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憑かれる俺のラブコメ事情  作者: 夜冲知一
鈴の音の約束
9/11

妖しく光る刃

「あっ、天野さんだ」

 隣を歩く友人、田門(たもん)空人(たかと)が窓を指さしながら声を上げた。時刻は昼休み。空人と適当に廊下を歩いていた俺も窓から外を覗くと、その言葉通り、天野が校舎裏から出てくる所だった。何してるんだと思っていると、少し遅れて一人の男子生徒が出てきた。そいつは肩を落としながらトボトボと歩いていた。

「成程ね。見事に玉砕されたみたいだな」

「どういう事だ?」

 俺が訊ねると「鈍いな、お前」と呆れた様子で空人が説明を始めた。

「つまり天野さんが自分を呼び出した男を振ったってことだよ」

 成程、そういう事か。まあ、天野は美人な訳だし当然と言えば当然か。しかし、そこで俺は一つの疑問にぶつかった。

「ちょっと待て。そんな事して大丈夫なのか、アイツ?天野にちょっかいを出したら宇梶(うかじ)達が黙ってないだろう?」

 天野のファンクラブ『アマテラスの会』会長である宇梶尋司(ひろし)率いる男子達数人から死に物狂いで逃げ回ったことは記憶に新しい。嫌な事を思い出して身震いする俺に空人は「大丈夫だろう」と小さく笑った。

「宇梶達にとって目下の障害は良、お前だ。宇梶達の目がお前に向いている今が天野さんにアプローチをかける絶好のチャンスなんだよ」

 なんだよ、それ。俺をダシに使われているみたいでスゲー不愉快な気分だ。そんな俺の事などお構いなしに「それに」と言って空人が更に続けた。

「宇梶は根っからの体育会系だ。先輩後輩の上下関係には気を遣うだろう」

「上級生に告られたのかよ、天野は!?」

 驚く俺に「まあね」と空人が答える。

「更に言えば、相手はサッカー部のエースの槇原(まきはら)先輩だ。父親は教育委員会の役員。母親はPTA会長。学校の女子からの人気№1と言っても過言ではない人だ」

 饒舌に語る空人の話は俺にとっては雲の上の出来事のように感じられた。そんな人物から告られる天野の存在が俺にはどこか遠くに感じられた。

「そんな凄い人を振って、天野の奴、何考えてんだろう?」

 思わず漏れた言葉に「さあ?」を肩をすくめる空人。

「まあ、天野さんにとって槇原先輩よりも気になる男がいるって事だろう」

 なあ良と肩に手を置く空人。その意図に気付いた俺は目を見開いた。

「それって俺の事か!?」

「違うのか?あれだけ毎日昼休みに会いに来ているのに」

 空人の言葉通り天野は昼休みになると必ず俺のところにやって来ている。以前に渡された分厚い小説を読み終え感想も言ったはずなのにだ。しかしそれは祥子とやりあう事と俺をからかい楽しむためであり、決して俺に対する好意からの行動ではない。そもそも天野は異性に対する興味が無いように感じる。たまたま関わり合いを持った俺にちょっかいを出しているに過ぎないと俺は思っている。

「それはない。天野にとって俺は―――」

 突然、胸ポケットに入れている携帯電話がメール着信を知らせてきた。画面をのぞき込むと天野から『放課後、校舎裏に来て』の文面が飛び込んできた。

「『天野にとって俺は―――』・・・なんだい?少なくとも、お前を呼び出すくらいの関係なのは分かったよ」

 俺の表情を見て察したようで、含みのある笑みを浮かべる空人に俺は何も言い返すことが出来なかった。



「アンタに紹介したい人がいるの」

 放課後、校舎裏で天野が開口一番に言った言葉だ。その後ろには一人の男子生徒の姿。彼が天野の紹介したい人物のようだ。天野に呼び出されて少し有頂天になっていた俺は恥ずかしくなった。

「初めまして。1年B組、国持継(つぐ)(はる)っす」

 どこか人懐こそうに男子生徒―――継春は自己紹介をした。どうやら俺達の後輩のようだ。

「ああ、よろしく・・・って、国持?」

「信行さんの息子よ」

「ああ、そういえばオヤジに会ってるんスよね」

 俺の疑問に天野がすぐさま説明し、継春も合の手を入れた。信行さんに息子がいるのは聞いていたが同じ高校だとは思わなかった。言われて見れば目元とかがよく似ている。

「それで、信行さんの息子を呼んで俺に何の用だよ?」

「決まってるじゃない。彼に仕事を紹介してもらうのよ。手伝ってくれるんでしょ?」


昨日の事だ。天野から言われた言葉に俺は「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げた。

「なんだよ、いきなり?」

「聞こえなかったの?私の仕事を手伝う気はないかって訊いたんだけど?期間は来週二週間。勿論、報酬は出すから安心しなさい」

 どうにか出た言葉に対する天野の返答は同じ内容だった。

「アンタの霊的探知能力は私よりも上だって分かったのよ。本音を言えば悔しいけど、私以上の力を持っているのは認めざるおえないからね」

 そう言って天野はなんとも表現しにくい顔をした。どうやら『悔しい』と言うのは本当のようだ。

「それで、なんで俺に『手伝え』なんだよ?」

「私にも向き不向きがあるのよ。私は霊に対する攻撃―――お祓いや除霊―――に特化した能力はあるけど、結界とかの防御や霊を探知する能力は弱いのよ。だから、その『苦手な分野』を補ってくれる人材が欲しかったの!」

