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まちがえたよ

「知らない」


俺はしらばっくれた。


「いや、それはあり得ないここに固有結界の残り香が強く臭ってくる。それに坊主の身体にも魔獣の匂いがこびり付いてる」


現地人は魔獣の匂いが分かるのだろうか。それは困った。ルピナスを見ると若干思案顔で首を傾げていた。


「俺は、知らない」

「じゃあ、なんだ?その錆びた大鎌はなんだ。心象魔獣を倒すのはいい事だ。何も隠す必要はねぇだろう?もし力を隠したいのならそれでもいいけどよ。それだと報奨金も受け取れないし損だぞ」


仮に俺が倒したとしよう。しかし、人間に戻るべき者に命はないのだ。

俺は早々に人を殺してしまった。

その罪は、重い。…元より無差別に人間の要素を剥奪してはいたが人を殺めた事はない。人生を滅茶苦茶にこそすれ終らせた事など一度も。別に人生を滅茶苦茶にするのが罪ではないと言うつもりはない。ただ、初めての殺人は無意識的で呆気なさ過ぎた。

ああ、無自覚とは恐ろしい。


「おっ、いたぞ。起きろ、エリー」


そして悲劇。

皮の鎧を纏った青年が見つけた。見つけてしまった。


俺の背後の背の高い雑草の中にそれは倒れていた。


「起きろよエ、リー?」


外傷のない少女の遺体。

青年は俺に詰め寄り瞳に涙を溜めながら問うた。


「エリーに何をした…」

「………」

「貴様ァ!!答えろ!!エリーに何をしたァァァッ!!!」


冷めた心が言うのだ。

『大切なら絶望させないようにしなければならなかった。これはお前たちの怠慢の結末だ』と。

俺は青年に詰め寄られ袴の襟を掴まれた。


観念したように俺は行動する。出来るはずだ。右手を天に向かってかかげ体内に取り込まれたそれをひりだすような感覚をイメージする。


「なっ!?」


周囲一帯から驚きの声が漏れる。

右手の中にあるそれは陽の光を浴びてより一層穢れを帯びるようだった。


「じゅ、呪核!?」


掴みかかった青年は放心している。


「そんな…あんまりだ…」


口々に後悔を叫ぶ。

俺は殺人を認めたのだ。


幾らか動揺しても冷静であった壮年は告げた。


「…君の行動は対魔連盟に報告させて貰う。付いてき給え。拒否は認めない」


俺は最低だった。なぁ、ルピナス。

俺は綻んでるよな。壊れてるよな。

どうか俺を嘲笑って欲しい。そして罵って欲しい。俺が低俗なゴミだと糾弾して欲しい。どうか…。どうか…。

誰か俺を裁いてくれ…。


ルピナスは俺を感情の読めない目でじぃと見つめるだけだった。そこには慈悲も憤怒も失望も何もない。初めて俺はルピナスを怖いと感じた。


そして俺は連行されていった。

ルピナスは俺の前から姿を消した。


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