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経済の話

ペロブスカイト太陽電池 マクロ経済から考えるその有効性について

 ■はじめに

 

 2024年12月1日、中国政府は太陽電池(及び、関連製品)に適用する輸出税の還付率引き下げを行いました。これは実質的に太陽電池の値上げを意味します。

 ある人は、これに対してこのような主張をしました。

 「極端な安売りで日本の太陽電池産業を滅ぼし、中国製の太陽電池を買わざるを得ない状況にまで追い込んでから太陽電池の値上げを行う、中国の卑怯な策略だ」

 もしかしたら、その様な一面もあるのかもしれません。ですが、そうだとすると、腑に落ちない点があります。シリコン製の太陽電池は確かに日本国内では淘汰されてしまったと表現しても過言ではない状況ですが、2025年から、日本ではペロブスカイト太陽電池の製品化が始まるのです。

 “日本の太陽光発電産業を滅ぼした”

 という表現は少しばかり語弊があるのではないでしょうか?

 日本政府はペロブスカイト太陽電池をプッシュしていますが、この中国製太陽電池の値上げは間違いなくその追い風になります。

 (個人的には、中国は現在、財政状態が非常に悪いですから、少しでも改善する為にこのような事を行わざるを得なかったのではないか? と予想しています)

 ――ただし、中国がペロブスカイト太陽電池を“敵ではない”と考えているのであればその限りにあらずです。多少値上げしても、中国製の太陽電池の牙城は崩せないと考えているのかもしれません。

 実際、ペロブスカイト太陽電池については悪い噂も耳にします。例えば、以前は耐用年数20年を目指すとされていたのに、結局、2025年の販売までにそれは達成できず、10年程度とされています(一応断っておくと、実証実験はできませんから、本当に10年なのかどうかは分かりません。もしかしたらそれよりも短いかもしれませんし、長いのかもしれません)。

 耐用年数10年では、ペロブスカイト太陽電池は高級太陽電池になってしまいます。

 これでは、国産贔屓以外の理由で、中国製の太陽電池の代わりにペロブスカイト太陽電池を設置する意味はないように思えます。

 が、しかし、それでは日本製のペロブスカイト太陽電池を設置するメリットがないのかと言うとそんな事もありません。何故なら、日本が主に製造をしているフィルム型ペロブスカイト太陽電池には、弱光下でも発電効率がシリコン製の太陽電池よりも下がらず、場所を選ばないという優れた特性があるからです。

 つまりは、今までシリコン製の太陽電池では設置できなかった場所に、フィルム型ペロブスカイト太陽電池は設置可能という事です。

 これにより、陽当たりが良く平らで面積が広い場所には従来通りのシリコン製の太陽電池を設置し、それ以外の場所には、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を設置するという棲み分けが考えられるのです。

 そして、この場合、シリコン製の太陽電池とは競合しませんから、やはり中国にとってフィルム型ペロブスカイト太陽電池は脅威ではなくなります。中国が太陽電池の値上げを行った意味も理解できるように思えますね。もっとも、本当に中国がこのような事を考えているのかどうかは不明ですが。

 

 ――さて。

 世間には太陽電池反対派の人々がいます。そういった人達の中には、ペロブスカイト太陽電池も否定したがる人もいるのですが、正しい情報を仕入れていなかったり、分析が甘いケースが少なくありません。特にマクロ経済的な視点を理解せず、ミクロ経済の視点からばかり評価してしまっている人が多い印象があります。そこで、このエッセイでは、マクロ経済的な観点からペロブスカイト太陽電池の有効性を説き、その誤解を解消していきたいと思います。

 まずはペロブスカイト太陽電池の基礎知識から説明をします。

 

 ■ペロブスカイト太陽電池

 

 ペロブスカイト太陽電池とは、その名の通り、“ペロブスカイトの結晶構造”を持つ化合物を用いた太陽電池のことです。軽く薄く柔軟性があり、前述したように弱光下でも発電効率を下げないという特性があります。また、製造コストが安く済み、日本国内で主な材料の調達が可能でもあります。この点は、マクロ経済を考える上でも重要になります。

 ただし、耐用年数が短く、毒性があるので廃棄やリサイクルのコストも考慮に入れると、製造コストが安いと言っても、現段階ではペロブスカイト太陽電池運用全体でのコストは決して安いとは言えません。もっとも、これらの点はペロブスカイト太陽電池の交換技術の発展や、廃棄・リサイクル技術の進歩である程度はカバーできるようになるかもしれません。どんな商品でもそうですが、スタート時点ではコストがかかるのが普通なので、現段階でトータルのコストが高い点を問題視し過ぎるのは、少々、性急に過ぎるでしょう。

 ペロブスカイト太陽電池は、大きくガラス型とフィルム型に分かれます(タンデム型もありますが、これはシリコンと組み合わせたタイプなのでここでは扱いません)。

 ガラス型は、耐性に優れ、ガラス製品の代わりに設置できるなどの特性がありますが、製造コストがかかります。それに対しフィルム型は耐性では劣るものの、柔軟性に優れているので、より幅広い場所への設置が可能で、製造コストも安く済みます。