 そう言って天野は不貞腐れたかのようにソッポを向いた。成程。それで身近にいた俺にお鉢が回ってきた訳か。

「それでどうなの?手伝ってくれるの?くれないの!?」

「ああ、分かった。良いぞ。手伝うよ」

 ムキになる天野に俺は即答した。「えっ?」と呆気にとられる天野の表情は年相応の少女のようで可愛らしいと思った。

「驚いた・・・てっきり断るかと思ってたのに。アンタに胸を揉まれた事を宇梶君に垂れ込もうと思ってたんだけど」

 前言撤回。なに考えてんだコイツは!

「なに物騒な事を言ってんだよ!どうせそんな事だろうと思ったよ」

 まあ天野の考えを先読みしたのもあったが、コイツが普段どんな仕事をしているのか興味があったので初めから付き合うつもりだった。俺の返答に虚を突かれたが、天野は気分を良くしたようだった。

「そうと決まれば話は早いわ!とりあえず来週からよろしくね!」

 そう言って天野は上機嫌で帰っていった。


 そして今日のコレである。しかし信行さんの息子―――継春と引き合わせた意図が俺には分からなかった。仕事を紹介してくれるとは聞いたが、俺にはそこら辺の事情がよく分からなかった。

「継春君は私の上司―――望実(のぞみ)さんって言うんだけど―――との仲介役なのよ」

 そんな俺の疑問に答えるかのように天野が説明してくれた。続けざまに継春が更に説明を付け加えた。

「俺のお袋、いつも忙しいんスよ。だから同じ学校にいる俺がお袋からの伝言をテル姉ぇ達に伝えているんスよ」

「テル姉ぇ!?」

 俺は継春から出た言葉に面食らった。その隣で天野が左手で頭を抱えながらため息を吐いた。

「コイツ、初めて会った時から私の事をそういう風に呼ぶのよ。学校にいる時はほとんど言わないんだけど、プライベートや二人だけの時は決まって呼ぶのよね。いい加減、やめて欲しいんだけど・・・」

「えっ、なんで?名前が照美で俺より年上だからテル姉ぇでいいじゃん」

 そう言って屈託なく笑う継春とため息を吐く天野。なんだろう・・・この光景にデジャヴを感じるのだが。子供の頃、祥子の「リョウちゃん」と言う愛称をやめさせようとして諦めた過去を思い出した。

「天野。俺からのアドバイスだ・・・慣れろ。人間、誰しも諦めが肝心だ」

 俺の言葉に天野が深いため息を吐いた。察しの良い天野だ。俺の意図は伝わったはずだ。その証拠に「アンタの苦労が分かった気がする」と返事が来た。

「すいません、そろそろ良いっスか?今日やって欲しい仕事があるんスけど」

 そんな俺達に痺れを切らしたのか、継春が声をかけてきた。

「ちょっと待って。仕事って今日なの!?急すぎるんじゃない?」

天野が俺と同じ感想で驚きを見せた。まさか俺にとっての初仕事が今日とは。なんとも急な話だ。そんな俺達に継春が申し訳なさそうに俯いた。

「すんません。どうやら、お袋も断り切れなかったみたいなんスよ。ここに6時に来てくれって言われてるんスけど・・・」

 そう言って継春は一枚のメモ用紙を渡してきた。それを手に取った天野の表情がみるみるうちに強張っていく。

「ちょっと待って。ここに6時なの!?急がないと!」

 そう言って天野は俺の手を取り走りだした。

「ちょっと待て。いきなりなんだよ!」

俺は何がなんだか分からないまま天野に引っ張られるようにその場を後にした。



俺達は最寄りの駅から各駅停車の電車で数駅先の駅で降りた。目的地はそこから歩くこと10分以上歩くのだそうだ。それを聞いた俺は内心「うげぇ」とため息を吐きながら天野と歩き始めた。

