1-9 強制ログアウト
「っ……!」
目を開くと、そこは元の部屋だった。
緊急ログアウトの影響か、頭がズキズキと痛む。
「リリア! 大丈夫でありますか!?」
ニャビィの声。隣のソファーでは、リリアが俯いたまま震えている。
「私……また、魔力を……」
リリアの声が震える。ヘッドセットを外した銀髪が、顔を隠すように垂れ下がっている。
「やっぱり駄目なんです。私には強すぎる力なんて──」
「違うよ」
ボクの言葉に、リリアがゆっくりと顔を上げる。
「あれだけの魔力を扱えるのは、リリアだけなんだ。ただ、まだ道筋が足りなかっただけ」
「でも、私……」
「にゃ! 確かに暴走は怖かったでありますが、わらわにも分かるのです。あの魔力、ただ者ではありませんにゃ!」
「そうそう。普通の魔法使いにはマネできない魔力だよ。だからこそ、もっと訓練が必要なだけ」
「でも、あの人型のバグ……私、何もできませんでした」
リリアの手が震える。魔力暴走の記憶が、まだ生々しく残っているのだろう。
「バグの方が強かったわけじゃない。むしろ、リリアの魔力の方が強すぎたんだ。ワイちゃんの道筋じゃ、制御が追いつかなかった」
ボクは管理画面を見つめながら続ける。
「次は、もっと複雑な制御経路を用意しないとね」
「次、ですか?」
「うん。だってほら、あいつらまだ残ってるでしょ? 結界の歪みも直さないと」
リリアは小さく、でも確かな声で答えた。
「はい。私、もう一度挑戦させてください」
彼女の瞳に、迷いはなかった。
魔力を恐れるのではなく、向き合おうとする強さが宿っている。
「よーし! 次回こそ、完璧なステージを用意するでありますにゃ!」
ニャビィが元気よく飛び跳ねる。その時、デバイスから警告音が鳴り響いた。
「この反応……」
画面には、今までに見たことのないレベルの異常値が表示されている。
結界の歪みは、着実に大きくなっていた。
早急な対処が必要だがこの状況でもう一度幻想世界に向かうのは危険だ。
「カゴメさん?」
「ワイちゃんも、もうちょっと腕を上げないとね」
軽く言葉を濁す。こんな反応値は初めてだ。
次は、もっと大きな戦いになりそうだった。
「そろそろ戻らないと。ヘレン先生に報告も……」
「そうだね。 心配しなくても大丈夫! ワイちゃんが何とかしておくよ、今日はお疲れ様」
リリアを玄関まで見送る。夕暮れ時の空が、彼女の銀髪を優しく染めていた。
「また来週……来てもいいですか?」
「もちろん。定期検査だもんね」
リリアが小さく頷き、背を向ける。その後ろ姿には、もう迷いは見えなかった。
「ご主人様」
扉を閉めると、ニャビィが真剣な声で呼びかけてきた。
「あの異常値、尋常じゃありませんにゃ。これは……」
「ああ、分かってる。でも、リリアとなら──」
管理画面に、また新たな警告が点滅する。
結界の歪みは、確実に広がっていた。
正直、放置は出来ない……。次は確実に対処しなければ取り返しがつかないことになる。