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第一話 アイドルグループWin

チャリティー企画One for All , All for One and We are the One ~オンライン作家たちによるアンソロジー~VOL4に収録された作品を加筆修正した物です。

 クリスマスを意識した、気の早いディスプレーが街のあちこちに見える。街路樹が、まるでクリスマスツリーのように明るく装飾され、夜道を照らしていた。

 星野真希ほしのまきは大きく息を吐き出した。吐き出した息が夜目にも白くみえる。今日は夜になって随分冷え込んだようだ。

 真希はひたすら目的地へ向けて歩いていた。両手にスーパーの袋を一つずつ下げている。

 大通りを抜け、住宅街の中に入ると、一気に闇が濃くなった。街灯が先ほどの通りに比べて、少ないせいだ。

「あ、真希ちゃん」

 俯き加減に歩いていた真希は、驚いて、声の聞こえてきた方向へ顔を向ける。

 そこには一人の男が立っていた。まるで子どものように、真希に向かって手を大きく振っている。

 スラリとした長身の青年だ。顔立ちは距離があるので、視力の悪い真希の目に、はっきりと映らないが、声にはかなり聞き覚えがあった。

「ちょっと、あんた何でこんな所にいるの」

 歩調を速めて、のんきに手を振っている青年のもとへ行く。

「何って、真希ちゃん迎えに」

 彼は、真希の持っていたスーパーの袋を取り上げた。

 端正な作りの顔が崩れるくらい、ニコニコと笑顔を向けてくる。

 そんな彼に、真希は大きな溜息を聞かせた。

「迎えなんていらないって言ったでしょう。仮にも芸能人なんだから、もうちょっと周りに気を配りなさいよ」

 真希はあいた手で、青年の背中を叩いた。スーパーの袋持っているため、両手がふさがっている青年は、背を弓なりにして痛がっている。

「だって、真希ちゃん遅いし、心配だったんだもん」

「だもんって、あんたね。仮にもクールで売ってるのよ、シュンは。Winのクール担当なんだから、外での発言は注意しなさいっていつも言ってるでしょう。もっと外見に見合った言動をとりなさい」

「そんなこと言ったって、コレが地だもん。外見に見合ったっていうのも良く分かんないし。それに、仕事の時はちゃんとしてるじゃん。真希ちゃんが言うからさ」

「当たり前でしょう! 今みたいな甘えた喋り方してたら、この三年作り上げてきたあんたのイメージが一気にガタ落ちなんだからね。必要以上にとがらなくても良いけど、ちゃんとした話し方しなさいよ」

 真希がいつものように、背の高い相手を睨みあげながら注意する。

 男らしい端正な顔立ちに、均整のとれた体つき。まだ十九歳のくせに、女なら誰でも、コロッといってしまいそうな男くさい色気もある。

 黙ってさえいれば。

 真希はそっと隣を見上げた。

 荷物持ちよろしく、なぜか上機嫌で隣を歩いているのは、今売り出し中の三人組アイドルグループ『Win』のメンバーの一人だった。芸名はシュン。本名は野上瞬のがみしゅんだ。

