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探偵ごっこ

鮫島視点です。

ある日のデート風景です。

懐かしのあの人が…。覚えているでしょうか?

 ラナと順調に交際を続けていた。色気のある話は全くと言っていいほどないのだが。


 今日は映画を見に来ていた。これぐらいの年頃の女性が見たい映画といえば恋愛ものを思い浮かべるが、彼女は案の定その予想を裏切った。指定されたジャンルはミステリー。しかも四日前にこの映画を見たいと言われたときのことだった。


「犯人は絶対真崎たくみですよ。間違いありません」


 真崎たくみとはベテラン俳優で味のある演技をする実力派だ。


「見てもいないのにどうしてわかるんだ?」

「真崎さんって二時間ドラマにもよく出てること知ってます? あの人が二時間ドラマに出ると、ほとんど犯人役なんですよ。だから今回もそうです」


 それを聞いて唖然とした。話の内容は全く無視のようだ。何という作り手泣かせの客だ。


「ラナさ、純粋に作品を楽しもうという気はないの?」

「ちゃんと楽しんでますよ! 失礼な!」


 急に怒り始めた。癇に障ることを言ってしまったのだろうか。


「わたしなんて一つの作品を三通りの方法で楽しんでるんですよ!」


 彼女はたまに俺の理解できない行動や発言をする。これもその一つだ。


「いいですか。まず見る前に出演者を見て犯人を予想する。次に見始めてニ十分ぐらい経つと、大体の主要人物が出てきて事件が起きますよね。それを見た上で犯人を推理するんですよ。『この人は怪しいけど犯人じゃない』とか『この人は死亡フラグが立ってる』とか。最後にすべてを踏まえて作品を最後まで見て楽しむんです。どうですか? すごいでしょう?」


 胸を張り、得意気な様子だが『どうですか?』と言われても何とも言えない。そんな見方をしたことはないし、そこまでミステリーに情熱は持てない。ラナのこういうところは見ていて飽きないのだが、変わり者という印象は日々強まる。


 ちなみに映画の犯人は真崎たくみだった。

 「やっぱりそうだと思った」と彼女は上機嫌。そんな深読みする奴いないだろうと苦笑した。


 映画の後の昼食時にもミステリー談義は続いた。余程好きなのだろうか。若干嫉妬してしまう。今のラナの心は九割がミステリーに占められている。

 ここで決心する。デートでもうミステリーは見ない。どうせならラブストーリーでも見せて恋愛方面に目を向けて欲しいぐらいだ。俺自身恋愛映画に興味はないが、それに縋りたくなるほど俺たちの間に色気のあることは皆無だ。


 あの日――山本親子に絡まれた夜に、よくあの雰囲気になったものだ。

 やはり勢いで押し通せばよかった。あの日以降キスすらない。せめてキスぐらいしたいなと、いい雰囲気に持っていこうとしてもあっさりスルーされる。多分本人は無自覚だ。こういう面では天然かもしれない。


 彼女は俺がこんなことを考えているとは思っていないだろう。無邪気に今週末に放送される二時間ミステリードラマの話をしていた。人も気も知らないで、いい気なものだ。




 食事を終えて近くをぶらつく。すると突然、ラナが俺の腕をガシッと掴んだ。


「鮫島さん、来てっ」

「は?」

「いいから、走って!」


 何なのか全くわからぬまま、手を引かれる方に走った。角を曲がったところで急に立ち止まり、前方を窺っている。その方向を見ると一組のカップルが目に入る。腕を組んで仲良さげに歩いていた。


 どうやらそのカップルの後をつけるようだ。知り合いなのか? 

 無言で尾行するので俺も黙ってついていく。チラリと表情を窺えば相当機嫌が悪そうだ。


 しばらく尾行を続けると辺りの様子が一変する。ラナは気づいているのだろうか。この先がホテル街であることを。


 前方のカップルがホテル街に入っていく。彼女も構わず進んだ。


 おい、俺を試しているのか? ほんの少し前に悶々としていた俺に対する試練なのか?


