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第五話 もやもや

 スタジオから出て少し歩くと、自動販売機の前にソファーが置かれている場所がある。そこに、先客がいた。

 何度か顔を合わせた、今回のドラマのプロデューサーだ。四十を少し過ぎたくらいに見えるが、実際の年齢は聞いていないので分からない。

「浅間プロデューサー。お疲れ様です」

「あ、どうも。星野さん」

 男は椅子に座ったまま、持っていた缶コーヒーを小さく横に振った。挨拶のつもりらしい。

 真希は笑顔を浅間に向けた。

「いやぁ。シュン君。良いですねぇ。正直、キャスティングの時は揉めたんですよ。若いアイドルに犯人役が務まるかってね」

「はあ、そうですか」

 聞いてもいないのに、勝手に話始めた浅間に、真希は適当に相槌を打ちながら、お目当てのジュースを購入する。話続けている浅間の言葉を適当に聞き流しながら、少し間をあけて浅間の横に腰を下ろす。

「でも、見事にハマってる。彼良いですよ。今度はぜひ主演でドラマ出演してもらいたいですなぁ」

「それ、本当ですか!」

 思わず勢い込んで聞いてしまった。

 浅間が驚いたのか、真希から逃れるように上体を逸らした。

「す、すみません。つい」

 真希は勢いで半分浮かしかけていた腰を下ろす。浅間はというと、驚いたことを取りつくろうように一つ咳払いをする。

「ま、まぁ。実は、ここだけの話。来期の連続ドラマの主演がまだ決まってなくてねぇ。私としては、シュン君を推してもいいかと思ってるんだか」

「ぜひ、ぜひお願いします!」

 真希は浅間に詰め寄るように、さっきわざわざあけて座った間を詰める。

「じゃあ、今度……」

 浅間が何か言おうとした、その時だった。

「あれ、浅間プロデューサー。星野さん。こんな所で何してるんですか」

 不意に二人に声がかけられた。

 見上げると、そこには超売れっ子俳優、工藤仁が立っている。

「あ、工藤さん。おはようございます」

 真希は立ちあがって、工藤に頭を下げた。浅間も立ちあがって工藤に挨拶している。

「じゃあ、私はこれで」

 挨拶もそこそこに、浅間はそそくさとこの場を後にした。

 何だろう。何を急いでいるんだろう。

 真希が不思議に思って首をかしげていると、斜め上から工藤の声が振ってきた。

「星野さん。いつものナイト君はどうしたの?」

 世の女性を虜にするスマイルで、工藤が尋ねてくる。真希は一瞬その笑顔に見惚れてから答えた。

「ナイト君? て、何ですか」

「ほら、お宅のシュンくん」

「ああ、シュンなら今撮影中です」

 そう言うと、工藤は少し驚いた表情を見せた。その表情を訝≪いぶか≫しみ 、真希が工藤に問う。

「何か?」

「いや、星野さんがシュン君の撮影中に席をはずすのって珍しいなと思って。いつも撮影中、シュン君をずっと見てるでしょう」

 言われて、そういえばそうかもしれないと真希は思う。瞬についているのが当たり前になっていたので、指摘されるまで気づかなかった。

「あの、ちょっと喉が渇いたので」

「そう……あ 、ナイト君が来たよ」

 その声に、工藤の向いている方を見ると、瞬の姿が目に入った。向こうも真希に気付いたようだ。瞬は無言で近づいてくる。

「工藤さん。おはようございます」

 工藤の前に立って、律義に挨拶した瞬は、工藤から真希に視線を移した。

「で、真希ちゃんは何でここにいる訳」

「何でって、喉乾いたから……」

「ふーん」

 しばらく真希の顔を凝視していた瞬は、真希から工藤に視線を戻した。

「工藤さん。ウチのマネージャーが、何かご迷惑でもおかけしましたか?」

 こら、瞬。いつも迷惑かけているのはあんただろうが。と、真希は反論してやりたい気持ちをぐっとこらえた。

「いや。ちょと話してただけだよ」

「そうですか。ならよかった。あ、工藤さん。次のシーンなんですけど、ちょっとアドバイスいただきたいところがあるんですが」

 いつもの甘えた態度からは考えられない、真面目な顔と口調。数時間前まで、駄々をこねていた人物とは思えない。瞬はしっかり仕事モードの顔だ。

「ああ、じゃあスタジオに向かいながら聞くよ」

 工藤は瞬に快い返事をし、二人連れだって歩きだした。真希は置いてきぼりをくらったような気持ちで、二人の背中を目で追った。途中、瞬が振り返り、真希に向かって口を開く。

「あ、真希ちゃんはジュース飲み終わってから来てくれたらいいから」

 何それ。

 真希は遠ざかる二人の背中を見つめながら、半分以上残ったジュースの缶を握り締め、一人その場に佇≪たたず≫む のだった。



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