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二日目−2

 景色に見飽きて人間観察なんて高尚なことをしていたら居眠りをしてしまっていたようで、何度も繰り返されるアナウンスと人々の足音で意識が浮上する。早起きしすぎてしまったかと寝起きの硬い表情筋で苦笑した。一度意識を手放したことで鉛にでもなってしまったかと思うほど重たい瞼をこじ開け辺りを見回すとどうやら電車は既に目的の駅に着いていて、今は乗り合わせのために十分ほど止まっている最中だったようだ。これ幸いと電車を降り、まだ夢の中かと思うほど地につく感覚のない足で改札を出る。存外大きい駅だったようで人の多さとその広さに圧倒された。何一つ見覚えは無いものの、看板とスマートフォンを頼りに右往左往していたことだけを思い出した。どうやら私は方向音痴というか目的地へ行くまでの下調べをよくしない人間だったようで、思い出した光景は一つや二つではなかった。

 来てみたはいいものの、行き当たりばったりでここを目的地にしていたものだから次はどうしようかと途方に暮れる。このままここにいたら人が増えてきて不審がられてしまうだろうしと考えを巡らせていると、先ほどの記憶と紐付いてショッピングモールがあったことを思い出す。幾度となく来ていた気がすることから、どうやら私はこの辺りに住んでいたらしいと推測する。しかし、今はそんなことどうでも良いのだ。せっかく朝の人の少ないショッピングモールだ。一人ファッションショーでもしてみたいではないか。と思った矢先にまた一つ記憶が蘇る。どうやら私はファッションが好きだったようで、ランウェイを堂々とした足取りで進むモデル達に羨望の眼差しを向けていた、その妬みや羨みや尊敬の入り混じった感情が一つになって流れ込む。今更羨んだところでどうしようもないわけだが、諦めるというのは難しいことだった。



 徐々に人の増えてくる建物内を脳内BGMと共に闊歩する。曲は……そうだ、軽快なアコースティックギターがメインのものにしよう。重要なことは何一つ覚えていないのに、こんなどうでもいいことは覚えているなんておかしな事だと、本日二度目の苦笑いと、一度目の溜息を小さく漏らした。

 歩くのはもちろん一人ファッションショーなんて幼稚なことのためじゃなく、記憶を呼び起こすためだ。単純にもどうやらこの場所は思い出深い場所のようだから、見て回っていれば何か思い出すかもしれないと考えたわけだ。ショッピングモールの店舗などすぐに入れ替わるし、一番新しいこの場所の記憶から季節二つ分以上は経っているが、何もしないよりはマシだと言い聞かせて大きく足を動かす。探偵物のお話のように、手掛かりがその辺に落ちていればいいのにと口には出さず呟いた。

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