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悪夢と死

作者:

相田隆は社会不適合者だ。34歳になるが、社会人経験は20歳の時に1度、1年間正社員して働いた事があるがそれっきりで、それ以外の期間は全てアルバイトで生計を立てていた。

彼は昔から人と交流する事が苦手だった。人の目を見ると恐怖心が湧き上がり、顔を伏しながら話す事しか出来ないのだ。164cmの小柄な身体に加えて、声もボソボソとか細く話す臆病な性格だった。

そんな性格をしているため、どこで働いても皆の輪に入る事が出来ず、疎外感を感じていた。彼の友達はお酒だけだった。


「ふぅ・・・疲れた・・・」今日も派遣で工場のアルバイトに耐え、日銭を稼いだ相田は築50年、家賃3万のアパートに帰ってきた。風呂無しのため、近くの銭湯に行かないといけないが面倒臭さが勝ち、そのままコンビニで買ったビールとつまみを開けテレビをつけ、死んだ目で食事を始めた。

彼の視線はテレビ画面に向けられているが、その目は実際にはテレビを見てはいなかった。ただ、薄ぼんやりした意識の中でテレビを見ながら食事をしていた。


食事中にビールを4缶空け、良い感じに酔いがまわってきたところで布団の上に身を投げた。彼はこの瞬間が大好きだった。お腹いっぱいになり、酔ってあとは寝るだけ。それが彼の唯一の幸せだった。

横目でテレビ画面を見ながら、うつらうつらと眠りに落ちていった・・・。


ピンポーン。

「ん・・・」チャイムの音で目が覚めた。まだ夜が明けていない、真っ暗だ。「誰だ・・・こんな夜中に・・・」目を擦りながらドアを開けた。・・・そこには誰もいなかった。

「なんだ・・・?」薄気味悪さを感じたが、自分が寝ぼけていただけかと思いドアを閉めた。そのまま布団に戻り再度眠りにつこうとした。


ピンポーン。

・・・またチャイムが鳴った。(・・・今度は気のせいじゃない・・・)彼はイタズラかと思い、ガバッと布団から起き上がり、今度はドスドスと音を立てながら足早にドアを開けた。

「誰だっ!」怒鳴りながらドアを開けたら、そこには見たことの無い男が立っていた。170cm程の痩せ型で、20歳くらいだろう。眼鏡をかけ柔和な表情の爽やかな青年だった。

「はじめまして。突然すみません。実は・・・初めて見た時から貴方を凄い方だと思っていました。良かったら友達になってください」そう言いながら笑顔で手を差し出して来た。相田は彼とは初対面だったが、悪い気はしなかった。差し出された手を握り「ありがとう。ぜひ友達になろう」と言った。

青年は大層喜び、「ありがとうございます。もしよければこのまま上野に行きませんか」と尋ねた。相田は二つ返事でOKした。


上野に着いた2人は大はしゃぎで観光した。滝を眺めながらパンダ焼きを食べ、スカイダイビングをしてから食べ歩きをした。相田は幸せだった。こんなに楽しいのはいつぶりだろうか。まるで、青年がずっと昔からの親友のように感じられた。

「ああ楽しい。こんなに楽しいのは久しぶりだよ。君と友達になれて本当に良かった」「僕こそ相田さんと友達になれて嬉しいです。今度はあっちに行きましょう」「もちろんだよ」


パンッッ!!


音が響いた。

ビシャッ

真っ赤な液体が顔にかかった。

「・・・血?」

横を見ると、青年の頭が吹き飛んでいた。

「・・・え?」


いつの間にか上空を軍用ヘリが埋めつくしていた。そこから兵隊が降りてくる。(あれはあの国の敵兵だ!!)