 ガラス型はコストがかかり、設置場所が制限される点を考えるのならば、ペロブスカイト太陽電池としてより期待値が高いのはフィルム型ではないかと思われます。

 一部、ペロブスカイト太陽電池においても中国が先行しているといった報道が為されていますが、中国で先行しているのはガラス型の方で、より期待が持てるフィルム型では日本の方が進んでいます。その為、日本企業が競争力という点で特に劣っているということはありません(もちろん、今後の展開次第ではありますが)。

 

 ■マクロ経済でのペロブスカイト太陽電池の価値

 

 現在、ペロブスカイト太陽電池、特にフィルム型の方は技術開発が盛んに行われている最中ですから、現在の評価で導入の利益性を説くのは時期尚早かもしれませんが、それでも敢えて評価するのなら、民間企業や個人が積極的に活用するには少々ハードルが高いように思えます。

 が、それは飽くまでミクロ経済的視点での評価です。マクロ経済から評価するとまた違った景色が見えてきます。

 まず、マクロ経済的な観点から考える為にGDPの計算式を見ていきましょう。GDPの計算式は、以下になります。

 

 消費+投資+政府支出+(輸出-輸入)

 

 ペロブスカイト太陽電池の生産を、消費とするのか投資とするのか(解釈次第でどちらにも取れます)は別問題にして、絶対にプラスになるのは分かると思います。ペロブスカイト太陽電池には政府が補助をしてもいますが、もちろん、これは政府支出に含まれます。また、ペロブスカイト太陽電池を用いて電力を生産すると、原油や天然ガスといった化石エネルギーの輸入が減るので、これにもGDP増加効果があります。

 因みに化石エネルギーの輸入額は20兆円~30兆円にもなります。ペロブスカイト太陽電池でどれくらいの電力が生産できるようになるのかは分かりませんが、無視できない規模になるのは確かでしょう。

 ここでちょっと疑問に思った人もいるかもしれません。ペロブスカイト太陽電池を作るのにお金がかかっているのだから、その分でマイナスになってしまうのではないか?

 実はその点こそが、マクロ経済とミクロ経済の重要な違いなのです。

 仮にあなたが、何か商品を買うとしてください。あなたの財布からはお金が減ってしまいますが、そのお金は販売者の手に渡るので社会全体では富の増減はありません。当然、ペロブスカイト太陽電池についても同様の理屈が成り立ちます。つまり、ペロブスカイト太陽電池を買うようになったとしても、それで社会全体のGDPが衰えるような事にはならないのです。

 いえ、実はそれが新しい生産物であった場合は、増減がないどころかGDPは増えるのですが(この点は後に説明します)。

 ここで、以下のようなプロセスを考えてみてください。

 政府が増税を行ったとします。このままでは、国民は収入が減って消費を行えなくなるので、GDPは減少してしまうように思えるかもしれません。が、増税して得られた税収で、国が何か生産物を消費したとするのなら、GDPはマイナスにはなりません。仮に国民がお金を消費に回さないような状況下ならば、政府がそれを奪って支出を行った分だけGDPは増えます。政府がプロセスに加わってはいますが、理屈自体は先ほどと同じです。

 これは“均衡予算乗数の定理”などという何だか難しい名で呼ばれている経済理論です。ですから、国がペロブスカイト太陽電池を買えば、買った分だけGDPは増えるのです。もちろん、国内の企業からという前提ですけどね。ペロブスカイト太陽電池は主な材料を国内で調達できるので、その点でも優位性があります(もっとも、ペロブスカイト太陽電池以外の部品は、やはり輸入しなくてはならないでしょうが)。

 国がペロブスカイト太陽電池を買えば、社会全体のGDPを増加させられるのです。

 このように、ミクロ経済…… 民間企業や個人ならば、ペロブスカイト太陽電池の導入はハードルが高いかもしれませんが、国全体で捉えるのであればそんな事はないのです。

 更に“増税”と書きましたが、今までの考えを応用すれば、実質、増税の負担なしでペロブスカイト太陽電池の生産が可能な方法があります。

 次にそれを説明しましょう。

 

 ■国民の負担をなくす普及方法

 

 今までの説明で疑問に思った人もいるかもしれません。先の理屈が無条件で成り立つのであれば、

 「国が増税をしまくって、何か生産物を買いまくれば、GDPが増えるじゃないか!」

 となってしまいます。

 もちろん、そんな事はありません。

 何故なら、今まで話して来た理屈からは、“資源と技術力とそれらを活かす為の社会体制”という条件が抜け落ちてしまっているからです。

 時折、「国はお金をいくらでも増刷できるのだから増税も借金も必要ない」といった趣旨の主張をする人達がいますが、それが暴論である理由も同じ理屈です(経済学の数式ではこのような条件を表現する事が難しいので、勘違いをしてしまっている人が多いのではないかと思われます)。