「ところで、依頼ってのはどんなのなんだ?」

 歩きながら隣にいる天野に尋ねると、天野は手に持ったメモ用紙を見ながら説明してくれた。

「ある刀の調査よ。なんでも『妖刀』らしいわ」

 妖刀?と尋ねると天野が説明を始めた。

「読んで字のごとく妖しい刀剣のことよ。それ自体が何かしらの力を帯びていて様々な怪奇現象を引き起こしたりするわ。『竹俣兼光(たけのまたかねみつ)』や『童子切安綱(どうじきりやすつな)』とか、有名なのだと『村正』や『村雨丸』とかだけど、聞いたことくらいはあるでしょ?」

 まるで教科書を読むかのようにスラスラと説明する天野。霊能力者として実力だけでなくそれに関係した知識も豊富にあるのだろう。それだけの実績を積み重ねてきた証拠だ。いったい天野はどれ程の知識を持っているのだろうか。また、どれ程の経験を積んできたのだろうか。

「村正とかは聞いたことがあるけど、それって迷信じゃないのか?」

 そんな天野とは違い、実力も実績も持ち合わせない俺が言えることなんてこれくらいなものだ。そんな俺の質問に天野はこれまたスラスラと説明してくれた。

「確かに迷信と呼ばれるものがほとんどね。村正は様々な偶然が重なって『徳川に仇なす刀』ってのがいつしか妖刀って呼ばれるようになっただけだし、竹俣兼光(たけのまたかねみつ)童子切安綱(どうじきりやすつな)なんて有名な逸話があるってだけ。村雨丸に至っては滝沢馬琴の『里見八犬伝』に登場するフィクションのアイテムだからね」

 でもねと言って天野は俺をまっすぐ見つめてきた。その目はさっきまでとは違って真剣みを帯びていた。

「中には本当にそんな『力』を持った刀剣が存在したりするのよ。歴史の表舞台にも出てこない『本物の』妖刀がね・・・」

 その言葉に俺は息を飲んだ。その口ぶりから天野はそれらの刀剣を見た事があるのだろうと推察できた。いったい彼女はどんな過去を過ごしてきたのだろうか。

「まっ、そんなレアケースなんて早々あるものじゃないんだけどね」

 そう言っておどけるように肩をすくめる天野を見ながらふと俺はある事に気が付いた。

そう言えば俺、天野の事なにも知らないな。ここ最近だが天野と接する機会が増えてきた。学校内で会話もするし家で(俺が作った)食事を一緒に食べたりもしている。おそらく学校内では俺が一番彼女と親しい関係を築けていると思う。しかしそんな俺が知っている事と言えば片手で数える程しかない。天野の過去とか知らない事の方が多いくらいだ。俺と同じ両親を亡くしているらしいが、天野の過去に何があったのかまるで知らないし見当もつかない。

「成程な。天野は本物の妖刀を見た事があるのか?」

 だから俺は天野に少し突っ込んだ質問をしてみた。彼女の過去に興味があったからだ。警戒されるかと思ったが天野は特に気にした様子もなく答えてくれた。

「あるわよ。確か私が中学生になってから三か月目だったかしら?」

「そんな前から霊能力者の仕事をしていたのかよ!?」

 まあねと答える天野に俺は驚きを隠せなかった。約四年もの間、天野は学生と霊能力者の二足の草鞋を履いた生活をしていたことになる。道理で猫かぶりが上手いわけだ。

「本格的に仕事を始めたのは中学生からだけど親譲りで霊能力はあったから、簡単な調査とかはだいぶ前からしていたわね。まっ、ちょっとした遊び感覚だったけど」

 いや、それって遊び感覚でするものなのか?まあ、突然霊感が備わった俺とは違って生まれつき霊能力を持っていたわけだから、そういう感覚なのかもしれないが。昔の天野がどんな奴だったのか、分かったような分からなかったような・・・。

「調査って言っても両親の真似事よ。せいぜい学校の七不思議の調査とかその程度よ」

「成程な。そういや俺も子供の頃に祥子とそんな事したな。まあ、結局なにもなかったけどな」

 昔の事を思い出して少し笑ってしまった。あの時の俺は怖いもの見たさでよくいろんな場所へ祥子を連れまわしていたっけ。

「フーン。あの子といて何も無いってことは間違いないわね。私の時も何もなかったんだけど。そういえば金縛りにあった生徒が出たって大騒ぎになったかしら?」

「マジかよ。大丈夫だったのか、それ?」

「大丈夫よ。たいした事じゃなかったし。そんなことより、見えてきたわよ!」

 そう言って話を切り上げた天野の見る方へ視線を向けると、今日の目的地が見えてきた。



「ようやく着いた・・・なんとか時間に間に合ったわ」

 そう言って天野はなんとも言えない疲れた表情をした。その隣で俺も肩を落としながらため息を吐いた。正直、疲労困憊である。

「ここって・・・」

 俺達の目の前には小さな古美術店の姿があった。その隣には小さな喫茶店があるが時間からして営業はしていないようだ。おそらく目的地は古美術店の方だろう。人の気配はしないが営業はしているようだし。入るわよと言う天野と共に俺はその中へと足を踏み入れた。