 戸惑っていると突然「隠れて!」と俺を電柱の陰に押し込んだ。かばんから携帯を取り出し、カップルを写真で撮り始めた。


「くっそー、あの男。また浮気か……。しかも前の女と違う」


 ぶつくさ独り言を呟く。その言葉に引っ掛かる。

 『また浮気』『前の女と違う』……。あの男、ラナの何だ? 心にどす黒いものが広がる。


 彼女はカップルの動向に夢中だ。二人がホテルに入るのを見届けて「あの男、一体どういうつもりさ!」と憤慨している。

 俺からしたらラナこそどういうつもりだ。こんなホテル街をうろうろするとは。拷問だろう。

 そんなことを考えていると、背後から声をかけられた。


「失礼。ちょっとお話、聞かせてもらえます?」


 威圧感のある声の主は中年の男。表情は険しい。


「私、こういうものです」


 男が懐から出したのは警察手帳。職務質問だろうか。俺は自分たちの行動を振り返った。ホテル街でコソコソ尾行まがいなことをして電柱の陰で写真を撮る。……十分怪しいな。


 この三十五年間の人生で警察の世話になったことなど運転免許の更新ぐらいだ。少々青ざめる俺に対し、ラナは目を輝かせてウキウキしている。


「これって職質!? うわぁ、初めてなんだけど! 刑事さんってことはやっぱり手錠とか持ってるんですか?」


 ドラマでしか見られない光景に興味津々だ。辺りを気にせず質問攻めをする彼女に、刑事は困惑しているようだ。すると一人の若い男が近づいてきた。


「小林さん、職質ですか?」


 その男はラナを見て、驚きの声を上げた。


「あれ!? ラナちゃん」

「えっ? 的場さん! 久しぶり~」


 ……知り合い? この男も刑事なのだろうか。とてもそうは見えない。優しそうな顔の男だ。どうやら彼女には男の知り合いが多いらしい。一体どういう関係だ?


「何だ、的場。お前の知り合いか?」


 若い男の知り合いと聞き、中年の刑事は表情を緩ませた。


「はい。だから不審者じゃありませんよ。ラナちゃん、こちらの方は?」

「彼氏だよ~」

「ってことは、見合いの……」


 そう呟くと男はなぜか俺を睨みつけてきた。それを見てラナが男をたしなめた。


「もう、睨まないで。今は私の彼氏なんだから仲良くしてよ、ね?」

「そう……だよね。すみません」


 男は俺に頭を下げる。こちらも慌てて頭を下げるも、状況が理解できない。そんな俺を置き去りに二人は話を続けた。


「で、ラナちゃんはここで何を?」

「ん~、探偵ごっこ」


 探偵ごっこ!? 初耳だが。


「そっか。気をつけなよ。最近この辺りで強盗事件があったから」

「物騒だね。じゃあ事件が解決するまでうちに来れないかな?」

「うーん、残念だけどそうなるね」


 『うちに来る』だと? 家にまで出入りしているのか、この男。俺ですら未だに家には行っていないというのに。


「早く犯人捕まるといいね。的場さんが来れなくてきっと寂しがってるよ。母も、……父も」

「……そうかな」


 二人の刑事は「これから聞き込みだから」と行ってしまった。

 放置され、話に入れないこの状況にもう限界だった。


「ラナ……」

「何ですか?」


 俺を見上げるラナの表情が凍りつく。自分の顔が強張っているのは理解していた。


「鮫島さん、何か怒ってます?」

「そう思う? 思い当たる理由は?」

「……わかりません」

「そう。じゃあはっきり訊くよ。尾行した男とさっきの刑事、ラナとどういう関係? 場合によっては個室で話そうか。幸い二人きりになるにはおあつらえ向きの場所がたくさんあるし」


