悲しみの少年
二話連続投稿。
短いですが、きっと皆さん気になっていた、彼のお話。
僕にとって今日は失恋記念日だ。恋焦がれていた初恋の人に振られた。
いや、振られたって言葉は正しくない。思いを告げる前に、あの人は他の男のものになった。その男は誰でもない、自分の大好きな叔父だ。
僕の予定では、第一志望の大学に合格し、一人暮らしを始めてあの人に頻繁に会いに行く。同じ分野に興味があるということを最大限に利用して、もっと仲良くなるはずだった。そして自分の気持ちを素直に伝える。断られるだろうけど、告白だけはするつもりだった。
そんな生活を夢見て、僕は勉強に励んだ。毎日休まず、年末年始も必死に勉強を続けた。
そのおかげで無事志望校に合格した。僕は驚きとともに歓喜に沸いた。模試でもA判定が出たことはないから。
だからこれは夢なんじゃないかと、疑って頬をつねってみたら痛かった。
家族も喜んでくれ、新しい生活の準備を始めようとした。一人暮らしするから、これから大変だな。
そんなことを考えていたちょうどそのとき、さっきまで喜んでいた母が唐突に言った。
「そうそう。少し先の話だけど六月のこの日、あけておきなさいね」
「え、何で?」
次の言葉に、僕は衝撃を受けた。
「慎也くんとラナちゃんの結婚式なの」
「えっ……」
叔父さんと、あの人の、結婚式……。
僕は頭が真っ白になった。それでも何とか言葉を発する。
「う、嘘だろ。だってそんな素振り、一つも……」
「拓也には意図的に隠していたからね。受験前にショックを受けたら駄目でしょう?」
やはり母は知っていたのか、僕の気持ちを。
気を使われていたんだ。僕が勉強を頑張っていたころには、既に結婚は決まっていたのだ。そんな……。
母は気落ちする僕の肩をポンと叩いた。
「つらいかもしれないけど、こればかりは仕方ないわよ」
呆然としながら、僕は自分の部屋に籠った。ベッドの上で膝を抱えて項垂れた。
何でだよ……。せっかく合格したのに……。これから素直になって、仲良くなるはずだったのに……。
僕は泣いた。ご飯も食べずに一日中泣きまくった。
気が済むまで泣きじゃくり、ようやく決めたのだ。式までに叔父とあの人をちゃんとお祝いできるように、二人を前にしても平気な顔をしていられるように、頑張ろう。
大学が始まり、新しい生活に慣れるのが精いっぱいで、無我夢中だった。
でもふと気づいたときには、あの人のことを考えている自分がいた。
あの人の顔を頭を振って追い出し、僕は全然違うことを考えようと必死になっていた。
そして式当日。白のウエディングドレスに身を包んだあの人はとても綺麗だった。
「あ、拓也くん」
僕を見つけ、あの人は満面の笑みが浮かべた。
それを見ると心がズキッと痛んだが、それを押し隠して僕は言った。
「結婚おめでとう。叔父さんのこと、頼むよ。叔母さん」
「お……叔母さん?」
僕の言葉に凍りつき、顔に青筋が浮かんだようだった。
「だって叔父さんの奥さんだから、叔母さんでしょう?」
「そうなんだけど、叔母さんは嫌だ」
「じゃあなんて呼ぶの?」
「叔母さん以外なら何でも」
本当に嫌なんだな。このやり取りがすごく面白い。
これが恋人になったこの人とのやり取りだったら、もっと早く素直になっていれば……などとありえない想像をしてしまった。頭を思い切り振って、その考えを追い出す。
「これからもよろしく。……ラナさん」
僕は精一杯、彼女に笑いかけた。
あなたが好きでした。
僕の初恋でした。
絶対に幸せになってください。
僕の好きになったあなただから、大好きな叔父さんを任せるんだよ。
実らない恋だったけど、あなたのことを思っていたときの僕は、とても幸せでした。
あなたに恋をしたことを、僕は後悔していません。
今はまだ、少しぎこちないけど、ちゃんと平気な顔であなたと話せるようになるから。
だからこれからは、親戚としてよろしく。
初恋は実らないって、本当なんだね――――。
うーん、せつない。
拓也を幸せにしてあげたいが、どうしようか迷走中。
A ラナを思い続けて生涯独り身
B 大学で知り合った女の子と学生結婚
C 社会人になり、年上上司に見初められる
D 生まれてくる(かもしれない)ラナの娘が結婚適齢期まで待つ
E 樫本家唯一の独身、美羅さまとなんやかんやで交際開始
F その他
どれがいいっすかね?




