表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/30

小さな恋の物語

まさか彼を主人公とする日が来るとは……

 少年の名前は塁。小学一年生だ。


 今日は、少年の叔父の結婚式。結婚式に出席することは初めてで、彼は楽しみで仕方なかった。

 少年は思う。


 あの女性が叔母になるのか、と。


 しかし「叔母さん」と呼ぶと怒るので、決して呼ばない。彼女は優しいが、怒ると怖いことをよく知っているからだ。


 少年は普段よりもおめかししていて上機嫌だ。


 しかし走り回ると服が汚れるので、大人しくしているように母親に言われていた。少々がっかりして、じっとしていることにした。母親も怒ると怖いからだ。


 少年は二歳上の兄と一緒にいようと考えた。しかし兄は結婚式で何やら役目があるらしく、どこかに行ってしまった。


「つまんないの」


 少年はがっかりする。


 しかしじっとしていることが苦手な彼は、親族が集まる部屋から抜け出し、探検をすることに決めた。外に出れば、そこには広大な庭園が広がっていた。


 自由に駆け回っていると、自分がどこから来たのか、どこへ戻ればいいのかがわからなくなってしまった。


「どうしよう」


 迷子になったと気づいた少年。不安になるが、「男は泣いてはいけない」という父親の言葉を胸に秘めている。そのうち会えるだろうと思い、彼は探検を続けた。


 すると草むらの陰から、泣き声が聞こえた。


「ひっく……パパぁ、ママぁ……どこぉ……?」


 そこに近づくと、幼い少女がしゃがんで泣いていたのだ。


「だれかいるのか?」


 少年の言葉に、少女は顔を上げる。彼女は目に涙をいっぱい溜めて、彼を見つめた。


 ――かわいい……。


 少年には少女が天使のように見えたようだった。少々赤くなりながら、彼女に声を掛ける。


「おれ、るい。おまえは?」

「……ゆり」

「まいごか?」

「うん」

「おれがゆりのパパとママをいっしょにさがしてやるよ」

「ほんと……?」


 少年は少女の言葉に頷き、手を差し出した。彼女はその小さな手を彼の手に重ねた。彼はそれをギュッと握り、彼女を立たせてから歩き出した。


 二人は両親を探しながら、庭を歩き回った。


 ところがいつまでたっても見つからない。せっかく泣き止んだ少女も、不安で再び泣き出してしまった。


 オロオロしながら彼女を見つめる少年。慰めたいのに、どうすればよいのかわからない。


 迷った挙句すぐそばにある花壇から花を引っこ抜き、彼女に差し出した。


「これやるから、なくな!」


 少女はおずおずとそれを受け取り、花を見て、泣きながらも笑った。


「るいくん、ありがとう!」


 その笑みに魅せられ、少年の顔が赤くなっていく。「照れてなんかない」と心の中で言い訳しながら、再び彼女の手を取り歩き出す。


 少し行ったところで、少年はようやく知り合いに会うことができた。少女と同じように草むらにしゃがみ込んで隠れている。少年はその人物の背に声を掛ける。


「たくやにいちゃん!」


 呼ばれた彼は振り返り、目を見開いた。それは少年の従兄であった。


「塁? お前、なんでここに?」

「おにいちゃんもまいごなの?」


 少女の問いに、少年は気づく。彼も少女の目のように真っ赤で、目に涙を浮かべていたのだ。

 しかし彼はそれを否定した。


「僕は迷子じゃない!」

「おとこはないちゃ、いけないんだぞ!」


 少年が父親の教えを口にすれば、彼は肩を落としながら呟いた。


「……男だって泣きたいときはあるんだよ」


 彼は目をゴシゴシと擦り、立ち上がった。そのときにはいまだに目は赤かったものの、すでに涙は見られなかった。


 二人に視線を合わせながら、彼は問う。


「で、二人は迷子なのか?」


 頷く二人を見て、ため息をついた彼は少年の手を取る。


「行くぞ。案内してやる」


 こうして彼の案内で、二人は無事控室まで戻ることができた。


 自分の子供がいないことに気づき、探しに行こうとしていた矢先に戻ってきた我が子たち。お互いの母親が自分の子の名を呼ぶ。


「塁! あんた、どこ行ってたの!」

「由理!」

「「ママ!!」」


 二人は同時に手を離し、母親のもとへ駆け寄った。


 しゃがんで手を広げた母の胸に飛び込む。少女は安堵で泣き出し、少年もまた母との再会で気が抜け、ボロボロと泣き出してしまった。母親たちは共に、我が子をギュッと抱きしめた。


 もうすぐ式が始まる。会場に移動するように式場スタッフに促された。


 会場に行こうとしたとき、少女が少年を呼び止めた。振り返った彼は、彼女が駆け寄って来るので待った。


「るいくん、ありがとう」


 少女はそう言って、少年の頬に口づけた。少女は天使のように微笑み、両親のもとへ戻って行った。


 少年は真っ赤になり、呆けて口づけられた頬を触り続けた。


 これが結婚式で起きた、小さな恋の物語……(?)。












「由理、ほっぺにキスはまだ早いだろ!」

「悟志さん、落ち着いて!」




ちなみにこのときの拓也は『悲しみの少年』後の彼でした。


由理ちゃん、将来魔性の女になりそうな予感……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