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新人OL奮闘記 前編

本当は新婚旅行編アップのはずだったんですが、どうもまだまだ時間がかかりそうなので、こちらを先にアップします。

ここからは時系列がぐちゃぐちゃになります。

ご了承ください。


多少の変態発言注意!

 チャオ! わたし、稲川都。

 この春に大学を卒業した、ピッカピカの新社会人。


 就職先はあこがれの大企業。まさかこのわたしがこんな有名な企業に入社できるなんて夢にも思わなかった。一生の運、使い果たしちゃったかもって思ったぐらい。

 でもわたし、まだまだツイてる。だってそこで運命の出会いをしちゃったんだもん!


 彼との出会いは三次面接のとき。

 自分がここまで進めるとは思ってなくて、控室でガチガチに固まっていた。さっき行ったばかりなのにトイレに行きたくなって、控室を出たの。

 その帰り道、曲がり角で誰かとぶつかって、わたしは勢いよく尻餅をついてしまった。


「ごめん、大丈夫か?」


 頭上から低い声が降ってきたので、わたしはのろのろと顔を上げる。

 するとそこには!


 ――――ヤバイ。超かっこいいんですけど!


 心配そうにわたしを見下ろす、超ハイクオリティーなイケメン男性!

 きっちり整えられた黒い髪、見たことのないほど整った顔立ち。

 ああ、至福の時じゃ……じゃなくて! 


 足を前に投げ出してお尻を擦っていたんだけど、急に自分の体勢に恥ずかしくなって顔を真っ赤にした。


「だ、だ、だ、大丈夫です!!」


 慌てて起き上がろうとしたら、その男性は手を差し出してくれた。


「掴まって?」

「は、はい!」


 おずおずと手を重ねると、彼はわたしの手をギュッと掴んで引っ張り上げてくれた。

 その手は大きくて、わたしの小さな手なんて簡単に隠れてしまう。長く綺麗な指に思わずドキンとしてしまう。


「すまない。前をよく見ていなくて」

「い、いいえ! こちらこそ申し訳ありませんでした!」


 ぺこりと頭を下げてから顔を上げると、彼の顔はわたしの頭二つ分ぐらい上にあった。背、高いな。


「面接の学生さんかな?」

「は、はい!」

「あまり緊張しなくて大丈夫だから。頑張って」

「はい! ありがとうございます!!」


 元気に返事をすると彼は小さく笑って、「じゃあ」と言ってその場を後にした。

 その後ろ姿をポーッとしながら眺めているうちに、さっきまでの緊張などどこかに吹っ飛んでしまった。笑顔がなんて素敵なんだろう。


 控室に戻ると、さっきの余韻に浸ることなく面接の部屋に呼ばれてしまった。でも不思議と緊張感は皆無。一度深呼吸して部屋をノックし、許可の後、部屋に入った。

 その部屋にはな、なんと、さっきの男性がいるではないか。二人いる面接官のうちの一人が彼だった。

 一瞬驚くが、慌てて学校名と名前を告げた。


「稲川さん、どうぞ着席してください」

「はい。失礼します」


 着席すると、面接官の自己紹介が始まった。彼は「企画部の鮫島です」と名乗った。

 鮫島、さん。

 やだ、名前知っちゃった!


 でも浮かれ気分はそこまで。わたしは気持ちを切り替え、面接に集中した。普段の自分よりエネルギッシュに、やる気に満ち溢れた受け答えができた。まさに奇跡!

 だってこの会社に入社できたら、この人の側で働けるかもしれないんだよ。燃えるに決まってる! 滾るわぁあああ!!


 手ごたえ十分で面接を終え、退室するとき。安堵したせいか、出口に向かうときにうっかり椅子に足が引っかかり……。


「うぎゃっ!」


 わたしは転んでしまった。


「大丈夫か!?」


 面接官の二人が慌てて声を掛けてきたが、わたしは動揺せずに立ち上がり、スーツを整え、二人にニッコリ微笑んだ。


「失礼しました。大丈夫です」


 そしてあらためて一礼をし、今度こそ退室した。廊下を数歩歩き、その場でしゃがみこんで頭を抱えた。

 ヤバイヤバイヤバイ! かっこ悪いぞ、都! あの人の前で、マジ恥ずかしい! しかも二回も!