 店内は時間が夕方というのもあるが薄暗く、そして薄気味悪かった。理由は薄暗いこと以外とは別にある。肌に纏わりつくような『奇妙な感じ』がするのだ。

「気をつけなさい。どうやらこの店、結構ヤバイわね」

 私から離れないでと言って隣の天野の表情が険しいものへと変わる。どうやら天野にもこの気配が分かるようだ。大小様々な仏像、掛け軸に絵画、そして刀剣などの骨董品に囲まれた店内で俺は出来るだけ天野の傍に寄り身構える。

 そんな店内の奥から物音が聞こえ中から一人の男性が現れた。その男性は俺が思う古美術店の店主とはイメージがかけ離れていた。カッチリとしたスーツでデップリとしたお腹を覆い両手の指には高価そうな指輪を着けたいかにも金持ちオーラを纏った初老の男性だったのだ。古文担当の寿先生みたいな白い顎鬚を蓄えたヨボヨボの爺さんみたいな人かと思った俺のイメージが貧弱なのかもしれないが。

「なんだ。どんなのが来るかと思ったら、こんな子供とは・・・」

 そして中身の方もイメージとは程遠かった。その物言いや態度はぞんざいでその目はあからさまに俺達を見下しているものだった。いや訂正。正確には見下されているのは俺の方で、天野に対しては全身を舐めるような目で鼻の下を伸ばしている。なんとも分かりやすい人だ。

そんな男に天野が一歩前に出て自己紹介を始めた。

心霊庁(しんれいちょう)から派遣されました天野です。こっちは助手の阿澄です」

 よろしくお願いしますと一礼する天野に倣って俺も頭を下げる。完全に事務的に話を進める天野と話を聞いているのか怪しい様子の男。余計な事を言うつもりなんて無いので俺はそのまま静観を続けた。

垂井(たるい)だ。ついてきなさい」

 えっ、今の自己紹介?俺の疑問を無視して垂井と名乗った男は奥の部屋へと消えていった。天野に「行くわよ」と言われて俺もその後に続いた。


 奥の部屋は入り口付近とは違って骨董品などが乱雑に置かれていた。物置みたいなものだろうか。その中心で垂井は台に置かれた錦の袋を気味悪いものでも見るかのような目で見降ろしていた。なんとも色鮮やかで華やかな造りだが、おそらくこれが天野の言っていた妖刀なのだろう。

「これが依頼されたものですか?」

「ああ、そうだ。コイツを手に入れてから気味悪い事が立て続けに起きてな」

 天野の質問に答えながら忌々しげな目をする垂井。台に置かれた錦の袋の長さは30センチ以下といったところで脇差(わきざし)よりも短い。だがこの店に入ってから感じる気配が段違いに濃くなっている。これが妖刀で間違いないだろう。垂井の話によると、この妖刀を手に入れた頃から奇妙な声を聞くようになったり、ひとりでに物が浮かび上がったりするようになったそうだ。

「それじゃ、後は頼んだよ。こんな気味の悪い物なんか見たくもない」

 そう言って垂井は足早にその場を後にした。なんて無責任な!とも思ったが、面倒くさい人間がいなくなったので口には出さずに改めて妖刀と思しき錦の袋に目をやる。

「なんか思ってたのとはイメージが違うな。妖刀って聞いたから太刀(たち)とか(うち)(がたな)辺りだと思ったんだけど」

「これは懐剣(かいけん)ね」

「それって(ふところ)(がたな)の事だろ?主に護身用に持つタイプの小太刀(こだち)だったよな。時代劇で視た事がある」

 記憶を頼りに意見を言うと天野が少し驚いた表情をこっちに向けた。

「その通りだけど、よく知ってたわね。それに時代劇を視てるなんて案外渋い趣味だし」

「違うよ。確かに渋いとは思うけど、俺じゃ無くて祥子の趣味だ。アイツ子供の頃からそういうのが好きでよく俺も付き合わされたんだよ」

 昔よく祥子の家で一緒にテレビを見ていた記憶が蘇る。少しだけだが日本刀の知識があるのは隣で祥子が教えてくれたからだ。

「あの娘、オヤジ臭いというか古風というか・・・」

 そう言って呆れ顔でため息を吐く天野。その意見には俺も同意だ。勿論、オヤジ臭いとも思うがなにより「古風」という部分が祥子を語るうえで最も的確な言葉だったからだ。産まれつき神社の巫女として生活し、普段は和装で過ごしている祥子。外見もそうだが日常の立ち振る舞いや何気ない仕草、そして言葉では言い表せない『心根』の部分で祥子は古風なのだ。それがアイツの魅力の一つなのだと俺は思っている。天野の言葉はまさに的を得ているのだ。