 俺の言葉でようやく今いる場所がホテル街だということに気づいたらしく、顔を真っ赤にして慌てふためいた。


「な、何言ってるんですか! それじゃまるで焼きもちやいてるみたいじゃないですかっ!」

「焼いているよ。あの人たちに嫉妬してる」


 さらっと言った言葉に彼女は固まった。自分でもこんなことを素面で言えるようになったとは、俺も変わったものだ。


「かっこ悪いかもしれないけど、内心むかついた。あんなに仲良く話されて俺が何も思わないと思ってる? もし俺が他の女と仲良く話していたらどう思う?」

「……ムカつきます」

「そういうことだよ。わかった?」

「はい。ごめんなさい」



 俺の気持ちをわからせたところで、これ以上ここにいると自分が暴走しそうだったので、その場を離れる。カフェに入り、コーヒーとカフェオレを注文したところで再び尋ねた。


「で、訊かせてもらおうか。まずあの刑事とはどんな関係?」

「的場さんは姉の彼氏です」

「お姉さんの彼氏?」

「そうです。姉が見合いに来られなくなった原因が彼です。姉は彼と交際を始めたから見合いを拒否して、無断外泊したんです。朝帰りを父に咎められて修羅場化。父は交際に大反対していて、説得するために休みのたびにうちに来てるんです」

 


 なるほど。そういうことなら家に出入りしていてもおかしくはない。彼が俺を睨んでいたのも自分の恋人の見合い相手だったから。ただの焼きもちか。


「じゃあカップルの男は?」

「あれは美羅ちゃんのろくでなしの彼氏です」

「美羅ちゃん?」


 また新しい名前が出てきたな。今度は女の名前か。


「わたしの二番目の姉です。家を出て一人暮らししてるので、話題には出づらいんですけど」


 三姉妹だったのか。それも知らなかった。


「あいつ、浮気してばれては土下座して『やっぱり俺にはお前が一番なんだ』って謝るんです。それを何っ回も繰り返してて。許しちゃう美羅ちゃんもどうかと思うんですけど、懲りないあの男も最悪」


 ブツブツと愚痴を口にする様子に、俺の中の嫉妬が完全に消えた。姉の恋人の浮気現場に遭遇して、尾行したのも心配ゆえのことか。 


「じゃあその彼の浮気、お姉さんに知らせるの?」


 ラナは首を横に振った。そして少し悲しそうな表情をする。


「美羅ちゃん、きっと浮気に気づいてると思います。恋人同士のことを外からとやかく言ってもどうにもなりませんし……」


 それもそうだがそのままっていうのも後味が悪い。そういう男はこれからも同じことを繰り返す。ラナの姉の心の傷も増えかねない。


「じゃあ写真を撮っていたのはなぜ?」

「あれはもしものときの保険です。美羅ちゃんがあいつを切るって決めたら力になれるように」

「そうか」

「はい。この辺りによく出没するから目撃情報多くて、それも収集してるんです。あいつ、すんなり美羅ちゃんと別れなさそうだから、今のうちに使えるカードは一枚でも多く用意しておいて損はないです」


 本当に探偵まがいなことをしていたのか。おっとりしていそうで意外としたたかなラナの一面に驚く。そしてあらためて彼女には、俺の知らない顔がまだたくさんあると痛感させられた。


 大きなため息をつくと、心配そうに俺の顔を覗き込む。


「どうかしました?」

「俺ってラナのこと、まだ全然知らないんだな」

「拗ねてるんですか?」

「拗ねていない」


 むきになって否定すると、クスクスと笑いながら楽しそうだ。


「わたしだって鮫島さんのこと全然知らないんですから、おあいこです。これからゆっくりとお互いを知っていけたらいいじゃないですか」

「そうだな」

「だから拗ねないで、何でも教えてくださいね」


 ラナは俺の機嫌の取り方をよく知っているのか。それとも天然? 俺はもう敵わない気がする。楽しそうなラナに笑いかける。


「それはこっちのセリフ」


 正面に座る彼女の頭を軽くぽんぽんと叩くと、満面の笑みを向ける彼女。

 それをかわいいなと思いながら、コーヒーを一気に飲み干した。





前半のくだりはいとみの趣味の話です。遊んでます。


嫉妬のオンパレードですね。

何だか余計な伏線をいっぱい張ってしまった気がします(汗)

みなさん、的場さんを覚えていますか??それにラナ姉2よりも先に登場してしまったろくでなし彼氏…。この伏線を全部回収できるでしょうか??


さて番外編の更新は一時ストップです。お待たせしました。次回からまた本編に戻ります。

またそのうちふらっと更新しますので、その時は読んでやってくださいませ。

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