 そして、真希はWinの所属する芸能プロダクション『リバースター』の社長令嬢である。


 社長令嬢と言えば聞こえはいいが、芸能事務所の中では、大手とは決して言えず、抱えているタレントも鳴かず飛ばずの者が多い。

 そんなプロダクションなので、真希は父を補佐する立場になるべく、大学卒業と同時にリバースタープロダクションへ就職していた。

 現在は瞬が加入している、Winのプロデューサー兼マネージャーとして働いている。

 このWinを今よりもっともっとビッグにして、プロダクションを大きくするのが真希の夢であった。


「真希ちゃーん。またトリップしてる?」

 瞬の声に我に返った真希は、いつの間にか立ち止り、胸の前で拳を握りしめていたことに気付いた。

 Winをトップアイドルへ押し上げ、リバースターを大手プロダクションにするという野望を、頭の中で思い描いてしまっていた。

 真希は咳払いして誤魔化してから、瞬をひきつれてリバースタープロダクションのビルへ向かって足を速めたのだった。




 プロダクションが所有するビルの中にある、ダンスルームの扉を開ける。

「よっしゃー! ジュースだ、飯だー」

 もろ手を挙げ、大きな声で真希と瞬を出迎えたのは、瞬と同じWinのメンバー井上悠斗いのうえゆうとだ。

 瞬がクール担当であれば、悠斗は元気担当とでもいおうか。溌剌とした青年で、男にしておくのはもったいない可愛い顔立ちをしている。

「ユウト。まず、お帰りなさいだろう。お帰り真希ちゃん」

 さっそく瞬の手からジュースの入った袋をひったくり、中身を漁る悠斗に、ダンスルームにいたもう一人が声をかけた。

 Winのメンバー最後の一人、湧井芳樹わくいよしきだ。甘い柔和なマスクに、穏やかな雰囲気を持つ芳樹は、Winの癒し担当である。

「ヨシ兄、俺には? 俺にお帰りって言葉はないの?」

 瞬は芳樹に向かって、拗ねた口調で唇を尖らせる。いい男が台無しだ。

 瞬の顔に目を向けて、芳樹は苦笑した。

「ああ、お帰りシュン。寒かっただろ。レッスン終わってすぐ走り出して行ったから、どうせ真希ちゃん迎えに行ったんだろうと思ってたけど、やっぱりだったな。風邪ひくなよ。新曲収録前なんだから」

 芳樹の言葉を聞いて、真希は改めて瞬の服装を見た。レッスン着のジャージ上下だ。見慣れた姿なので気づかなかった。ダンスをして汗をかいたあと、そのままの格好で暖かい部屋から息が白くなるほど寒い外へ出てきたのか。