「そんな事より、コレどうしようかしら?」

「この場でどうにか出来ないのか?」

 天野の言葉に俺は首を傾げた。てっきり前回の時と同じように呪符を貼ってお終いかと思ったからだ。しかし天野は神妙な顔つきで懐剣に視線を向けていた。

「本当はそのつもりだったんだけど、どうもコレ、私が今まで見てきた妖刀とは雰囲気が違うのよね。なんて言うか・・・」

 なんとも煮え切らないような言い回しに首を傾げる俺に気付いたのか、天野が言葉を続けた。

「つまりね、私が言いたいのはこの懐剣、妖刀じゃないってことなのよ」

 なんじゃそりゃ。天野の言葉に俺は訳が分からなくなった。

「妖刀じゃない?でもソレは妖刀なんだろ?」

「妖刀って言っているのはあのオッサンだけよ。私が知っている妖刀はもっと禍々しい気配を出しているものなの。この懐剣にはその気配は全く無い。その辺は私より感覚の鋭いアンタの方が分かるでしょ?」

 言われて俺は懐剣に意識を集中させてみた。・・・成程。確かにこの懐剣は奇妙な感じがするがドロドロとした嫌な感覚が感じられない。天野の意見に俺は納得した。

「今日はもう遅いしゆっくり調べてみたいところだけど・・・」

 そう言って天野は面倒くさそうに垂井が去っていった方向を見つめていた。なるほど。天野は垂井にこの懐剣を借りられるかどうか心配しているのだろう。確かにあのタイプの人間が簡単に自分の所有物を貸してくれるとは考えにくい。俺は天野に尋ねてみた。

「どうするんだ?」

「もちろん、貸してくれるよう交渉するわよ。まっ、ここら辺は腕の見せ所ね!」

 まあ見てなさいと言って天野は得意げに胸を張った。


 結果から言うと、天野の交渉は成功した。天野は言葉巧みに垂井に懐剣を貸してくれるよう頼みこみ見事にそれを成し遂げたのだ。勿論、垂井は難色を示した。それどころか、やれ「俺はすでに金を払っているんだ」やれ「君達は詐欺師か」と酷い暴言のオンパレードで俺も天野も呆れるのを通り越して感心したくらいだ。やはり思った通りの人間だったのだ、このオッサンは。しかしそこで天野が怯むことなく、一言、

「それではこの懐剣がどういった経緯でこの店に来たのか教えては頂けませんか?そこから調べてみますので。それでしたら垂井さんも安心ですよね?」

 そう言って猫かぶりスマイル全開で天野が提案した。すると垂井の表情が一気に変わり「いや・・・」とか「それは・・・」とシドロモドロになり始めたのだ。どうやらあの懐剣の出所には何か後ろ暗いところがあるようだ。そこを天野が見逃すはずもなく、間髪入れずにもう一つの提案を持ち出したのだ。

「お話し出来ないのでしたら、どうでしょう。この懐剣を私達に預けていただけませんか?勿論、もしもの事が起きた場合は依頼料は全額お返ししますしそれ相応の弁償もします」

 いかがでしょうかと天野が伺うと垂井の表情がまたしても変わった。勿論、嫌な方でだ。その顔は何か良からぬ事を考えているものだった。おそらく大金をふんだくる算段でもしているのだろう。垂井はもったいぶった様子を見せた後、「仕方ない」と言って懐剣を貸してくれたのだ。

「一目見てあのオッサン、叩けば埃と脂が出る身体だと思ったのよね」

 後になって天野が言った言葉である。そして

「あのタイプはそこら辺をちょっと突いた後に好条件を出してやればイチコロなのよ」

 と言ってシシシと狡猾な笑みを浮かべたのだった。なんて恐ろしい娘!コイツ霊能力者よりも詐欺師に向いているんじゃないか?

 なにはともあれ、俺達はいわく付きの懐剣を手に入れた。これが今日最大の収穫となった。



「何を考えているのよ、リョウちゃんは!」

 突如落ちた雷に俺はビクッとした。恐る恐る上目遣いで視線を上げると、そこには憤怒の表情をした祥子の姿が。そのあまりの剣幕に俺が視線を反らした次の瞬間、バンと座卓を叩く音がして再びビクッとした。

「・・・・・・」

目の前には無言で睨みつける祥子の顔。目を反らすなという事だろう。俺は再び上目遣いで祥子を見上げた。

ここは俺の家の居間。そして現在、俺は幼馴染である祥子から説教を受けている最中だ。なぜこんな状況に立たされているのか、それは今からおよそ一時間前に遡る。


「この懐剣を早く調べたいから、今日の夕飯はいいわ」

 そう言った天野と別れた俺が帰宅すると、そこには和装姿の祥子が立っていた。どうやら俺の帰りを待っていたようだ。

「お帰りリョウちゃん。これ、お母さんからのお裾分け」

 そう言う祥子の手には煮物などが入ったタッパーあった。時々だが祥子の母親である嬉子(うれしこ)さんがおかずのお裾分けをくれる時がある。個人的にとてもありがたいのだが、どうやらそれを届けてくれたらしい。