 もう駄目だぁ……。絶対落ちたよぉ……。

 ガックリと肩を落とし、意気消沈してトボトボ帰宅した。


 ところがなぜかこの面接を通過し、四次、最終面接も突破。あれよという間に内定を貰い、天下の大企業に就職が決まってしまった。

 すごいツイてる。わたし、人生のピークが今なのかも!





※※※





「……デキるな、彼女」

「ああ。あの堂々とした態度に切り返し。あれなら十分通用する。うちの営業に欲しいな」

「さっきまで緊張していたようだがな」

「何だ、鮫島。知り合いか?」

「いや。さっき廊下でぶつかった」

「ふーん。どうせまた無駄に色気でも振り撒いたか? ラナちゃんにチクるぞ」

「馬鹿か。色気なんて振り撒いてない」

「どうだか」

「ただ、元気がいいところがラナに似ているなって思っただけだ。だから一言、『頑張れ』って声を掛けただけだろ」

「……十分勘違いされてもおかしくないこと、してるじゃねーか」

「うるさい、設楽。次を呼べ」

「はいはい、かしこまりました」





※※※





 入社式を終え、わたしは大企業の一員になった。この会社は研修期間が長く、正式に担当部署に配属されるのは七月らしい。研修中に仲良しの同期もたくさんでき、わたしの社会人生活は充実していた。


 わたしの憧れの男性は企画部の部長さんだった。彼の年齢で部長なんて、エリート中のエリート。それにあのイケメンだもん。モテモテなのは当然だった。新入社員の女子の間でも人気ダントツ。

 わたしなんて到底相手にされないだろう。でもでも左手の薬指に指輪してないし、少しぐらい夢を見たっていいよね?


 とにかくわたしの今の目標は企画部に配属されること。鮫島部長の下で働きたいんだもん。地獄の研修を耐えに耐え、な、なんと、念願の企画部に配属されることになった。

 すごい、都! わたし、ツキまくってる――!!




 そして配属初日の朝。部長から部の皆さんにわたしを含む新人たちが紹介された。


「稲川さんの教育係は森口、頼むぞ」

「はい」


 わたしの教育係は森口さんという男性だった。眼鏡をかけていて、人懐っこそうな感じ。優しそうな人で安心した。


「じゃあ皆、よろしく頼む」


 部長の一言で各々が仕事に取り掛かったの、だ、が……。

 部長のとあることに気づき、わたしは呆然とその場に立ち尽くしてしまう。


「稲川さん、森口です。よろしくね」


 声を掛ける森口さんに、返事をすることもできない。

 すると怪訝そうに顔を覗きこまれた。


「おーい、稲川さん?」

「あの……」

「何?」

「鮫島、部長は……ご結婚されているのですか?」


 わたしが心ここにあらずになってしまった理由は、部長の薬指に今までなかった指輪が嵌っていたからに他なかった。

 嘘……いつ? いつから指輪があった!?


 わたしの問いに森口さんはキョトンとしながら教えてくれた。


「あ、知らなかった? ほんとについ二週間ぐらい前かな。新婚ホヤホヤだよ」


 な、なんですと――!?







 今日一日よくぞ大したミスもせずに終えられたと、自分で自分を褒めてやりたい。

 仕事終わりに同期の女子二人と飲む約束をしていたので、居酒屋に着いた途端に泣き言を漏らした。


「鮫島部長が……結婚してた――!!」


 半泣きでそう告げるが、同期の対応は冷たかった。


「え……、知らなかったのぉ?」


 ギャル系女子、サキがそう言えば、


「あれだけキャーキャー言っていたくせに? そんなの、かなり有名な話よ」


 姐さん系女子、ミキがこう言う。


「なんですと!?」


 もしかして知らなかったのはわたしだけ!?


「知ってたなら、どうして教えてくれなかったの!?」

「だって、当然知ってたと思ってたしぃ~」

「あんなに頑張っていたところに水を差すのも……ねぇ?」

「酷い!」


 なんという友だ。勝手にのぼせ上って、危うく恥かくところだったじゃないか! いや、もう恥かいた!


