったか。この機体に脱出ポッドが無い訳。あれはな、必要が無いから付けなかっただけだ」

「な、何を言って…」


圭一郎は笑顔でユーリィを突き飛ばし、コックピットから無理やり落とした。


「『破裂の人形』って知ってるか?俺が好きな漫画のロボットなんだけどよ。このExは正しい意味でそれなんだよ」

「だから何言ってるんだ!!!」

「今から見せてやるよ…最期の白銀太陽を…ッ!!」


圭一郎はもう一度心象解放を宣言する。

すると四散した装甲だけが膨張しトゥーサの周りを囲うように展開した。

トゥーサは四方を装甲に囲まれ身動きが出来なくなっていた。


「終末の白銀太陽。モード、シルバー・サン」


それはExを中心に広がる球状の装甲は白銀の太陽そのものだった。

剥き出しの骨子は白銀に輝き微かに残った装甲は全てExごと更にトゥーサを包み込む。


「この機体は最強の自爆兵器なんだよ」

「え…っ?」


トゥーサが自らの危険を悟り暴れ出すが膨張した装甲は硬く引っ掻いた爪が折れている。

Exの装甲は心象解放により膨張と同時に硬化していた。


幾重にも重ねられた白銀の装甲によって出来た太陽の中心で男は吼えた。


「さあ!さあ!盛り上がって来たぁぁぁあッ!!!」


(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!)


空元気で勇気を奮い立たせ、その勇気を以って死の恐怖を殺す。


「正気の沙汰じゃない…止めろ!止めるんだケイイチロウ!!」


圭一郎は制止を聞かずに意識を切り替える。


「臨終兵器起動」


笑う膝を抑え、こみ上げる血を飲み下し。

圭一郎は不敵に笑う。

笑いながら泣き、震えていた。

出来ないところを無理矢理心象解放を発動したのだ。こうなってはもう跳ねっ返りで死亡は確定していた。

それでも…。


「死ねない。死にたくない…」


か細く弱々しい声。


「ケイイチロウ!馬鹿な事はよすんだ!」

「悪いな親友。俺は誰だ?臣圭一郎だ!!やるって言ったら聞かねえ頑固者で半端者だ!!」

「なぁ!!親友なんだろ?俺の為に生きろよ!!生きていて、くれよぉ!」




「トゥーサよぉ!俺が相手になる!地獄の果てまで付き合って貰うぜ?俺たちにはもう時間が無いんだからな!」


ユーリィに伝えたかった言葉。

もう、頭から消えてしまった。

それでも、ユーリィに言葉を遺そうとして…止めた。

男は背中。

言葉が欲しいのではない。

本当に欲しいものは確かにあった。

だから、背中で語ったのだ。

おとこの美学を。


竦んで、立ち止まる愚者であるより突き進んで止まれない位の愚者であれ。


止めず、止まらず、止められず。


天井ブチ抜いたらそれが道になる。


それが、男の勝ち。


それでこそ価値がある。


顔はヤケにサッパリとしていた。額から血を流し、汗を流し、涙を流しながら歯を食いしばり口元に笑みの形を浮かべていた。

これぞまさに漢の顔。

それでいい、それが良い。

サングラスを掛け流れる涙を覆い隠す。

それは主人公がヒーローに変身するかのような、一つのイニシエーションのカタチ。


蛮勇でも、自己犠牲でもないー勇気の証明。


「じゃあな、親友」


今度は弱々しい声とは打って変わり覚悟を決めた大音量!!

これが生き様だとばかりに喉も裂けよと張り上げた!!


「魔王軍に栄光あれ!!


エクス…プロージョンッッ!!!!」



トゥーサを閉じ込めた結界は…Exごとトゥーサを爆砕した。

Exの名前の由来。

言うまでもない。

Explojion【爆破】

ただ、それだけの話。

最初から自爆するつもりだったのだ。


『異能覚醒は強いィ。けど、それが神に通用するかと言えば断じて否だァ。だから、テメェは一番早く死ぬゥ』


『どうせ死ぬなら俺たちの礎になれェ』


敵と味方を欺く為に搭載されたフルブレーキング機能。

搭載された神をも殺す威力を孕んだ超強力爆弾符。その数五十五枚。

心象解放で密度を高めた白銀に輝く装甲の包囲。


それらが合わさりーExはExplojionへと昇華されるッ!


ドォォォオン!!!!


「ケイイチロウォォォオッッ!!!」


ユーリィは涙でボヤけた視界の中でトゥーサと目が合った。

未だ死んではいない。

だが、圭一郎の望み通り彼は止まらなかった!!

彼は止まれない愚者の路を一人走り出したのだ!


そして走った彼は偶然か必然かそれを掴み取った。

戦鉈マハーバーラタ。

彼の作り出した最後の武器。

ユーリィは彼の勇気を受け取ったのだ!


「ハァァァァッ!!!」


渾身の力で鉈をトゥーサの眼球に振り下ろす。目蓋が瞳孔を守ろうと閉じ始めるが、


「カルグ…ネイデスッ!!」


細剣を目蓋に押し付ける。

ジュウジュウと目蓋が溶融しー、眼球に鉈が達した。


「まだだァァァッ!!!」


そしてーマハーバーラタの柄を殴り飛ばした。脳髄に刃が達する音と粘着質な音とトゥーサの断末魔が混ざり合い視界すら眩んだ。


ユーリィは正気に戻るとマハーバーラタを引き抜こうとすると半ばから折れてしまった。

一仕事終えたのだからこれ以上の行使は酷だとばかりに。


「ぅ…ゆぅ」

「!?」


Exの残骸から声が聞こえた。

下半身の消し飛んだ圭一郎だった。


「んだよ…案外やれんじゃ、ねえか」

「もう喋るなよ!!『圭一郎』」


圭一郎はまだまだ伝えたかった。

彼は己の心を誇りに思っていた事を。

だからこそ。


「…ぅ、いちど。言う。耳かっ、ぽじっ、ぇ良く聞け」

「…ぅ」

「おれは、まぉう、ぐんのしぁっぱ、おみけぃ、いち……」


彼は己が武勇を誇るように手を天に掲げ…力尽きた。


「…ばが野郎…ッ!!」


ユーリィはその手を握りしめ、歯を食いしばりながら滂沱の涙を流した。


「名前ぐらいっ…デメェが言いやがれよっ。ごの馬鹿ぁ!!!!」


挿絵(By みてみん)

鳴き声が反響した。

やがてそれは啜り泣きに変わり…一人の男が立ち上がった。


「僕は…俺は止まってやらねえから。安心して逝きやがれ…親友」



ユーリィは一人、扉を開け先へ進んだ。





『トゥーサ討伐組』

討伐成功。

特記事項 臣圭一郎 殉死。

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