夢
「ここはどこだろう?」
5歳になったばかりの風間ハルトは灼熱の溶岩が吹き出す火山帯にいた。
正確には宙に浮いた状態で。
ふと目の前に突然、2人の翼の生えた人間が空中から降ってきた。
「わぁ~!天使だ!」
ハルトは興奮した。
ハルトは天使やドラゴンといった、ファンタジーが大好きだった。
1人の天使は長髪の白い髪をなびかせた年配の男性だった。
顔は強面で、純白のケープを身にまとい、剣を持っている。
もう1人の天使は美しい金髪に優しい顔立ちの若い女性であった。
男天使と同じように純白のケープを身にまとっており、両手に短刀を一本ずつ持っている。
「綺麗な人‥」
ハルトは女天使に目を奪われた。
女天使は叫んだ。
「なぜガイアを忌み嫌うのです?
あの純粋さを知れば、あなたの考えも変わるはずです!」
男天使はふっと鼻で笑うと落ち着いた口調で話し始めた。
「笑わせるでない。
ガイアは我が主を見下している。
ガイアなど所詮模造品しか生み出せない劣等者だ。
私は我が主のためにガイアを消し去る。
それを阻むものがいれば、たとえ実の娘であろうと容赦はせぬ。」
男天使は剣を女天使に向けた。
「仕方ありません。
あなたは我が主の御心を汚した者。
私はガイアと我が主、そして我が同胞達の共存のためにあなたを倒します。」
女天使も両手に持つ短刀を男天使に向けた。
「行くぞ!アテナ!」
男天使はそう叫ぶと、すごいスピードで女天使に迫る。
アテナと呼ばれた女天使も男天使に向かっていく。
「やめて!」
ハルトは叫んだが両者はぶつかり、激しい光と突風がハルトを襲った。
「うわぁ!」
ハルトは飛び起きて、ソファから落ちた。
「なんだ〜夢か~」
ハルトはホッとした反面、急に悲しい気持ちになった。
何でだろう。この夢を見た後に涙が流れるのは‥
この夢を見たのは初めてではなかった。
物心ついた時からずっと見ている。
母親にも話したが、アニメの見過ぎと言われ、一週間テレビ禁止にされてから、相談していない。
ふと時計を見ると、もうすぐ夕方の4時だった。
「大変だ!」
ハルトは急いで立ち上がり、テレビをつけた。
今日は金曜日。ハルトの毎週楽しみにしているアニメ アイアントルネーダーがある。
テレビをつけると、ちょうどオープニングが始まったところだった。
『GO!
行くぞ!
アイアン〜トル~ネ~ダ〜!
チャッチャラチャラ~』
アイアントルネーダーはハルトの大好きなアニメベスト1だ。
毎回侵略者が送り込んでくるモンスターと、人類が開発したロボットのアイアントルネーダーが戦うというシンプルなものであった。
アイアントルネーダーは現在7機存在しており、各機に小さな妖精の姿をした相棒的な存在のオブザーブエンジェルが同乗する。
ファンタジー要素が強い作品であるため、ハルトの夢はアイアントルネーダーが原因だと母親に思われていた。
アイアントルネーダーが始まって10分が経過した時、突然警告音と共にニュース速報がテレビ画面上部に映し出された。
そして、間もなくニュース画面に切り替わった。
「なんで~?アイアントルネーダーは?」
ハルトは半泣きの状態でテレビに対して訴えた。
この辛さは経験していないとわからない辛さだろう。
テレビ画面の向こう側では、女性のキャスターがニュースを読み上げているが、いつもとは違う、様子がおかしい。
『みなさん、落ち着いてください。
先ほどアメリカ大陸で起きた原因不明の爆発の爆風が日本へ向かっています。
落ち着いて建物内に避難してください。
建物内にいれば、被害を防げると思われます。
落ち着いて…』
鬼気迫った様子で話す女性キャスターも、やがて逃げるように画面から姿を消した。
ただ不安と恐怖に体が支配される。
意味がわからない。
でも、心は逃げろと言っている。
ガチャ!
突然玄関が開いた。
ビクっと玄関を見に行くと、ハルトの母親が息を切らしながらしゃがみこんでいた。
「お母さん、いったいどうしたの?」
ハルトは心配そうにかけよると、母親にぎゅっと強く抱きしめられた。
母親はハルトの耳元で囁いた。
「聞いて…ハルト。時間がないの。
お母さんとお父さんはパンドラの箱を開けてしまったの。
私達は犯してはならない禁忌を犯してしまった。
こうなってしまっては、人類に平和な明日はないわ。
でも、あなたが唯一の希望。
人類が生き残れるか否かはあなたにかかってる。
いや…あなた達にかかってる。
だから…マーヴェリック7を探しなさい。
そして、器を使って人々を導いて…」
「お母さん!何言ってるのかわかんないよ!いったい…」
「黙って聞きなさい!」
不安げに尋ねたハルトの問いを、母親は大声で一蹴した。
「あなたにしかできないのよ!
あなたに罪はない!
それはわかってる!
でも、これは運命なのよ!
なぜなら…」
一瞬、先ほどまで吹いていた風が止んだ。
「伏せて!」
母親はそう叫ぶとハルトに覆いかぶさった。
次の瞬間、凄まじい衝撃波が襲いかかった。
ハルトと母親は吹き飛ばされた。
「生きなさい…」
母親の声がかすかに聞こえた気がした。
そして、次の瞬間何かに叩きつけられ意識を失った。