「ふ、二人だって、きゃあきゃあ騒いでたじゃない!」

「あたしはあくまで観賞用。だってカレシいるしぃ~」

「わたしはどちらかといえば営業の設楽課長の方がタイプよ」

「う、裏切り者――!!」


 ガックリと肩を落とすわたしに、友は酒を注ぐ。


「まぁまぁ、飲みなよぉ」

「そうそう。付き合ってあげるわよ」

「サキ~、ミキ~。愛してる!」

「「あー……、はいはい」」


 この夜、わたしは勧められるままに酒を煽った。こうなったら失恋のヤケ酒よ!






 次の日。わたしは気分を変え、新たなミッションを自分に課した。


 部長のことは諦めるしかない。でも憧れの気持ちまで捨てることはない。

 だってきっかけはどうであれ、彼の下で働きたいと思ったことは今でも変わらないのだから。だから仕事で彼に認めてもらえるように頑張るのだ。


 そしてあれだけきゃあきゃあ言っていたのに、わたしは部長のことをほとんど知らなかったことに気付いた。わたしはその日から、こっそりと部長データを集めた。多少ミーハーな感じだけど、ファンなんだからいいじゃないと開き直った。

 すると有名人だからか、あっという間に多くの情報がわたしのところに舞い込んできた。

 



 【基本DETA】


 鮫島慎也、三十六歳。某有名大学経済学部卒。

 入社後、営業部に配属。営業成績は常に上位。エース的存在。

 三年後、企画部に異動。メキメキ頭角を現す。

 二十八歳で結婚。二年後、離婚。離婚理由は不明。

 三十二歳、異例の早さで課長昇進。部下からの信頼も厚い。

 今年の一月、部長に昇進。現在に至る。


 【一口メモ】


 仲がいいのは同期である、営業の設楽課長。よく一緒にご飯を食べている。

 “鬼の竹田”で有名な、竹田専務の秘蔵っ子と名高い。その信頼は厚い。

 初めの結婚前は、結構遊んでいたらしい。

 しかし社内の人間には手を出さなかったらしい。

 離婚後は仕事人間。どんな美人に言い寄られても一切靡かなかったらしい。

 つい二週間ほど前、結婚したらしい。

 




 ……むむー、すごい経歴。というか、部長はバツイチだったんだ。

 ここで一つの疑問を抱く。

 どんな美人にも靡かなかった部長のハートを射止めた奥さん、どんな人なんだ?

 気になる……。めっちゃ気になる……。


 だけどそれを調査することはできなかった。なぜなら――――






「いーなーがーわーさん。僕の話を聞いていたのかなぁ?」

「す、すみません!」

「その耳は飾りなのかなぁ?」

「ひぃいいいいっ!」


 耳を引っ張らないでください!! お願いですから!!


 社会というものは、やはり甘くなかった。

 優しげで、人懐っこい印象だった、教育係の森口先輩。

 まさかの……鬼悪魔でした。


「わからない場合はそのままにせず即訊く。一度説明を受けたことは二度訊かない。メモをちゃんと取る。こんなこともできないなら、もう一度小学生からやり直してみる?」

「め、め、め、滅相もございません!」


 でも言っていることに間違いがないので、反論することなどできないのです。

 鬼悪魔のスパルタ教育により、部長の奥さんにかまける余裕は消えました。


「この書類、全部提出するまで帰れるとは思わないことだね」

「は、はいぃいいいいっ!」


 ふぇーん。こんなの、今日中に終わらないよ――!!

 





