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ふた皿目 『二人の河童』

 その笑顔には見覚えがあった。

 僕があの時傍にいると誓った女の子そっくりだった。

 純白のワンピースに透き通るような肌の美しさ、唇のみずみずしい艶。その子の面影があるように感じる。

 違いがあるとするなら、太ももまで伸びた手入れが大変そうだった白銀ロングヘアから白銀ショートヘアに変わっていることくらいだ。同級生なら「え、失恋でもした?」と安直ながら聞いてしまうだろう。

 あと身体のあちらもこちらも大きくなっている。うん、なにがとはいわないけどでっかい……。


「あの!僕のこと覚えて……る?」


 良い返答を期待して、恐る恐る聞いてみるが


「いえ?衝撃的な出会いでしたが、今日初めてお会いしますよ?」


 と口角をニコっと上げ彼女は言った。

 他人の空似というやつだろうか。それともドッペルゲンガー的な超常現象……まぁ我々人類からすれば河童自体が超常現象みたいなものだが……


「そ、そうだよな!いやぁ僕も『初めてだよねぇ』って言おうとしたところなんだよぉ!うんうん!」


 なんか気恥ずかしくなって思考を読まれないように大げさに誤魔化してしまった。こんな茶番を見せられても彼女は綺麗な水色の瞳でこちらをみて笑顔を崩そうとはしなかった。


「あの、よろしければお名前を伺っても?」

「ああ。僕はショウリだ」

「し、しゅうりぃさん?」

「いやショウリだ」

「し、しううりさん?」

「だから!ショ・ウ・リ……ってもういいや。ウリって呼んでくれ。みんなも昔はそう呼んでた」

「ウリさん!いいお名前ですね!」


 なんなんだこの女は。まさかここまで運ばせた仕返しに困らせようとわざ間違ってるんじゃないよな……

もしかしたら河童には発音できない言葉なのかもしれない。そう考えると僕の名前ちょっとかっこいいかも!なんか特別感ある気さえする!


「ウリさんはどうしてあんな場所で遊んでいたのですか?晴れて水流が穏やかな日和とはいえ危険ですよ?実際おぼれて気絶していましたし熱まで出ていたのですから」

「いや、あれは違うくて!大家さんから逃げている途中でウリ2世が壊れて……」


 そうだ。我が相棒ウリ2世はどこへ行ったのだ?鉄塊と成り果てたとはいえ、修理さえすればなんとかなるはず!


「ウリ2世?それはどういう……」

「僕の相棒、自転車だよ!近くになかったか?!」

「ああ自転車なら残念ながら流されていきましたよ?ついでにお財布とタバコの箱も」

「えええ?!なななんで止めてくれなかったんだよ!」

「ごめんなさい。大切なものだったのですね。しかし人命最優先ですから!」

「ぐっ!」


 それを言われては返す言葉も見つからない。川に落ちたのは僕のミスだし、なんなら逃げることになったのも日ごろの自分のミスの積み重ねだ。助かったのだ、多くは望むまい。


「そういえば君の名前をきいていなかった。なんてなま……」


ガタガタン。

 名前を聞こうとした時、奥の部屋の暗闇から物音がだんだん近づいてきた。


「我が娘リツよ。いい盆さばきだったぞ。また腕を上げたなバカ野郎」

「へー、リツっていうのか……い˝ッ?!」


 不覚にも二度見をしてしまった。

 そこには顔面に銀色のお盆がめり込んだ状態で、穴の開いたふすまを開け、ぬっと出てくる緑のUMAがいた。ビジュアルが怖すぎてこれが海外ホラー作品ならマグナムをぶっ放しているところだ。

 なんせオヤジさんのことはすっかり忘れていた。そりゃびっくりもする。悪いとも思うが、こちらもそれどころではなかったのだ。

 そしてあのとき一瞬見えた銀と白の閃光は、僕を怒り狂ったオヤジ河童の魔の手から救うために高速で振るわれたお盆とリツの手だったんだなと合点がいった。

だが、同時に疑問も残る。


「改めまして、私たちは河童の一族です」


 二人の河童は、部屋に用意された昔ながらの丸いちゃぶ台を僕との間に挟み向かい合う形で座っている。

 二人の河童……僕がずっと引っかかっているのはここだ。なぜ父は完全な河童で、娘は美少女なのだろうか。1世代で進化が起こったのだろうか。気になる。

 しかし、これもまた父河童の地雷を踏み抜くのではなかろうか。もし複雑な家庭の事情があるならば無配慮に聞くべきではない。それは河童も人間も同様なはずだ。


「なんで親子で見た目が違うんだ?」


 気づくと口は勝手に動いていた。こんなものを目の前に好奇心が抑えられるわけはなかった。


「……」


 変な間が空く。やはり河童の地雷だったか。


「ああああの、別に答えたくなかったら……」

「いや、これただの着ぐるみですよウリさん」

「なんだ着ぐるみ……ふぇ?」


 変な声が出た。着ぐるみ?あの、遊園地なんかでバイトの人が熱中症になりながらも子ども達の夢のために脱ぐことができない地獄であるところの、あの着ぐるみ?