 真希は額に手をあてた。

 本当にバカなんだから。

 瞬からふと目を逸らした先に、もう一人バカを見つけた。

「こら、ユウト! レッスン室にゴミを撒き散らかさない。小学生かあんたは」

 床の上で胡坐を組み、さっそく弁当をたいらげていた悠斗の頭を叩く。悠斗の座る床の周りに、弁当の蓋やら、なんやらが散らばっている。

 ちなみに、悠斗は瞬より一つ年上。芳樹は瞬より二つ年上だ。


 この三人とは、真希がまだこのプロダクションに子役として登録していた頃からの付き合いである。

 幼馴染みたいなものだ。

 小さい頃からレッスンに通い、子役として活動していたこの三人をアイドルグループとして売り出そうと言いだしたのは、他ならぬ真希である。

 それぞれに違う個性のあるこの三人には、素晴らしい才能がある。真希はそう信じている。

 絶対このグループをトップアイドルにして見せるんだから。今の、そこそこ売れているアイドルなんて地位には満足しない。狙うはトップだ。

 真希はそう心に誓った。


「真希ちゃーん。またトリップしてるでしょ。俺が文句言ってるのに、全然聞いてないし」

 拗ねた声が下から聞こえて、いつの間にやら握りしめていた拳に気付いた。悠斗が叩かれたことに文句を言っていたらしいが、聞こえていなかったようだ。

「あ、ゴメン。それよりどう? 新しい振りつけは」

 言いながら、車座に座っている三人の間に膝をつく。

「ま、新曲披露までにはなんとか」

 芳樹が、弁当のふたを開きながら答える。

「俺も大丈ブイ」

 悠斗が、沢山のおかずを咀嚼しながら、割り箸を持った手でむりやりブイサインを作る。

「俺は真希ちゃんが居てくれたら何でもできちゃうから」

 クールで売っているというのに。弁当を手に相好を崩してエヘヘと笑う瞬を見て、脱力してしまう真希であった。

「ま、それは置いといて。新曲発表までにはまだ間があるから。明日からしばらく個人活動よ」

 真希は頭に叩き込んでいる三人のスケジュールを思い浮かべる。

「明日、ヨシキはコマーシャルの撮影と雑誌の取材が入ってるから。ユウトはバラエティーのゲスト出演。それから……」

 真希は瞬に目線を合わせ、瞬の両肩に手を置いた。

「シュン、分かってるわね。明日からドラマの撮影に入るから。主演は今のりにのってる工藤仁くどうじんよ。それだけで視聴率は期待できるの。頑張って取ってきた仕事なんだからね。あんたをアピールする絶好のチャンスなのよ。主役を食っちゃう勢いで、頑張りなさい」

 瞬は真希の真剣な眼差しに気圧されるように、目をパチクリさせながら頷いた。

「なんかよく分かんないけど、真希ちゃんが一緒にいてくれるなら、俺頑張る」

 なんとも頼りない返事に、真希は瞬の肩に手を置いたまま、ガクッと頭を下げた。

「分かってるわよ。ちゃんと、あんたにつくから。ヨシキとユウトには別のマネージャーつけるからね」

 顔を上げて芳樹と悠斗を見ると、二人は心得ていますというように首肯した。

「真希ちゃん。シュンのおもり大変だろうけど、頑張って」

 芳樹に憐れみにも似た視線を貰って、真希は苦笑いした。

「ま、頑張るわ。ありがとう」

 瞬は聞き捨てならないとでもいうように、芳樹の言葉に反論する。

「あ、何それ。ヨシ兄酷い。俺、仕事で真希ちゃん困らせたりしないもん」

 普通にしていれば、クールなイケメンなのに。瞬は大きく頬を膨らませて、恨みがましい目で芳樹を見ている。

 その横で、悠斗が瞬の膨らんだ頬をつついてちょっかいをかけた。

「シュンは真希ちゃん居ないとテンションだだ下がりだもんなー。ホントお子ちゃまなんだから」

「なんだよ。ユウ君なんか顔がお子ちゃまじゃん。俺より、年下に見られるくせに」

 頬を膨らませるのをやめ、言い返した瞬に、悠斗が眦 ≪まなじり≫を上げる。可愛い顔立ちなので、迫力に欠けるが。

「何だとコラ。おまえが老け顔なだけだろ」

「老け顔じゃないもん。ユウ君が童顔なんじゃん」

 また、始まった。真希は内心そう思い、軽く溜息をついた。昔から、この二人は年が近いせいか、それとも性格的な問題なのか、こうやって口げんかをすることが多いのだ。

 止めに入ろうかと口を開きかけた時、いつの間に移動してきたのか、芳樹が隣から真希の肩を叩いた。

「何?」

 芳樹は、口げんかを続けている二人に、優しげな目を向ける。

「もうちょっとやらせとこう。あの二人、じゃれてるだけだから。ストレス発散、ストレス発散」

 ま、ケンカするほど仲が良いという言葉もあるし。と、真希は芳樹と一緒にもうしばらく二人の言い争いを静観することにした。







ここまでご覧いただきありがとうございました。

前書きにも書きました通り、今作はチャリティー企画One for All , All for One and We are the One ~オンライン作家たちによるアンソロジー~VOL4に収録された作品を加筆修正した物です。このアンソロジーは18禁でしたが、この作品は全年齢対象になっておりました。


ただ、何となく今後の展開上、作者的にR15にした方が良いかなと判断させていただきました。


先にこちらにて公開させていただいておりますBL。アイドルLoversに出てくる、真希ちゃん&シュンが主役のお話であります。


そんなに長くないとは思ったのですが、こちらに投稿するにあたり、数話に分けさせていただきました。


年下わんこが好きな方には楽しんでいただけるのでは、ないかと思います。


ではではこの辺で。

次回更新は、明日の十二時になるかと思います。


それでは、次回。

お会いできることを願って。


愛田美月でした。

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