 ――――と、こんな感じであっという間に五ヶ月が経ちまして、今は十二月です。


 この部署はクリスマスまでが尋常ではないほど忙しく、がむしゃらに仕事をしているうちにあっという間に年末でした。

 もちろん、クリスマスはヘロヘロになりながら帰宅後、一人寂しくこたつで値引きされたケーキ……。シクシク。


 今日は、世間はくそ忙しい年末にもかかわらず、少し遅い忘年会です。

 一次会の居酒屋でたらふくご飯を食べた後、仲良しの先輩たちに誘われて、別の居酒屋で二次会です。


「部長、本当にさっさと帰っちゃいましたよね~」


 岬先輩がジョッキを呷りながらぼやく。

 その言葉に松前主任がカラッと笑った。


「そりゃ帰るに決まっているって。言ってもまだ新婚だし」


 チャーンス! ここでわたしはかねてからの疑問を口にした。


「皆さんは部長の奥さんを知っているんですか?」

「ここにいるメンバーは全員知っているよな。結婚式に出席したし」


 主任の言葉に頷く皆さんの様子を見て、思わず「いいなぁ」と呟く。

 すると中野さんが「ああ……」と声を上げた。


「そういえば稲川さんは式の後の配属だったものね」

「そうなんですよ。それに噂で部長はどんな美人にも靡かなかったって聞いたんで、そんな部長のハートを射止めた奥さんってどんな人なのかなって気になって」

「俺達で知ってることなら、話してあげよっか?」


 ノリのいい熊田さんの提案に食い気味に叫んだ。


「ぜひ!!」


 目をキラキラさせて興味津々のわたしに、呆れ顔で隣に座る鬼悪魔。

 その冷ややかな視線は見なかったことにしよっと。

 



 【松前主任(穏やかなパパさん)の証言】


「部長と奥さんの出会いはお見合いらしいんだよね」

「えっ、そうなんですか?」

「でも、もともと相手は奥さんじゃなかったらしいよ。で、部長の猛プッシュで付き合いだしたらしい」

「おお! 何か意外ですねぇ」

「一回りも年下だからか、それはもう溺愛しているみたい」

「一回り!? ってことは二十四、五? 若っ!! で、どんな人なんですか??」

「かわいらしい感じの人だよ。部長の前の奥さんが美人だったから、ちょっとタイプが違うなぁって思ったけど」

「主任は前の奥さんもご存じなんですね」

「まぁね。結婚式にも行ったし。でも前の結婚式はただ豪華ってだけだったけど、今回の式は温かい感じがしたかな」

「なるほど……」




 【岬先輩(合コン大好き女子)の証言】


「部長の奥さん、肝据わってるわよ~。だってあの山本親子を土下座させたんだからね~」

「……誰ですか?」

「うちの部署にいたのよ。仕事もできないド派手な女で、男に媚を売って女はいじめの対象っていう最悪な女が。その女ね、部長に色目使っても効果がないから、当時まだ付き合い始めたばかりの奥さんを捕まえて、手切れ金出して別れさせようとしたのよ」

「え、えげつないですね……」

「そうなのよ。で、その女の父親が人事部長だったわけよ。父親が甘やかすから余計に調子に乗るでしょう? でも奥さんは啖呵切って、公衆の面前で部長への愛を公言したわけよ」

「愛の公言……。すっごいですね」

「で、そのあとなんやかんやで、あのいけ好かない親子を土下座させたってわけよ」

「へー、あの人事部長が……。いい人っぽそうだったのに……」

「あ、今の人事部長じゃないから。元人事部長は少し前の人事で子会社に飛ばされたから」

「と、飛ばされた……。その土下座が原因ですか?」

「違うんじゃない? あの人、いろいろキナ臭いことしてたっぽいし。ま、親子ともどもいなくなって清々したって感じ?」

「ちなみにその娘さんの方は……」

「その土下座事件の後ずっと無断欠勤を繰り返して、そのままフェードアウトよ」

「なるほど……」




 【中野さん(ザ・クールビューティーなお姉さま)の証言】


「部長はしっかりしているはずなのに、なぜか梅雨の時期に傘を持ってこないのよ。わたしもね、何度か同じ傘に入って取引先から帰ったこともあるんだけど」

「へー、結構おっちょこちょいなんですかね」

「それでね、残業を終えて外に出たときに雨が降っていて、ちょうど部長に会ったんだけど、また傘を持ってなかったの。駅まで入りますかって聞いたんだけど、そこに奥さんが迎えに来ていたようでね。別れた後に見ていたら、部長が奥さんの差している傘の中に入って、ギューって奥さんを抱きしめていたわ」