「今日は随分と遅いんだね。何かあったの?」

 そう訊ねる祥子に俺は返答に困った。流石に天野と一緒にいたなんて言ったらどうなるかなんて分かりきっている。

「叔母さんに頼まれた事があったんだ」

 だから俺は死んだ父の弟夫婦の名前を出してその場を乗り切ろうと思った二人に対して少しの罪悪感があったがやむを得ない。叔父さん叔母さん、本当にごめんなさい。そんな俺の話に「へぇー、そうなんだぁ」と祥子が納得してくれたようだった。とりあえず一安心―――

「ところでリョウちゃんの叔母さんって黒髪ストレートでうちの学校の制服が似合う、まるで天野さんみたいな人だったっけ?」

 ―――ではなかった。その言葉で俺は一気に奈落の底へと叩き落とされた。そんな俺に笑顔を向ける祥子の口が動く。

「私、リョウちゃんと天野さんが一緒に校舎を出て行ったって聞いたんだけど?」


 そこからが大変だった。俺が天野と何をしていたのかしつこく訊かれたのだ。

「本当に大したことじゃないんだって!」

「だったら何でこんなに遅くなったのよ?まさか、二人でどこかのホテルで!?」

「何を言っているんだ、お前は!そんな所、行ってねぇよ!」

「じゃあ、外で!?そんな大胆な事を!?私に言ってくれたらもっと大胆な事を!・・・じゃなかった。なに考えてるのよ!」

「お前がなに考えてるんだよ!本当にそんなんじゃないって!」

 長い口論の末、ついに俺は正直に天野の仕事を手伝っていると白状したのだが・・・

「天野さんの手伝いって何?どういう事?天野さんの仕事って霊能力者だよね?その手伝いをリョウちゃんがしてるって、どういう事かなぁ?」

 祥子の声が段々とトーンダウンしていく。この感じ・・・マズイ!そう思った時、祥子の雷が落ちて今に至っている。


「一応確認なんだけど、リョウちゃんは自分の体質の事、分かってるよね?」

 眼光鋭いまま身を乗り出す祥子に詰め寄られた俺は素直に頷く。

「だったら、なんでそんな仕事を引き受けるのよ!リョウちゃんはそういうモノを引き寄せやすいんだから。はっきり言って自殺行為だって分かってないの!?」

 自分を落ち着ける為なのか、俺に呆れているのか分からないため息を祥子が吐く。

「そんなの分かってるって。俺だって何も考え無しで引き受けた訳じゃないって」

「分かってない!リョウちゃんは自分の危機管理が無さすぎるよ!そもそも、リョウちゃんの考えなんて大した事無いじゃない!」

 祥子との付き合いは長いが、流石に今の一言はカチンと来た。自然と語気も荒くなる。

「俺だって考えてるよ!何かあっても天野が―――」

「ほら、やっぱり!どうせそんな事だろうと思った。言っとくけど私、天野さんの事、完全に信用している訳じゃないからね!」

「なんだよ、それ。二人の仲が悪いのは知ってるけど、流石にそれは言い過ぎだろ!」

「リョウちゃんには関係ないでしょ!」

「関係ないってなんだよ!」

 俺達は互いに一歩も引けない状況になっていた。思えばこうして喧嘩するなんて何年ぶりだろうか。

「そもそも、リョウちゃんだって天野さんの事なにも知らないじゃない!私達の学校に来る前は何をしていたとか、なんでこの学校に来たのかとか!リョウちゃんが知っている事なんて、せいぜい天野さんの胸が私よりチョット大きいって事だけじゃない!」

「それは・・・」

 俺は返答に困った。一部分だけ引っかかる箇所があったが、確かに祥子の言い分はもっともだった。俺は天野の事をほとんど知らない。しかし俺にだって言い分はある!

「それこそ関係ねぇだろ!どんな人間だって隠し事の一つや二つはある。祥子だって俺に言えない事くらいあるだろう?」

 口をついて出た言葉は感情任せのものだった。こんな事を言ったって祥子の怒りが収まるとは到底思っていない。

 しかし祥子は何故か言葉に詰まり俺から視線を反らしてしまった。その表情はまるで今にも泣きだしそうな感じを思わせた。

「・・・・・祥子?」 

いつもと違う雰囲気の祥子。そんな祥子に手を差し伸べた俺だが、

「・・・・・もういい!」

 そう言って祥子は俺の手を払いのけ、そのまま勢いよく立ち上がるや背を向け部屋を出ようとする。

「ちょ、待てよ!」

「ついて来ないで!」

 追いかけようとする俺をキッと睨みながら祥子は出て行ってしまった。俺はどうすることも出来ず、ただ立ち尽くすしかできなかった。



「今朝、吉田に『これ以上、リョウちゃんを巻き込まないで!』って言われたんだけど?」

 ここは学校の中庭。周りに誰もいないこの場所で昼休みに俺を呼び出した天野は不機嫌な様子でそう言った。その目は「どういう事だ」と言いたげだった。今朝は姿を見ないと思ってはいたが、まさか実力行使とは・・・。仕方なく俺が昨日の祥子とのやり取りを説明すると、天野は面倒くさそうな表情でため息を吐いた。