「ちょっと待って考えがまとまらない……なんでまた着ぐるみなんか着てらっしゃるんでしょうか?」

「それは私が説明しますね」


 リツが丁寧に語り始めた。


「私たちは確かに河童の一族なんです。昔からこの土地では河童信仰が根付いていて、皆さん私たちを大切にしてくださってます。でも私たち河童は普通の人には見えないのです。子どもや敏感な方には見てもらえることもあるのですが」 


 普通の人には見えない……?それなら僕は普通ではない、異常ということにならないだろうか?いまいち容量がつかめない。


「まて。ならなんで僕には見える?」

「それはわかりません。ウリさんが敏感な方なのかもしれませんね。見える方はいいのですが見えない方はお祈りするときがっかりしてしまいます。そこで……この!河童スーツなのです!」


 そう機嫌よさそうに血行のよい口角を上げながら、自信満々に彼女はオヤジ河童の頬を引っ張った。


「先ほどは都合上、着ぐるみと呼びましたが、私たち河童一族に伝わる伝統衣装みたいなものなんです」


 僕にはどこからどうみても本物にしかみえなかった。まぁ比べようにも河童の本物もなにも見たことはないのだが……伝統ということは古代から受け継がれてきたのだろうか。それにさきほどオヤジ河童が激怒していたとき皿は沸騰し汗も出ていたし合点がいかない。


「よだれ、垂れてますよ?」


 まさかの告白に知らず知らずのうちに口があんぐりオープンし中身が垂れてしまっていたらしい。

 その垂れた聖水をぬぐうのをみて、リツは微笑んだ後立ち上がり、僕の隣に座り話を続ける。


「思い出してください。あの川でウリさんが見たのは私なんですよ?ほら今は肌も緑じゃないしお皿だって乗ってないでしょ?」


 そういいながら僕の手を取り純白の肌を触らせたり、艶やかなその白銀の髪を撫でさせたりした。僕が思春期男子でなかったことを有難く思ってほしい。10年前なら好きになっている。いや精神年齢は昔とそんなに変わっていないかもしれないが……

 だがなぜか僕の中には女性に抱く欲情も恋愛という二文字は出てこなかった。


「わ、わかったってば……」


 彼女の手をどける。なにも照れたわけではない。だんだんオヤジ河童の貧乏ゆすりが激しくなっていたからだ。


「つまり見えない身体を見せるためにそのリアル衣装が必要と」


 それはこの地域の人は河童を見たことがあるということなのだろうが、なんでニュースにならないんだ?


「あ~ウリさん、まだ疑ってますねぇ」


 疑ってはいない。ただ僕にしか見えない身体も河童のリアルスーツも自分しか証人がいないのだからすんなり呑めるわけもない。


「ではいい考えがあります」

「え、いい……考え?まだなにか秘密があんの?」

「へへ、今から河童スーツの実力を見せてあげます!お外に出かけましょう!」


 なるほど。確かに証人が僕の他にもいれば呑むしかなくなる。

 出かけるのはいいが、正面の親バカな河童は許可するだろうか。


「行ってきますね!お父さん!」

「……ああ。晩飯までには帰って来いよバカ野郎」

「え、いいのか?」

「二度も言わせんなバカ野郎」


 意外な反応だった。先ほどの荒ぶり方から「出かけるぅううう?!許さねぇぞバカ野郎ぉおおぉお!」と河童スーツから蒸気を出して激昂すると思ったが、案外すんなりいった。


    ***


「まずはどこに行きましょうか!」

「ああ、人前で歩いているだけでも検証になるからこのまま適当で……」


 高校でも馴染めず一人小説を書いてきた。そんな僕が女性と並んで歩くなんて想像できただろうか。喜ばしいことだ。人生生きてればいいこともあるもんだ、と純粋に喜べれば良かったのだが……