「キャーッ!! なんかロマンチックですね!!」

「そのまま相合傘で帰っていったわ。もう一本傘があるのにもかかわらず」

「ラブラブですね~」

「そうね。でも傘があるなら、わたしは相合傘とか絶対嫌だわ。だって濡れるじゃない」

「……そうですね(流石、クールビューティー)」




 【熊田さん(マッチョな兄貴)の証言】


「でも順風満帆ってわけでもなかったんだよな、部長と奥さん」

「何でですか??」

「うちと松浦物産で商談があったんだけど、部長が松浦の社長令嬢に惚れられちゃってさ。商談を盾にして交際を迫られてたっぽい」

「松浦物産の社長令嬢!?」

「そっ。美人だったけど、高飛車な人だったよな。高圧的だったし。そんときの部長、見てられないほど憔悴しきっててさ。残業やら休日出勤繰り返して、何か仕事に逃げてる感じだった」

「うわぁ……。ドラマみたい……」

「令嬢もさ、用事もないのにしょっちゅう電話してきてさ。部長、かなりまいってたな。電話の後、真っ青な顔をしてフロアから出ていったこともあったし」

「ストーカーですか?」

「うーん、そこまでではないんだけど。あの商談の担当が森口だったんだけど、お構いなしに部長とサシで話してたし。な、森口」

「へー。でもそれってどうケリをつけたんですか?」




 【森口先輩(言わずもがな鬼悪魔な教育係)の証言】


「……何で僕が稲川さんのためにしゃべらなきゃいけないわけ?」

「いいじゃないですか」

「はぁ……。しょうがないな。今日だけだからね。――事の収拾は竹田専務のおかげ。専務が令嬢の度重なる越権行為を松浦の社長と専務に進言して、商談をうちの優位に進めたわけ」

「すっごいですね~、竹田専務」

「そうだね。あの人はすごいよ。でもその後うちの部署でゴタゴタがあって、部長もかなり忙しくなったけど、悩み事が消えたからか元気になったよ。そのあとに奥さんと婚約して、部長に昇進したんだ」

「おお!!」




 【渡辺さん(食事に夢中で一言も発してない女子)の証言】


「……あ、あたしの番?(モグモグ、ゴクン)……部長って、結構独占欲が強いっぽいの。結婚式でのことなんだけどね。営業の設楽課長はご家族で参列していたんだけど、課長の娘さんが奥さんと仲良しらしくてね。奥さんが娘さんに構い過ぎて、部長が恨めしい顔でその子を睨み付けていたの」

「その娘さんって、おいくつなんですか?」

「三、四歳ぐらいかしら」

「部長、大人げな、」

「いいわよね~。あたしも雁字搦めに束縛されたいわぁ~」

「っ……!(驚愕)」

「そうそう。話変わるけど、新婦側の参列者にものすっごくイケメンがいてね。あたし、二次会でアタックしたの。『女に興味なんてない』って罵られたんだけど、それがもうあたしの心臓鷲掴みでね。『もっと罵倒してください』って縋ったら、ドン引きされちゃった」

「…………(ドン引き)」


 ※話が脱線していますが、止められないのでお付き合いください。


「でもあたし、めげないの。二次会終わっても付きまとっていたら、そのイケメンの彼女っぽい、すっごい美人が現れて、あたしをイケメンから引きはがして、あたしの耳元でなんて言ったと思う?」

「…………(魂抜けかけ)」

「ね、何て言ったと思う??」

「えっと……『わたしの彼氏に近寄るな』とか……?」

「ブッブー。正解は『苦痛の先にある快楽地獄、わたしが連れて行ってあげようか?』でしたー」

「…………(絶句)」

「あたし、興奮して腰砕けちゃって。あのとき『もう百合の世界に足踏み入れちゃいそう』って思ったんだけど、結局その美人さんが『でも女の子に酷いことできないから無理だわ。ごめんね』って言ったから無理だったのー。もー残念」

「…………(絶句&ドン引き)」





「……ちょっと。稲川さん。戻っておいで」


 呆けていると、隣にいる森口先輩に揺さぶられた。

 ……ハッ!


「す、すみません。何だか知らない世界にトリップしてました」

「渡辺さんの私生活に触れちゃ駄目。これ、うちの課の鉄則。覚えておいて」

「はい」

 

 一部関係ない話があったけど、これはますます部長の奥さんに会いたくなったぞ。




また新たな変態を生み出してしまった……。

次回、新婚家庭に潜入。

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