「まったく。私が無理矢理ツカサを付き合わせていたなら仕方ないけど・・・ていうか、アンタは保護者かっつーの!」

 天野は心底イラついているようでチッと舌打ちまでしている。祥子と同じで天野も相手の事を相当に嫌悪しているようだ。

「ていうか、お前らってなんでそんなに仲が悪いんだ?過去になんかあったのか?」

「何も無いわよ。もしそんな事があったら、この程度で済む訳がないじゃない」

 じゃあ何でそこまでと思っていると、天野は頭を掻きながら呟いた。

「吉田が私をどう思っているのかは知らないし興味もない。正直、どうでも良いし。ただ、私はアイツが嫌いなの。見てると無性にイライラするから!」

 なんだそれ。なんていうか、ここまでくると細胞レベルで二人の仲が悪いって事だよな?そんな二人の板挟みに逢っている俺はどうすれば・・・

「これは確認なんだけど、まさかツカサは私の手伝いを降りるって言うつもりは無いわよね?」

「それは無い。ちゃんと今週いっぱい付き合うよ」

 俺は即答した。祥子には悪いが一度引き受けた以上は最後までやりきるつもりだ。それを聞いて天野も安心したようだった。

「それじゃ、今日の放課後も私に付き合ってよね。あの懐剣の事が分かったから」

 そう言って天野は去っていった。


 にも関わらずだ。天野は約束の時間を大幅に過ぎて俺の前に現れた。

「なにやってんだよ、天野。遅刻するなんて」

「悪かったわね。ちょっと探し物をしてたのよ」

 ホントにごめんと一応、謝罪らしき言葉をかけながら天野は息を切らしていた。どうやら探し物をしていたのは本当のようだ。

「何を探してたんだよ?言えば手伝ったのに」

「靴・・・って、そんなのどうだっていいでしょ!急ぐわよ!」

 遅くなったからか、少し焦っている様子で天野が駆け出した。

「急ぐってどこにだよ!」

「決まってるでしょ。あのタヌキのオッサンのところよ!」

恐らく垂井の事だろう。俺は走る天野の後を追いかける。

「マジで急ぐわよ!面白いものが見られるわ!」

そう言って意地の悪い笑みを浮かべているであろう天野の背中を追う。その時、ふと天野の足元に目がいった。天野の靴が少し汚れていたのだが、彼女を追いかけることに精一杯な俺はその事を特に疑問にも思わなかった。



 俺達が垂井の店にたどり着くとそこは少し騒ぎになっていた。

垂井金造(きんぞう)。署までご同行願いましょうか?」

 そう言われて肩を落とす垂井と共にパトカーに乗ろうとする信行さんの姿があった。そんな信行さんが俺達を見つけるや穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた。

「やあ、照美ちゃん。おかげで助かったよ」

 ありがとねと言って信行さんはパトカーに乗りこむや俺達を置いて去っていった。

「どういう事だよ?」

 突然の事に困惑する俺に天野が事情を説明してくれた。

「あのオヤジ、影で相当悪い事をしていたみたいでね。昨日、私が信行さんに密告したのよ。で、今日のこの時間に任意同行されたってわけ。多分、このまま逮捕ね」

 そう言ってニヤリとする天野。これが天野の言う「面白いもの」なのだろう。なんとも悪趣味な事だ。垂井達が去った後も警官達が店内を出入りしており、時折いくつかの美術品を持ち出している姿が見えた。おそらく証拠物として押収しているのだろう。

「あっ・・・じゃあ、あの懐剣も警察に渡さないといけないんじゃないのか?」

 押収されていく物品を見ながら俺は思った事を口にした。俺達が借りた懐剣も元はといえばこの古美術店の物だ。たとえ悪い事で手に入れた物だったとしても警察に渡すべきではないだろうか。しかし、俺の疑問に天野がすぐさま反論した。