 隣をみるとそこには先ほどまでの美少女の面影は皆無なただの緑のUMAがいた。身長は自分より五センチほど低いだけだから常に緑が視界に入る。ただ、声は異常にかわいかった。なんだこのギャップ萌えは。


「お昼は皆さん出かけていますね」


 真夏の太陽に熱された道路には誰一人として見当たらない。

 こんな田舎だ。大人は仕事で都会に行っているのだろう。僕を除いては。

 こういう暑い日はクーラーの効いたオフィスでデスクワークも悪くないのかもしれない。


「あ!あの駄菓子屋に行きましょう!」


 リツに手を引かれ駄菓子屋の扉を元気よく開ける。

 土間に商品棚がおかれていて、品ぞろえも昔から変わっていないように見て取れる。

 そう、僕はこの駄菓子屋を覚えている。まだ母が生きていた時、仲良し四人組でよくここのロング棒黒糖風味という謎駄菓子をなけなしの小遣いで買って分けて食べた。確かにおいしいが僕が都会に出たあと、どこのコンビニに行っても見かけることはなかった。


「あ!かっぱさまだ!かっぱさま遊んで!」

「ちょっとダメだよ!かっぱさまは皆のために忙しいんだから!」

「かっぱさまこれ食べてみて!おいしいよ!」


 中では三人の子どもが駄菓子を食べており、リツをみつけるなり取り囲み口々にしゃべり始めた。

 人生で初めて河童と一緒に出かけて、初めて会った人間。反応をみるに以前から慣れ親しんでいたように感じる。


「あれ、これはこれは河童様。今日はお買い物ですか?」


 駄菓子屋の店主のばあさんが奥から顔を出した。このばあさんも覚えている。昔からばあさんなばあさんだった。


「おばあさん!こんにちは!今日はちょっとこの方に町の紹介ついでにお散歩しようかなって!」

「ほうほう。そうですか。暑いのでお気をつけくださいませ。どうぞ、そこのラムネでも持って行ってくだされ」


 そんなばあさん店主はどうやら僕のことは忘れているようだが、僕もさっき昔のことを思い出したのだ。人の記憶なんてまぁそんなもんだろう。


「そうじゃそうじゃ。これ取り置きしときましたよ」

「ああこれ!ロング棒黒糖風味!ありがとうございます!」


 ばあさんは奥の棚から紫と銀色のフィルムに包まれたとにかく長い駄菓子を出してきた。なんだこいつもそれが好きなのか。懐かしい。



 

「またね~!」

「かっぱさまばいばーい!」


 子ども達に見送られながら僕たちは戦利品のロング棒黒糖風味とラムネを手に持ちまた少しはマシになった灼熱を歩きだした。


「いい人たちですよね。この町の方々」

「ああ。そうかもな」


 微笑みながら彼女は言う。

 確かにいい人たちでいい町なのだろう。ただ何故か自分は素直に頷けずにいた。

 それはこの町で死んだ母のことがあるからだろうか……いや、それ以前に何か忘れているような……


「今度はウリさんのこと聞かせてくださいよ」

「え?」


 急に自分のことを振られて不意を突かれた。そういえば僕のことはあまり話してはいなかった。


「私たちのことも知らかったですし、最近引っ越してきたのですか?」

「昔はここに住んでいたが二年前に親せきの家がある都会から引っ越してきたんだ」


 そう二年住んでいるのだが河童信仰の噂など全く知らなかった。どれだけ自分は人付き合いをおろそかにしてきたのかが伺える。


「今は売れない小説を書いて生活している」

「えー素敵ですね!」


 素敵?素敵なものか。そんな素敵が大家に追われたりはしない。


「でも、なんでここにまた引っ越してきたのですか?」

「それは……」

「あれ?もしかしてウリ……か?」

「え?うそ……ウリなの……?」


 彼女の質問に答えようとした時、僕らの進行方向から男女の声がしてきた。

 短髪茶髪の大学生風の男と長い髪にウェーブをかけた今風な女。

 僕はこいつらを知っている。

 これはあれだラスボスの魔王だ。きっと。


「え?!う、ウリさん?!」


 気づいたとき僕は振り返り全力で走っていた。 

 リツが声をかけたような気がしたがそれはどんどん過去になっていく。

 僕の足を止めれるものは誰もいなかった。


【作者からのお願い☆】

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作者は小説ほぼ未経験、初投稿なので優しく応援していただけるととてもうれしいです!


気に入っていただけましたら

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