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その5っ! 落下物と……

気がついたら僕は、自室で寝転んでいた。

必死に記憶を辿っても、思い出されることは何一つない。ただ、大切ななにかが消えてしまったという苦しみだけが残っている。

手には、ぼろぼろのピンク色をしたとびなわが一つ。

「なんだろ、これ?」

白い持ち手の部分に、かわいらしい文字で『クロス』と書かれていた。

クロス……どこかで聞いたような気がする。

「まぁそんな単語はどこでも聞くし、別に普通か」

夕焼けが窓から零れ落ち、部屋を優しく暖める。

「斗助ー夕ご飯できたわよー」

ドアの向こうで響く声に、はーいと一言返事をすると、僕はとびなわを引き出しにしまって部屋を出た。


それから僕は、普通の中学三年生として生活していった。


心になにか痞えるものを残したまま。


十二月の下旬、木曜日の朝。

「おはよう、斗助くん」

ツインテールの彼女は、今年一緒のクラスになった女の子で、僕の隣の席に座っている。

そして、片思いの相手でもある。

「あ、おはよう深黎ちゃん」

「早くしないと、ほら、斗助くん日直でしょ? だからさ」

「うわ、忘れてた! ありがと」

「まったくもー。ふふっ、仕方ないから私が手伝ってあげようか?」

ウインクしながら微笑を見せる深黎ちゃんに僕の心臓は早鐘のごとく高速で血液を送り出す。

「いいのッ? 助かるよ」

「今日だけ、特別だよ?」

「うん」

早く早くーと笑いながら、先を進む深黎ちゃん。ふっと心に幸せが灯る。それはそう、彼女の笑い方が、とても大切ななにかによく似ていたから。

カバンを掴んだまま、花に水をあげる。行きたい高校なんかの他愛もない会話を繰り返して、話題が途切れた頃。

「そう言えば、明後日ってクリスマス・イブじゃない」

「あぁ! そうだね」

「もしよかったら、一緒にどこか行かない?」

突然の誘い。どうしようか迷うふりをしながらけれどもう結論は出ている。

一緒に行きたい。…………一緒に

「うん、それいいね! じゃあ予定が空いてたら連絡するよ」

「よろしくね。忘れないでよ?」

「もちろん、忘れないよ」

自分で言った言葉が、ずきっと胸を刺した。なんでだろう? やっぱり僕はなにかを忘れている? 気のせいだよね。

胸に痞えるこの感覚も、全部全部気のせいなんだよね……



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