 当たり前ですが、いくらお金を支払ってもペロブスカイト太陽電池を誰も生産できなかったらペロブスカイト太陽電池は得られませんし、GDPも増えません。そして、ペロブスカイト太陽電池を生産する為には、資源と技術力と企業などがそれらを用いて生産・販売するという社会体制が必要なのです。

 もし“お金を刷れば全て解決する”のであれば、どんな発展途上国でも瞬く間に経済成長可能になってしまいますから、本来は考えるまでもない話なのですが。

 ただし、これは逆を言えば“資源と技術力とそれらを活かす為の社会体制”さえあれば経済成長がいくらでも可能であるという事でもあるのです。しかも、それには少なくとも最初の一回に関しては“増税”は必要ありません(それ以降は、収入が増えるので、増税があっても実質的な負担にはなりません)。何故なら、それは経済成長を意味していて、経済成長できるのであれば、成長通貨の発行が可能になるからです。

 “成長通貨”とは、経済成長に合わせて供給される通貨のことです。これは直感的に理解できる理屈だと思いますが、経済成長すると取引量が増える為、通貨需要が増えます。その増えた通貨需要分に対しては、新たに通貨を供給しなければならないのです。

 これを明確に理解できるようにする為に、例え話で説明します。

 米農家があったとしましょう。この米農家にある時、全自動田植え機などで生産性の向上が起こったとします。そして、これにより労働資源が余ったとしましょう。その余った労働力を使って野菜を生産するようにしたなら、野菜を生産した分だけGDPは増えます。これは経済成長を意味していて、その新たに増えた野菜分に関しては通貨を発行しなければならなくなります。これが成長通貨ですね。

 経済成長とは、「生産性の向上で、資源が余り(現代では労働資源が特に重要です)、その資源を用いて、新たな生産物を生産する」事によって起こるのですね。ですから、経済が成長すればするほど生産物は増え続けているのです。洗濯機、冷蔵庫、テレビ、車、パソコン、スマートフォン、AIなどなどと商品の種類が増えているのがその証拠です。

 長くなりましたが、ですから、ペロブスカイト太陽電池に関して、増税せずともこのようなプロセスで、生産が可能になります。

 まず通貨を増刷して、ペロブスカイト太陽電池を生産し、設置を行います。次からは増税を行いますが、ペロブスカイト太陽電池の生産によって収入は増えているので、問題になりません(収入の増減には個人差がありますが、それは税制をコントロールする事で調整が可能でしょう)。

 そして、このような事を行えば、経済成長するので全体的な税収も増えます。現在、日本は借金の影響で通貨安にまで至ってしまっていますが、その状況も改善できます。

 

 ■その他のメリット

 

 経済や環境負荷の軽減以外にも様々なメリットが、ペロブスカイト太陽電池だけでなく、再生可能エネルギー全般にはあります。

 再生可能エネルギーを普及させれば、エネルギー自給率が高くなります。そしてエネルギー自給率を高める事は安全保障上も重要な意味を持ちます。

 原子力発電所はテロの標的にされた場合のリスクが大きすぎますが、再生可能エネルギーにはそれがないのです。特に関西では琵琶湖という巨大な水源の近くに原子力発電所が多数建設されているので本来ならばもっと広く問題提起されるべきでしょう。現代では“AIによるサイバー攻撃”にも警戒しなくてはなりませんが、充分な対策は執られてはいません。そして中国はAI技術の先進国です。

 もし仮に、中国が安全な国であるというのなら杞憂かもしれませんが、少なくともそのリスクは考慮に入れるべきだと僕は判断します。

 また、再生可能エネルギーには戦争を減らす効果も期待できます。

 戦争とはつまりは“資源の奪い合い”ですが、再生可能エネルギーが普及すれば、化石エネルギーの奪い合いが減るのは当然で、また戦争を嗜好する独裁者などの資金源に化石エネルギーはなっているので、再生可能エネルギーが普及すれば、資金源がなくなって戦争を起こせなくなります(参考文献:『戦争と交渉の経済学 クリストファー・ブラットマン 草思社 269ページ』)。

 もし仮にロシアに化石エネルギーがなかったのなら、資金を確保できず、プーチン大統領はウクライナ侵攻を起こせなかったでしょう。

 

 ■おわりに

 

 ネット上などを参照しているとマクロ経済を理解しないまま、ミクロ経済の感覚で経済を議論してしまっている例を多く見ます。

 ある動画で、再生可能エネルギーを普及させると支出が増えて、景気に悪影響を及ぼすといった意見を述べている人がいました。これはGDPの計算式の意味を理解できていないのです。つまり、マクロ経済に関する基礎的な知識がないのですね。

 ミクロ経済と違って、マクロ経済には直感的に理解し難い部分があるので、無理もないかもしれませんが、だからこそ積極的に誤解を解いていく必要があるのでないかと思います。


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