敵兵は銃を乱射して近くにいる日本人を見境なく射殺している。相田はパニックになって必死に走って逃げた。(怖い怖い怖い怖い怖い!!!)恐怖のあまり叫び声を上げながら必死に走った。

すると、道路にドアが1つ立っているのが見えた。相田は無我夢中で駆け寄りドアを開けて中に入った。


「どうしたんだ?隆」ドアの向こうは病院だった。両親が心配そうに相田の事を見つめていた。

「どうしたの?何か怖いことでもあったの?」母が心配そうに尋ねる。

「・・・いや、なんでもないよ」

「・・・そう、ならいいけど」

両親と会うのは久しぶりだ。もう何年も会っていない。会えて嬉しかった。

両親の腕には注射器が刺さっていた。

「2人とも・・・その注射器はどうしたの?」

「ああ、これか。お父さんもお母さんも病気でな・・・最後に隆に会えて嬉しいよ」

「え?」

ドサッ

2人が倒れた。

「父さん!母さん!!」相田は2人を抱きしめた。

「隆・・・ありがとう」「隆・・・元気に生きるのよ」

2人に優しい言葉をかけられた相田は、涙を抑えられなかった。

「2人とも・・・ありがとう。大好きだよ・・・」

相田がそう言うと、2人は笑顔で息を引き取った。

「う、ううぅ・・・」

2人を抱きしめながら泣いていると、いつの間にか病室の真ん中にドアが1つ立っていた。

相田は2人の遺体を優しく床に置くと、ドアを開けた。


ドアの向こうは真っ暗な部屋だった。彼は部屋に見覚えがあった。「この部屋は・・・実家の俺の・・・」


コンコン。


ノックの音が、響いた。

「誰だ!!」相田は叫んだ。

ガチャリ・・・

ドアが開く。相田は身構えた。


「・・・おばあちゃん・・・」

ドアから顔を出したのは、相田が幼少期に病死した祖母だった。

祖母はゆっくりとした歩みで相田に近づく。ゆっくりと、ゆっくりと。

相田の前に立った。

「・・・ばあちゃん」その表情は記憶の中の、優しい祖母と全く同じだった。・・・大好きな両親と祖母との再会に相田は幸福を感じていた。

祖母が口を開いた。


「隆、昔から思ってたけどあんたは本当にどうしようもないね。ずっと人の目を見て話すことも出来なければ、本当はみんなの輪に入りたいのに入れなくて他人を恨んでばっかり。あんたなんてなんで生まれてきたんだい」

「あ、あああああぁあぁ!!!」

愛する祖母からの突然の罵詈雑言に混乱した相田は彼女を抱え上げ、窓から外に投げ出した。

投げ出された祖母は、そのまま遥か奈落に落下していった。

「はっはっ、は、はっ」呼吸が上手く出来ない。汗が止まらない。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い


コンコン


ノックの音が、響いた。

相田は硬直した。

ガチャリ・・・

ドアが開く。


「あ、あ、ああぁぁ・・・」

ドアから顔を出したのは祖母だった。

恐怖のあまり動く事が出来なかった。

祖母はゆっくりと・・・相田の前に立った。


「隆、昔から思ってたけどあんたは本当にどうしようもないね。ずっと人の目を見て話すことも出来なければ、本当はみんなの輪に入りたいのに入れなくて他人を恨んでばっかり。なんで生まれてきたんだい」


相田は祖母を掴むとそのまま窓の外に放り投げた。

見ると、さっきと同じく落下していく祖母の姿が見えた。(この部屋にいたらだめだ!!!)そう思い逃げようとドアを開けた。


ドアの向こうは薄暗い一本道の廊下になっていた。突き当たりが角になっている。

・・・曲がり角の向こうからから足音が聞こえる。


相田は動けなかった。足音が近づく。

・・・曲がり角から祖母が歩いてきた。


「ああああああ!!!」

バタンッッ!!!

相田は絶叫しながらドアを閉めた。何が起こっているのか分からなかった。


コンコン


「!!!」

(来る・・・ばあちゃんが・・・化け物がくる・・・)


相田は叫び声を上げながら、窓の外に身を投げた。


ガバッ!!!

目を覚ますとそこは見慣れた部屋だった。身体中汗でびっしょりだった。

「う、ううぅああぁぁ・・・」

涙が止まらなかった。


この日の悪夢から相田は睡眠障害にかかり、それから間もなく、首を吊って自殺した。



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