「声が大きいわよ!警察に聞かれたら取られちゃうじゃない!」

 そう言って天野は俺の手を取り隣の喫茶店へと足を向けた。

「おい、どこ行く気だよ!」

「すぐそこよ。この懐剣を本当の持ち主に返すのよ」

 天野に引っ張られ、俺はそのまま喫茶店へと入っていった。


 お待たせしましたと言って天野はカウンター席へと腰を下ろした。俺もそれにならって隣の席に座る。俺達の目の前には二人の人物がいた。一人は30代前半と思しきエプロン姿の男性。おそらくこの店のマスターだろう。そしてもう一人は同じくカウンター席に座った一人の女性。年齢は20代後半といったところだろうか。

「初めまして、天野照美です。あなたが氷堂(ひょうどう)優樹(ゆき)()さんでしょうか?」

 自己紹介をしながら天野が目の前の女性に話しかけると、その女性――優樹菜さん――はコクリと頷いた。どうやら彼女が懐剣の本来の持ち主のようだ。その証拠に天野が懐剣を目の前に置くと、彼女の表情が一変し目に涙を浮かべるのが見えた。

「この懐剣はあなたの物で間違いないでしょうか?」

 天野の言葉に優樹菜さんは大事そうに懐剣を手に取り小さく頷いた。隣でマスターが心配そうに優樹菜さんに寄り添っているのも見えた。

「これは形見なんです。母と・・・祖母の・・・」

 嗚咽交じりで優樹菜さんはゆっくりと懐剣について語り始めた。

 不慮の事故で若くして亡くなった両親が残した借金の返済のため、形見の懐剣を泣く泣く手放したこと。そして少しずつお金を貯め、垂井から懐剣を買い戻そうとしたこと。しかし、垂井には相手にもされず追い返され、そのまま帰ることも出来ず近くのこの喫茶店でマスターに身の上話をこぼしていたこと。そんな彼女に突然、天野から連絡が入ったこと・・・

 そんな彼女の身の上話を聞いて天野が穏やかにほほ笑んだ。とても優しそうな、満足げな笑みだった。

「これはあなたにお返しします。大事にしてください」

 ありがとうございますと優樹菜さんが頭を下げた。そして、しばらくして彼女がマスターに視線を向けた。

桑原(くわはら)さん。今まで私の愚痴を聞いてくれてありがとうございます」

 そう言って頭を下げる優樹菜さんと,どこか寂しそうな笑みを浮かべるマスター。そして、

「これからも、このお店に紅茶を飲みに来ても良いでしょうか?今までみたいな愚痴ではなくて、普通のお喋りとか・・・?」

 そう言って上目遣いに見上げる優樹菜さんと、さっきまでとは打って変わって表情を明るくするマスター。夕日が差し込む店内で二人の顔が赤く見えた。

「・・・帰るわよ」

 そう言って天野に引っ張られる形で俺は店を後にした。



 帰りの道中で天野から懐剣について話してくれた。

「懐剣って護身用の武器の他に、護り刀として女性の婚礼道具として持たされることもあるのよ。優樹菜さんの話だと代々受け継がれてきたもののようね。母親やおばあ様。もしかしたら、それよりも前からあの懐剣は婚礼の度に持たされた物かもしれない」

 言われてみればあの懐剣の錦の袋は華やかな物でとても護身用の物とは思えない物だった。

「だったら、なんであの刀は妖刀なんて呼ばれてたんだよ?」

 俺の疑問に天野は意外な答えを提示してきた。

「信行さんから聞いたんだけど、あのオッサン、自分が目をつけた物を手に入れるためには手段を選ばないらしいのよ。おそらく優樹菜さんが言ってた両親の借金もアイツが仕組んだんでしょうね」

「それが妖刀とどう関係あるんだよ?」

「昨日説明したでしょ?妖刀って言ってたのはあのオッサンだけ。実際はあの刀に込められた母親達の想いが引き起こしてただけよ」

 そして天野の口から今回の真相が明らかになった。

「あの懐剣は優樹菜さんのもとに帰りたかったのよ。母親やおばあ様。多くの女性の想いが彼女のもとに帰りたいと思って怪現象を引き起こしていた。そうすればあのタヌキも手放すだろうって考えたんじゃないかしら?」

 天野の説明に俺は納得した。全ては優樹菜さんの事を想う親心だったわけだ。母は強しってやつだな。母親のいない俺でもそれくらいは分かる。そしてそんな母親に守られている優樹菜さんもいずれはその母になるのだろう。

「じゃあ、優樹菜さんもあの懐剣を持っていつか嫁いでいくんだろうな」

 俺の言葉に天野も頷いた。

「そうなるわね。もっとも、そう遠くない未来になりそうだけど。ある意味、あのオッサン―――いや、懐剣―――が引き合わせた縁って奴かしら?」

「それってどういう意味だ?・・・天野?」

 天野に尋ねたのに返事が無い。見ると天野は歩みを止め、目の前を見つめたまま微動だにしない。その視線を追った俺は目の前の人物を前に硬直した。


 そこには憤怒の表情をした祥子が俺達を――いや、天野を睨みつけて立っていた。


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